株式 会社法

社長(大株主)が認知症になった場合のリスクと後見人

永吉先生、お世話になります。

社長(大株主)が認知症になった場合、
議決権の行使ができなくなってしまいますので、
この場合、成年後見人が議決権を行使するケースもあります。

この場合、後継者などを成年後見人として申し立てた場合であっても、
弁護士などの第三者が成年後見人として選任されてしまう可能性は
どの程度あるのでしょうか?

また、弁護士などの第三者が成年後見人として選任された場合、
一般的な中小企業の運営を前提とした場合、
想定されるデメリットとして、どのようなことがあるでしょうか?

考えられ得る具体例を教えて頂ければと思います。

さらに、後継者などの親族が成年後見人として選任された場合であっても、
成年後見人は成年被後見人のために動く立場なので、
色々なことが制限されるかと思います。

後継者などの親族が成年後見人として選任された場合は
どのようなことに注意しなければならないでしょうか?

また、議決権行使に限定して、
社長の配偶者、または、後継者などとの任意後見契約というのは
有効でしょうか?

この場合の任意後見につき、注意点があれば、
併せてご教示ください。

よろしくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜第三者選任の可能性

>この場合、後継者などを成年後見人として申し立てた場合であっても、
>弁護士などの第三者が成年後見人として選任されてしまう可能性は
>どの程度あるのでしょうか?

程度というと難しいのですが、
最高裁が、平成31年3月18日に成年後見人は親族が望ましいという
方針を明らかにしましたが、現状の統計では、以下URLの10ページ
を見る限り、やはり親族以外の後見人が多い状況ではあります。

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2020/20200312koukengaikyou-h31.pdf
今年のデータがでると上記最高裁の影響がよりわかるかとは思います。

今後の予想に過ぎませんが、
親族を後見人と推薦した場合、ある程度親族となるという
流れにはなっていくでしょう。

ただ、こればかりは個別事情によるところですし、
担当裁判官の裁量なので、例えば、誰が後見人となるか争いがある場合や
財産(特に費消しやすい現預金)が多い場合には、
第三者を後見人とするという判断がされる可能性が高いかと思います。

また、「2」以下とも関連しますが、例えば、大株主が株式を
保有しており、後継者が役員等であるとすると潜在的な利益相反に
なりうる形ですので、その辺りも考慮して、第三者を選任するという判断を
する可能性も比較的高いです。

その他、財産が1000万円を超えるような事案では、
裁判所が、後見人が親族であったとしても、併せて専門家を
後見監督人(後見人を監視して裁判所に報告する人)に選任する
ということも多いですが、この辺りの運用までは変わらない可能性も
高いと思います。

2 ご質問②〜第三者が後見人となるデメリット

>また、弁護士などの第三者が成年後見人として選任された場合、
>一般的な中小企業の運営を前提とした場合、
>想定されるデメリットとして、どのようなことがあるでしょうか?
>考えられ得る具体例を教えて頂ければと思います。

大幅な役員報酬の増額などは株主総会で否決(少なくとも合理的説明を
求められる)されることや
この辺りは、後見人になった者の熱意等にも依存してきますが、
後継者個人の利益を図るような行為への責任追及などはされる可能性が
高くなります。
その他、税務上の株価対策のための組織再編なども、賛成が得られない可能性
も高いでしょう。
大きな変更を伴う行為については、賛成を得ることが難しいケースが多いです。

その他、一般的な中小企業などでは、会社法を遵守していない
ケースが多いですが、この辺りも求められるでしょう。

ただ、現実論としては、後見人になった専門家の性格や方針などにも
依存します。

3 ご質問③〜親族が後見人となった場合

>後継者などの親族が成年後見人として選任された場合は
>どのようなことに注意しなければならないでしょうか?

基本的には、自分の利益と成年後見人の利益が矛盾するような
行為を行なってしまうと善管注意義務違反のおそれが強いので、
その点に注意が必要でしょう。

例えば、相続発生後に、他の相続人から横領や損害賠償などの
主張をされ、紛争になりやすいです。
(これまで裁判所が第三者を後見人にするケースが多かった
理由はこれです。)

4 ご質問④〜任意後見と役割分担〜

>また、議決権行使に限定して、
>社長の配偶者、または、後継者などとの任意後見契約というのは
>有効でしょうか?
>この場合の任意後見につき、注意点があれば、
>併せてご教示ください。

はい。任意後見契約は、原則としては契約自由の原則があてはまり
ますので、複数人と任意後見契約を締結することも、役割をそれぞれ指定
することも可能です。実際に行うこともありますね。

注意点としては、個別事情に応じて、契約書の文言等を各任意後見人
間でしっかりと整合性がとれる形で整備することです。
ここは、相続・事業承継など将来起こり得る問題の予測がある程度できる
プロに頼んだ方が良いでしょう。

よろしくお願い申し上げます。