いつもお世話になりありがとうございます。
●●と申します。
件名にある内容について質問をさせて頂ければと思います。
複雑な内容のため、クライアントは弁護士の先生に依頼を
されている案件なのですが、前提や内容によっても回答は
様々であることは理解をしながらも、永吉先生のご意見を
伺いたいと思い質問を致しました。
少し長文となりますが、ご容赦ください。
(前提)
○ 法人Aの役員甲は法人Aの株式を丁度50%保有している。
残り、47%は役員甲とは同族関係のない役員乙が保有し、
3%は役員甲、役員乙と同族関係のない丙が保有しています。
丙は現在、行方不明で連絡が取れない状況にあるため、
総会を開催すると、過半数以上の議決権は役員甲にあります。
役員甲 50%
役員乙 47%
丙 3%(行方不明)
○ 役員甲は交通事故によりH30年の夏に死亡(死亡時まで代表取締役)
○ 役員甲の相続人からA株式の買い取りと、役員甲に対する
死亡退職金の支給を求められています。
※法人Aには役員及び従業員の退職金規程はありません。
○ 死亡退職金の支給を求める理屈としては、甲は生前に
会社が死亡退職金の受け取りとなる生命保険契約を締結し、
30百万円の死亡保険金が会社に入金されました。
この保険が入金されている事実があるので、保険金を
支払えと主張されています。
(質問)
○ 役員退職金規程はないのですが、もし株主提案として
甲の相続人から総会を求められ、決議されると死亡
退職金は支給しなければいけないのでしょうか。
また、支給額も総会の提案内容の額によって決議されると
確定するものなのでしょうか。
今となっては、役員甲が万が一の時に自身に支払う
ために保険を契約していたのか、会社を守るために契約を
していたのかの真意は不明です。
役員甲と役員乙は日頃の経営相談はなく、実質は
ワンマンで役員甲が全てを取り仕切り、役員乙は現場の
仕事に注力していました。
役員乙としては、会社の負債や従業員の雇用を守る意味で
役員保険に加入していたとも考えられ、役員退職金規程が
ないことも理由に、死亡退職金の支給はしたくないと考えています。
○ 株式の買い取りを求められていますが、法人Aは過去、
粉飾決算をしており、5年間の減額更正処分による
手続きが先般終了しました。
よって、死亡時の純資産としては、実質として債務超過の
状態が継続していましたが、役員乙が経営を立て直し、
過去の粉飾決算の是正(税金の還付)、死亡保険金の入金、
2年間の利益の計上などにより、現在の純資産は20百万ほど
になっています。
買取請求の株価は、相続時、合意時のどちらになるのでしょうか?
合意時になると、長引くほど純資産が高くなり不利になるのではとも
考えています。
また、裁判所に鑑定をお願いする様な話にもなっています.
同族間の税務上の株価の高い、低いで税務署と争うケースではなく、
このような会社と株主による買取請求の場合で、裁判所に鑑定を
お願いした場合、一般的に評価される手法(大株主に対して)などは
あるのでしょうか。
DCF法などを採用されると、現在は利益が出ているので
株価が高くなる可能性があり心配しています。
純資産価額がベースになれば、上記の退職金を支給するとしたら、
純資産が支給額だけ減少するため、そこまで高い株価にはならないと
考えており、純資産価額方式を採用されればとも思っています。
裁判所が鑑定を出す場合は、第三者の会計士などに委託されると
思いますが、その場合、株価についてこちらの主張などを伝えることは
できないのでしょうか。
質問についてまとめると
① 退職金の支給について
② 買取時の株価は相続時、合意時
③ 裁判所による決定の際に採用される株価(傾向)
以上です。
考え方や状況などにより、選択する方法などは
変わってくると思いますが、お考えを伺えれば幸いです。
お手数をお掛けいたしますが
宜しくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
>複雑な内容のため、クライアントは弁護士の先生に依頼を
>されている案件なのですが、前提や内容によっても回答は
>様々であることは理解をしながらも、永吉先生のご意見を
>伺いたいと思い質問を致しました。
承知いたしました。
1 ご質問①〜退職金の支給について
>役員退職金規程はないのですが、もし株主提案として
>甲の相続人から総会を求められ、決議されると死亡
>退職金は支給しなければいけないのでしょうか。
>また、支給額も総会の提案内容の額によって決議されると
>確定するものなのでしょうか。
そうですね。
甲の相続人が過半数の議決権を行使し、
株主総会決議されてしまうと権利自体は確定してしまいます。
なお、株主総会自体は、取締役(または取締役会)の
招集の決定が必要にはなりますが、
仮に総会開催がされない場合には、
株主は、(少数)株主権を行使し、
最終的には裁判所の許可の下、開催
することとなります。
2 ご質問②〜株式の評価時点
>買取請求の株価は、相続時、合意時のどちらになるのでしょうか?
>合意時になると、長引くほど純資産が高くなり不利になるのではとも
>考えています。
>また、裁判所に鑑定をお願いする様な話にもなっています.
これが、法的に会社から相続人等に対する売渡請求権が行使されたという
前提であれば、相続人等に対する売渡請求時の評価額となります。
(会社法177条2項)
ただし、単なる合意による買取交渉ということですと、
基本的には合意時であることが一般的です。
現状、相続人が株主である以上、相続時とする
根拠がないからです。
3 ご質問③〜株式評価の採用方式
>同族間の税務上の株価の高い、低いで税務署と争うケースではなく、
>このような会社と株主による買取請求の場合で、裁判所に鑑定を
>お願いした場合、一般的に評価される手法(大株主に対して)などは
>あるのでしょうか。
>DCF法などを採用されると、現在は利益が出ているので
>株価が高くなる可能性があり心配しています。
>純資産価額がベースになれば、上記の退職金を支給するとしたら、
>純資産が支給額だけ減少するため、そこまで高い株価にはならないと
>考えており、純資産価額方式を採用されればとも思っています。
>裁判所が鑑定を出す場合は、第三者の会計士などに委託されると
>思いますが、その場合、株価についてこちらの主張などを伝えることは
>できないのでしょうか。
相続人等に対する売渡請求に関する非訟事件として
裁判所に係属しているという前提でいうと、
もちろん、弁護士がその主張をしていき、評価方式の
前提事情としてどのような評価が適切なのかを含めて、
主張していくこととなると思います。
裁判所の鑑定については、裁判所が、評価方式の指定等も
して、専門家に依頼することもあるので、
この辺りは弁護士の戦い方次第だと思います。
ただし、最近の裁判所の傾向からすると、
継続企業を前提とした会社全体(大株主)の評価方式では、
特別な事情がない限り、純資産方式はあまり採用されません。
(純資産は、清算価値に近いので)
継続企業を前提とすると、
基本的には、インカムアプローチが採用され、
大株主の評価方式ですと、DCF法または収益還元法
が採用されることが一般的です。
こちらとしては、純資産方式を採用すべきという
ことであれば、会社の特性や事業構造などから、
より純資産方式が適切であることや、
DCF法などと純資産方式の一定比率の加重平均を
とるべき事案であることなどを主張していくこととなるでしょう。
よろしくお願い申し上げます。