税理士法

記帳代行会社との契約関係について

永吉先生

お世話になります。別件のご質問ではありがとうございました。

税理士、税理士が代表を務める法人(従業員は家族のみ)という構成で、顧問先からの
記帳代行業務を法人に帰属させるにあたっての契約関係についてのご質問です。

日税連では、顧客との関係では税理士が一括して請け負ったうえで、記帳代行業務を法人
に委託するかたちを推奨しているようです。

一方、ネット上で得られた弁護士の記事では、税理士と法人がそれぞれ独立して顧客を
締結すべき、ということが書かれておりました。

それぞれの形態によって、注意すべき点、手当すべき条項などは異なってくるようです。

併せて気になっているのが、日税連の推奨する形態に従い、一括して受けるかたちを
とると、お金の流れが、顧客→税理士→(一部について)法人となりますが、税理士
から法人に流れるお金の必要経費性について疑義が生じる可能性が高まるということを
聞いたことがある点です。それぞれ、独立して顧客から報酬を受領するか、法人から
(一部を)税理士に流すかたちの方が(法務面はともかくとして)税務リスクという
点では安心ということのようです。

契約形態やお金の流れについて、アドバイスいただけますと助かります。
お手数おかけいたしますが、よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>併せて気になっているのが、日税連の推奨する形態に従い、一括して受けるかたちを
>とると、お金の流れが、顧客→税理士→(一部について)法人となりますが、税理士
>から法人に流れるお金の必要経費性について疑義が生じる可能性が高まるということを
>聞いたことがある点です。それぞれ、独立して顧客から報酬を受領するか、法人から
>(一部を)税理士に流すかたちの方が(法務面はともかくとして)税務リスクという
>点では安心ということのようです。
>契約形態やお金の流れについて、アドバイスいただけますと助かります。

2 回答

(1)税理士さん個人の場合

そうですね。会計法人と税理士さんとの関係では、
①税理士業務と会計業務の売上げ自体を税理士さんと会計法人で分ける方法と
②税理士さんが全額を売上、下請けとして会計法人に外注費を支払うという方法
があります。

一般的に、税理士さんが個人事業の場合には、税理士会推奨の
税理士さんが全て受任して、下請けとして会計法人に流すという
方法が多いようには思います(税理士法人の場合は後述)。

この場合、契約書に再委託の承諾等を定める必要があります。
(特定の会計法人に再委託を認める時点で含まれているということも
ありますが、守秘義務の解除も併せて定めることも有用です。)

必要経費性の問題については、結局のところ、
税理士→会計法人の業務委託料の支払いに実態
が伴っているかというところになります。
このあたりは、受付業務等の委託
など、税理士業務と会計業務以外の業務も委託する形にして、
金額のバランスをとることになるかと思います。また、
どちらで従業員を雇用するか等の調整もありますね。

一方で、税理士業務と会計業務の売上げ自体を税理士さんと会計法人で
分ける方法の場合、契約書を2通作成するのは面倒ですので、
お客様と税理士さん個人及び会計法人で、三者間契約として、
業務範囲(税理士業務と会計業務の区別)とその対価の記載を
明確に分けることが必要です。

また、この場合、お客様の振込対応を2つに分けると手間という
ことがありますので、一方の口座に振込をして、一方の業務の分は、
集金代行という形の契約にすることが多いです。この方法をとる場合、
契約書の作成と明記は必須です。契約書がないとお客様としては、
あまり税理士さんと会計法人を別のものとして認識しないので、難しいでしょう。

上記の税理士会推奨のスキームの必要経費性と同様の問題は、
売上の帰属主体性の問題と行為計算否認の問題にはなりますが、
前者の問題は個人と法人なので、否認し難く
後者も例外的な措置のため、確かに必要経費性より否認され
にくいというところかと思います。
(税理士さんの事案ではありませんが、似たような他業種のケースで
行為計算否認が発動されたケースは経験上は一応見たことはありますが、
稀なケースだと思います。)

(2)税理士法人の場合

税理士法人の場合も基本的には上記と同様なのですが、
会計法人と税理士法人を分けるパターンが比較的多くなります。

これは、税理士法人の社員が、
税理士法人の業務の範囲に属する業務を
行うことができない(税理士法48条の14第1項)と
され、競業の会社の役員になることも禁止されていると
解されているからです。

この場合、現状では定款の記載で
「税理士法人の業務の範囲に属する業務」を判断すると
税理士会などでは判断されていますので、

税理士法人の定款に「会計業務」を入れてしまうと
この条項違反になります。

そこで、税理士法人の定款から会計業務を除外して、
会計法人と売上げを分けることで、社員の方が、
税理士法人・会計法人の両者の役員となることとしているものも
多いです。

なお、会計業務を定款に入れていないにも関わらず、
会計業務を税理士法人で受任して、会計法人に下請けに出すと、
税理士法人が権利能力範囲外の契約をしているということで、
理論上は契約が無効となります。

一方で、会計業務を税理士法人の定款から除いてしまうと
実務上、税理士法人で認定支援機関が取れない(取りにくい)
状況になりますので、その点については注意が必要です。

(3)その他

税理士法の方向性として、個人の税理士さんも税理士法人も
できる限り、税理士さんは1つの主体でお客様と契約し、外注も
しない方向性の考えで設計されているので、

現実論としては、
会計法人を利用する場合、
何を優先して、何のリスクを負うのかという点について、
取捨選択が求められます。

実際の懲戒などを見ていると、
現状、上記の税理士法違反では懲戒などはされていない
現実もありますので。
(税務署の総務課が注意して定款等の修正を求められる程度)

よろしくお願い申し上げます。