その他

コンサル会社に対する損害賠償請求の可否について

永吉先生

お世話になります。

税理士ではないコンサル会社に対する損害賠償請求の可否について、ご教示下さい。
以下、長文、失礼いたします。

(登場人物)
小売業(法人) A
コンサル会社 B

当事務所は今年の9月より、金融機関の紹介でAと顧問契約を結びました。

Aは現在10期目、債務超過の会社です。

Aは元々、税理士資格のないコンサル会社Bとの間に、記帳代行および財務顧問契約を結んでおり、確定申告に関してはBが提携している税理士へ申告書作成を依頼している状態でした。

顧問契約締結後にAの過去資料を確認したところ、下記の内容が発覚しました。

1.粉飾について
・Aは粉飾決算をしていたが、Aの社長は粉飾の事実を認識していなかった。
・Aの社長から顧問契約締結時に受け取った5年分の決算報告書・勘定科目内訳明細書と、税務書へ提出された確定申告書の控えと一緒に綴られていた決算報告書・勘定科目内訳明細書の内容が相違していた。
・社長からもらった決算書等は、金融機関からA法人の紹介を受けた際に受け取った決算書等と一致していた。
・確定申告書はBと提携している税理士が電子申告をし、その控えを、申告後にAはBからもらっていた。
・金融機関は粉飾の事実をまだ知らない状態である。
・Aの会計はBに丸投げであり、以前から記帳代行を依頼していたが、経理担当者が2回産休となり、その間は経理代行も依頼していた。
・Aの社長は会計に無知であり、そもそも粉飾という行為自体を理解していなかった。そこで今回、粉飾の事実を伝えたところ、「そういえば、Bから融資が通りやすくしておきましたと言われたことがあります」との回答があったが、それがどういうことなのか理解していなかったようである。粉飾はBが良かれと思って勝手に行った可能性が高い。
・経理の内容も適当であり、不明な資金は一切確認をされることはなく、すべて役員貸付金とされていた。
・現金の残高も実際は15万円程度であるにも関わらず、帳簿上の現金残高は当期首の時点で1500万残っていることになっており、おそらく仕入等の支払いで支出していると思われるが、その確認がされておらず、現金として残ったままとなっている。
・粉飾の内容も悪質であり、実際は1億近い債務超過にも関わらず、1000万の資産超過となるよう調整されていた。

2.会計について
・社長の個人名義のクレジットカードのうち、法人の仕入れや経費として使用していたカードが3社あった。
・そのうち、2社については法人の口座から引き落としがあり、残りの1社については、帳簿には計上されていなかったが、引き落とし口座である代表者の通帳のコピーをBへ渡していた。
・上記の個人名義クレジットカードで購入した仕入や経費は、5年以上前から役員貸付金として処理されていた。
・Bに対し会計資料としてカード明細は渡しており、Web明細についてもログインIDとパスワードを伝えていたため、資料の未提供という状況ではなかった。
・クレジットカードの引落し額については、内容を確認されることなく、すべて役員貸付金で処理されていた。
・上記の未払をすべて遡ると、仕入や経費の計上漏れは2000万円ほど生じる見込みである。
・消費税は本則なので、上記の仕入税額控除が計上できれば、5年分は更正の請求で還付が受けられる可能性があるが、そもそも内容が古すぎて仕入時の資料が残っておらず、仕入税額控除の要件を満たさない可能性もある。
・AはBから保存が必要な書類などの指導も一切受けたことがなかった。

3.労働保険について
・Bが労働保険事務組合であったため、AはBの組合で労働保険に加入していたが、3年前にBの労働保険事務組合は解散されていた。
・Aはその事実を知らず、必要な手続きの指南もないまま放置されていた。そのため労働保険に加入しておらず、保険料も払っていないのに、ハローワーク管轄である雇用保険には従業員が加入しているといういびつな状態が続いていた。
・当期に従業員の労働災害が発生し、その手続きをしようと労働基準監督署に問い合わせた際に上記の事実が発覚したため、新しく加入の手続きが必要となり、2年分の労働保険料として100万円払う必要が生じた。
・上記の件についてBに問い合わせたところ、「組合が解散したときに経理担当者へ手続きが必要な旨の連絡をしたメモが残っていたため、きちんと説明している」との回答があったが、当時経理担当者は産休中で出勤していなかったため、説明を受けていないと言っている。

以上が現在発覚している内容です。
実態B/Sを作成し、過去の分も含め資料の整理ができた段階で金融機関に対し、社長とともにすべての内容を説明にいく予定となっております。

Aの社長は自社の実態を知り、相当にショックを受けており、Bに対しても責任を取らせたい意向です。
そこで上記の内容について、Bに対し損害賠償が請求できる内容はあるものでしょうか。
ただしAはBに対する未払金も400万円ほど残っている状態のため、逆に損害賠償請求を受ける可能性もあります。

漠然とした内容で申し訳ありませんが、ご確認のほどよろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>Aの社長は自社の実態を知り、相当にショックを受けており、Bに対しても責任を取らせたい
>意向です。
>そこで上記の内容について、Bに対し損害賠償が請求できる内容はあるものでしょうか。
>ただしAはBに対する未払金も400万円ほど残っている状態のため、逆に損害賠償請求を受け
>る可能性もあります。

2 回答

(1)粉飾について

損害賠償をするには、実際に「損害」が発生していることが
必要です。

現時点で、粉飾について、Aにとっての「損害」が発生しているか
というと大きいところとしては、難しいところです。
あるとすれば、過去の修正等により必要となった税理士さんの
報酬等や過去のBに支払った報酬額等を請求するという形かと
思います。

粉飾の点については、むしろAからBへの損害賠償ではなく、
銀行からAの損害賠償に付随して、Bへ共同不法行為責任を
問えるのかというところとなると思います。

お気持ちもわかりますが、社長である以上は、全く知らなかった
では済まされず、仮にAからBへの損害賠償が認められたとしても、
それが長期間に渡るものであれば、
一定以上の減額がされてしまう可能性も高いでしょう。

また、Bが、そもそも社長が知っており、了承していたという主張をしてきた
場合に、そうではないという証拠があるのかという点も実務上は
問題となるでしょう。

(2)会計について

こちらについても、必要な業務がなされていなかったとして、
報酬額(の一部)や税理士さんの報酬等を損害として請求していくことが
考えられます。

ただし、やはり5年以上前から最終的に社長が承認しているわけですので、
それ相応の減額や社長も知っていたと認定されるリスクは覚悟しなければなりません。

消費税額については、そもそも単なる記帳代行会社である
Bの責任とされるかは、より具体的な経緯と証拠関係によるところかと
思います。どちらかというと当時担当していた税理士さんのチェック漏れ等で
損害賠償をしていくということはあり得るでしょう。
(つまり、記帳代行会社は、税理士ではなく、そもそも税務に関して
生じた損害まで責任を負うかというと厳しい認定をされる可能性が高い
というところです。)

(3)労働保険について

>・当期に従業員の労働災害が発生し、その手続きをしようと労働基準監督署に問い合わせた
>際に上記の事実が発覚したため、新しく加入の手続きが必要となり、2年分の労働保険料とし
>て100万円払う必要が生じた。

こちらの内容について、少々わかりかねましたが、
本来Aが負担する2年分の労働保険料ということでしたら、
こちらについてはそもそもAが負担すべきものですので、
「損害」とはいえません。
(税理士さんが過少申告をしてしまった場合の本税分は
損害にならないのと同様です。)

よろしくお願い申し上げます。