相続 贈与 不動産 相続税 贈与税 税務調査

離婚後死亡した夫の財産債務の相続関係と贈与についての税務署の指摘

永吉先生

いつもお世話になっております。
税理士の●●です。

【前提】
夫A 妻B は婚姻関係にありました。
子C 子D の2人の子供がいます。

①平成22年3月1日に土地・建物を購入した
持分 夫A 100%所有

②購入に際して、住宅ローン 住信・松下フィナンシャルサービス㈱ より借入をした
契約締結日 平成22年3月30日
借入金額 2,980万円
返済期間 35年
借入金の債務者 A(夫)
連帯債務者 B(妻)

③平成28年に離婚。
財産分与、慰謝料、養育費等は無し。
夫が家を出ていき、妻と子2人が住宅にそのまま居住していた。(土地建物は夫名義のまま)
住宅ローンは妻が夫の預金通帳を持っていたので、妻が夫の口座へ現金を入金することで返済を
継続していた。

④平成30年8月30日 A(夫)が死亡する。

⑤土地・建物を 子C、D(未成年) が相続2分の1ずつ相続し、土地・建物の相続登記を行う。
住宅借入金の名義変更はしていない。
土地・建物のみを相続登記したため、遺産分割協議書は作成していない

⑥令和1年12月6日 土地・建物を 子C,Dから妻Bへ贈与し、登記した。
令和1年12月17日 住宅借入金を他の銀行にて、妻B名義で借り換えを行った。

【質問】
①最終的に、妻はかねてより借入金の借り換えをしたかったので、借入金(負債)付きの負担付き贈与ということで、
土地建物を子CDから贈与を受け、借入金も引き継いだので、贈与税がかからないとの
認識で(負担付き贈与)、令和1年に贈与税の申告をしませんでした。

しかし、税務署より、これは贈与にあたると指摘され、贈与税の支払を要求されています。
このケースの場合、Aが死亡したことにより、土地建物の資産と、借入金の債務も当然にCDに相続されると
考えていいのでしょうか。借入金の名義変更はしておらず、Aのままでした。
法律上、借入金もCDに相続されていると考えてよければ、負担付き贈与は成立すると考えられるのでは
ないでしょうか。

②Aが死亡した時点で、連帯債務者であるBがこの借入金を返済する義務を負い、その後相続が発生したとしても
この連帯債務者の債務の方が優先されるのでしょうか。

③贈与とされた場合、何か救済策はありますでしょうか。

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

以下の事案は、妻が「連帯保証人」ではなく、
ご質問のご記載のとおり、夫と妻が「連帯債務者」
という前提でよろしいでしょうか。
その前提で回答します。

1 ご質問

>①最終的に、妻はかねてより借入金の借り換えをしたかったので、借入金(負債)付きの負担
>付き贈与ということで、土地建物を子CDから贈与を受け、借入金も引き継いだので、贈与税
>がかからないとの認識で(負担付き贈与)、令和1年に贈与税の申告をしませんでした。
>しかし、税務署より、これは贈与にあたると指摘され、贈与税の支払を要求されています。
>このケースの場合、Aが死亡したことにより、土地建物の資産と、借入金の債務も当然にCD
>に相続されると考えていいのでしょうか。借入金の名義変更はしておらず、Aのままでした。
>法律上、借入金もCDに相続されていると考えてよければ、負担付き贈与は成立すると考えら
>れるのではないでしょうか。

>②Aが死亡した時点で、連帯債務者であるBがこの借入金を返済する義務を負い、その後相
>続が発生したとしても
>この連帯債務者の債務の方が優先されるのでしょうか。

2 回答

まず、ご指摘のとおり、Aが負担していた連帯債務は、
相続によりC及びDが相続します。

一方で、従来AとBの連帯債務者間は、保証契約等と異なり、
主従の関係にはありません。

税務署がどのような根拠で贈与税対象となるという指摘をしているかは、
ご質問からはわかりかねますが、

(指摘理由①)
そもそもBは連帯債務者
として、債務全額を債権者に返済する義務を負っていたのであるから、
負担付贈与における「負担」とはならないという指摘でしょうか。

(指摘理由②)
または、B単独への借換を行ったとしても、その時点で、
C及びDへの求償権が発生するため負担とならないという指摘でしょうか。

指摘の理由がわかりかねるためなんとも申し上げられない
ところがありますので、
まずは、指摘の根拠を税務署に確認した方が良いかと思います。

(1)指摘理由①への反論

確かに、Bは連帯債務者として、そもそも債務全額を債権者に返済する義務
を負っています。

しかし、連帯債務者であっても、連帯債務者間で、内部負担部分があります。
例えば、全額をどちらかが、返済すれば、自己の負担割合を超える部分は、
もう片方の連帯債務者に請求できます。

このAとB間の負担割合は、民法の条文上は明らかでなく、
第1に連帯債務者間で特約がある場合には、この特約による割合、
特約がない場合には、
第2に各債務者が利益を受けた割合によって決定され、
第3に利益の割合も同一の場合には、平等の割合によると解されています。
(大審院大正3年10月29日等)。

この内部負担割合の判断で、例えば、「A:B=10:0」であれば、
BはC Dから負担部分を取得した代わりに不動産を得たとして、
負担付贈与であるという反論が成り立つものと思われます。

