税理士賠償責任

顧客からの一筆の効力

永吉先生

税理士の●●です。

税理士の実務上、顧客から「経費にしてほしい。責任はすべて私がとる」みたいなことを言われる際、自分が責任を負わないようにするため、この旨の一筆を、先方の押印の上で顧客から取ることがあります。

このような書面を取るとして、損害賠償責任を負わないリスクはどの程度軽減されるのでしょうか?

加えまして、税理士が経営する有限責任の株式会社(コンサルなど)と、無限責任の税理士で、責任を負う範囲などが変わることはありますでしょうか?

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜書面のリスク軽減について〜

>税理士の実務上、顧客から「経費にしてほしい。責任はすべて私がとる」みたいなことを言わ
>れる際、自分が責任を負わないようにするため、この旨の一筆を、先方の押印の上で顧客か
>ら取ることがあります。
>このような書面を取るとして、損害賠償責任を負わないリスクはどの程度軽減されるのでしょ
>うか?

税理士法の問題等は別として、
顧客からの損害賠償という側面からいうと、
軽減の効果はあります。

ただし、
これまでの裁判例を前提とすると、
顧客から前期の申告書と同様の申告書を
提出するように頼まれて、提出したという事例等で、
税理士の損害賠償責任が認められています。

これは、どの程度の加算税等が生じるかについて、税理士から
説明がなく、意思決定の前提について説明義務違反が
あることを理由としています。

もちろん、顧客側からの要求ですので、過失相殺が
認められており、税理士:顧客=1:9の過失割合
として、延滞税・加算税部分の1割が税理士の責任とされています。

なお、この過失割合については、税理士がどの程度、そのような
申告をやめるように助言していたか等の事実レベルも踏まえて判断
されます。

このような事案であれば、
先生のご指定の書面があれば、過失相殺で有利に働くため、
軽減の効果はあると思います。効果を高めるとすれば、
加算税等の説明も含めて書面化しておくことも重要でしょう。

あとは、単に顧客から要望があったからではなく、
再三そのような申告はやめた方が良い旨の助言を行った
上であれば、過失相殺でより有利にはなると思います。
(それでも、完全に税理士の義務違反がないと裁判所が判断するかは
微妙なところです。専門家責任の観点から義務違反自体は認めて、
過失相殺で調整するというのが、裁判官の無難な対応として
頭の中にあるのかなとも思います。)

2 ご質問②〜会社と税理士の責任範囲の相違~

>加えまして、税理士が経営する有限責任の株式会社(コンサルなど)と、無限責任の税理士
>で、責任を負う範囲などが変わることはありますでしょうか?

上記の経費の問題であれば、
税理士の先生が税務書類の作成及び税務代理をすることに
なるでしょうから、結論として異ならないと思います。

あとは、例えば、コンサルという名目で、会社で
将来の税効果などのアドバイスを行う契約もありますが、

結局のところ、税理士の先生がアドバイスしている以上、
不法行為を根拠に税理士法人または個人への請求をされると
結論はあまり異ならないかと思います
(むしろ、契約書や覚書を会社名義で作成しても、税理士の
関係で効力はないとされてしまうリスクも内在します)。

結局のところ、顧客目線から見れば、税理士の先生に
税務の相談ができるから会社と契約したに過ぎないと
認定されると思われるからです。

もちろん、上場企業等で明確にコンサルの業務と税理士法人の
業務などが峻別されているケースでは、どうかなというところも
ありますが、通常の税理士法人の社員税理士が株式会社で契約
したからといって、責任の範囲が軽減されるかというとそうでは
ないと思います。

なお、税賠保険の事前相談特約の適用などを考えると
税理士法人で契約をした方が、その点ではメリットがあります。

よろしくお願い申し上げます。