今回は、不動産については、Aが100%持分を有していたのであるから、
特約がなければ、第2の基準で、「A:B=10:0」という主張になるかと
思います。

ただし、この利益を受けた割合が不動産の持分のみでなく、
使用・収益も含めるということもなくはありませんので注意が必要です。

(2)指摘理由②への反論

仮に負担割合「A:B=10:0」

だとしても、借換による弁済行為の場合、
通常ですと、Bは、C、Dへの全額の求償権が発生する
ため、税務署は、結局のところ負担はないということを
指摘しているのかもしれません。

その場合は、C DとBの親子という関係性から、
贈与時点で、求償権を放棄していたという合意
だったという主張になるかと思います。

>③贈与とされた場合、何か救済策はありますでしょうか。

上記は、税務訴訟になってもおかしくないような
事案のようにも思います。不服があれば審査請求含めて
ご検討されても良いように思います。

ただ、上記の税務署の指摘理由は予想でしかなく、
まずは、こちらからではなく、税務署が何を理由に
負担付贈与ではないと指摘しているのかの法的な説明
を求めて、その説明を前提に反論していくという
ことになるかと思います。

また、必要があれば個別相談等もご利用ください。

よろしくお願い申し上げます。

永吉先生

いつもお世話になっております。
税理士の●●です。

先日質問させていただいた件について、
税務署担当者と話をしてまいりました。

税務署の主張
元夫Aが死亡後、妻Bは借入金を返済し続けており、妻Bは連帯債務者として借入金の返済をしているように
見受けられる。
よって、住宅ローンの債務者は妻Bのままであり、借り換えをする際も、連帯債務者の妻Bが借り換えの手続きをしているだけである。
借入金の債務者を子C,Dに変更をしていない、契約をを変えていない。
債務が子C,Dに変わっているかわからない。
債務者が夫から子に変わっている書類がない、証拠がない

これに対して、こちら側としては、民法上における相続は、財産ともに債務も当然に相続人が相続するわけだから、
書類上名前が変わっていなくても、債務は子C,Dに移転している、と主張しても、
証拠がない、債務者が変更になった借入金の書類がない、との一点張りで、これ以上話しても無駄だと思い、
指摘のみ聞いて帰ってきました。

今後の反論として、どのように進めていけばよろしいでしょうか。

よろしくお願い申し上げます。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>税務署の主張
>元夫Aが死亡後、妻Bは借入金を返済し続けており、妻Bは連帯債務者として借入金の返済を
>しているように見受けられる。
>よって、住宅ローンの債務者は妻Bのままであり、借り換えをする際も、連帯債務者の妻Bが
>借り換えの手続きをしているだけである。
>借入金の債務者を子C,Dに変更をしていない、契約をを変えていない。
>債務が子C,Dに変わっているかわからない。
>債務者が夫から子に変わっている書類がない、証拠がない
>これに対して、こちら側としては、民法上における相続は、財産ともに債務も当然に相続人が
>相続するわけだから、
>書類上名前が変わっていなくても、債務は子C,Dに移転している、と主張しても、
>証拠がない、債務者が変更になった借入金の書類がない、との一点張りで、これ以上話しても
>無駄だと思い、指摘のみ聞いて帰ってきました。

>今後の反論として、どのように進めていけばよろしいでしょうか。

2 回答

現状の税務署の主張をみる限り、
前回の私の回答の連帯債務の負担割合等の議論まで、
考えている指摘では全くないようですね。

やぶへびになってもあれですので、負担割合等の議論
はこちらからしなくても良いかと思います。

これ以上、口頭でやり合っても、話は進まなそうなので、
書面を提出する形が良いと思います。
(税理士の先生の場合は、担当の調査官だけでなく、統括官等上司の同席を求めた上で、
書面の内容を説明し、渡すことができれば良いかと思います。)

>借入金の債務者を子C,Dに変更をしていない、契約をを変えていない。
>債務が子C,Dに変わっているかわからない。
>債務者が夫から子に変わっている書類がない、証拠がない

これは、先生のおっしゃる通り相続が一般承継である以上、
ありえない指摘ですが、当たり前のことを当たり前に伝える
のは相手がこの態度ですと、むしろ難しいです。。。

今回で言うと書面の作成としては以下のような項目かと
思います。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
1 令和2年10月●日の調査官●●氏の指摘根拠の要約

→ここで、
>借入金の債務者を子C,Dに変更をしていない、契約をを変えていない。
>債務が子C,Dに変わっているかわからない。
>債務者が夫から子に変わっている書類がない、証拠がない

という点の要旨をまとめて記載します。

2 連帯債務は、当然に相続されることについて

相続は、一般承継であり、連帯債務も含まれることを書いてください。

3 今後について

書面により回答をもらう旨を書いてください。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「2」の部分は、当たり前過ぎて何を書くか悩ましいですが、

最高裁昭和34年6月19日判決の
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/861/054861_hanrei.pdf

「連帯債務者の一人が死亡した場合においても、その相続人らは、被相続人の債務の分割されたものを承継し、各自その承継した範囲において、本来の債務者とともに連帯債務者となると解するのが相当である」

とする判例を引用するのも1つの方法かと思います。

この判例を引用すると負担割合の問題に繋がりそうだとも
思いましたが、本当に税務署が更正をするのであれば、
いずれその議論にはなるでしょうし、そこまで直接的な
関連があるわけではないので、現場判断も必要ですが、
引用する形でも良いかなと考えます。

最後に、こちらは書面で主張していますので、
税務署にも書面で回答するように求めてください。

また、対面で書面を渡す場合には、録音をとるように
した方が良いでしょう。

よろしくお願い申し上げます。