株式 会社法

配当優先株を発行する場合の既存剰余金等の扱い

永吉先生

お世話になっております。
既に利益剰余金が相応にある会社が、新規に配当優先株を発行する場合の扱いについてご教示頂けますでしょうか。

【前提】
・ある会社(資本金10万円、利益剰余金10億円、株主甲のみ)が、乙から10億円の資金調達を行う。
この結果、経済的な出資比率は甲:乙=50%:50%(甲の資本金10万円は便宜上考慮しない)となる。

・当該10億円の出資に際し、乙に非参加型の配当優先株を割当てる。
内容は、特定の事業部門に係る利益を計算し、その全額を乙に優先的に配当するものとする。
(トラッキング・ストックのイメージ)

【ご質問】
①乙が優先出資した時点で、甲と乙の持分について2つの考え方があるのではないかと思いました。
<パターンA>
甲と乙の持分は、それぞれ資本金5億円及び利益剰余金5億円の半々となる。

<パターンB>
甲の持分は普通出資10万円+利益剰余金10億円、乙の持分は優先出資10億円と区分される。
(会社のB/S上は普通出資・優先出資の区別はしないかもしれないですが)

会社法上はパターンA、Bのいずれになりますでしょうか?
もしくは、決めの問題で選択できますでしょうか。

②仮にパターンAの場合、既存の剰余金10億円を原資として配当しようとしても、乙に対しては非参加型のため配当不可能ということになりますでしょうか?
この場合、乙は配当の受けられない剰余金5億円を有することになるのか、乙の剰余金5億円は甲に帰属してしまうのか、いずれでしょうか。
それとも、非参加型というのは今後の特定事業部門ないしその他の部門に係る利益が対象であり、出資時点の既存剰余金に関しては配当時の出資比率で分配できると考えられるでしょうか。

③仮にパターンBの場合、優先配当の基礎なる特定部門で赤字が生じたため、利益剰余金が3億円毀損したとします。
この結果、会社全体としては優先出資10億円、利益剰余金7億円となります。
このとき、甲の持分は剰余金7億円、乙の持分は優先出資10億円となりますでしょうか。
それとも甲の持分は剰余金8.5億円、乙の持分は優先出資10億円及び剰余金▲1.5億円になりますでしょうか。

宜しくお願い申し上げます。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜会社法上の持分の考え方

>・ある会社(資本金10万円、利益剰余金10億円、株主甲のみ)が、乙から10億円の資金調達
>を行う。
>この結果、経済的な出資比率は甲:乙=50%:50%(甲の資本金10万円は便宜上考慮しな
>い)となる。

>・当該10億円の出資に際し、乙に非参加型の配当優先株を割当てる。
>内容は、特定の事業部門に係る利益を計算し、その全額を乙に優先的に配当するものとす
>る。(トラッキング・ストックのイメージ)

>①乙が優先出資した時点で、甲と乙の持分について2つの考え方があるのではないかと思いま>した。
><パターンA>
>甲と乙の持分は、それぞれ資本金5億円及び利益剰余金5億円の半々となる。

><パターンB>
>甲の持分は普通出資10万円+利益剰余金10億円、乙の持分は優先出資10億円と区分される。
>(会社のB/S上は普通出資・優先出資の区別はしないかもしれないですが)

>会社法上はパターンA、Bのいずれになりますでしょうか?
>もしくは、決めの問題で選択できますでしょうか。

法人税法上は、自己株式取得のみなし配当等との絡みで、
「種類資本金額」等の分別が行われますが、

会社法上の概念では、そもそも各種類株式について、
剰余金のいくらがとか資本金のいくらがなど、
B/S項目についての持分を観念するものではありません。

抽象的でわかりづらいのですが、
例えば、配当をするという場面で計算方法や
解散する際の残余財産の分配をどのように計算するか等や

組織再編における株式買取請求権や譲渡不承認の際の株式買取等
各場面に応じて各種類株式をいくらで評価するかという問題
(簿価純資産で計算されることもまずありません)であり、
通常時において、利益剰余金のうちいくらが誰のものか等の計算をするものではないです。

つまり、株式による持分というのは、通常時には、(抽象的な)会社財産
対する持分であって、利益剰余金のいくらについての持分がある等の概念では
ありません。

ですので、会社法上は、A 、Bいずれのパターンでもないというのが
正確です。

2 ご質問②〜トラッキングストックと通常の配当

>②仮にパターンAの場合、既存の剰余金10億円を原資として配当しようとしても、乙に対して
>は非参加型のため配当不可能ということになりますでしょうか?
>この場合、乙は配当の受けられない剰余金5億円を有することになるのか、乙の剰余金5億円
>は甲に帰属してしまうのか、いずれでしょうか。
>それとも、非参加型というのは今後の特定事業部門ないしその他の部門に係る利益が対象で
>あり、出資時点の既存剰余金に関しては配当時の出資比率で分配できると考えられるでしょう
>か。

パターンは別として、配当という場面では、
種類株式については、その内容により計算方法
が定まるにすぎません。

個別の種類株式の内容を確認する必要がありますが、
トラッキング・ストックの目的の非参加型の場合、
今後の特定事業部門の利益以外の配当は受けられない設計に
なっていることが多いかと思います。
なので、既存の剰余金は受け取れない前提で、
設計されている可能性が高いかとは思います。

ここは、上記の持分の考え方ではなく、
単純にどういう内容の優先配当種類株式なのかという問題です。

3 ご質問③

>仮にパターンBの場合、優先配当の基礎なる特定部門で赤字が生じたため、
>利益剰余金が3億円毀損したとします。
>この結果、会社全体としては優先出資10億円、利益剰余金7億円となります。
>このとき、甲の持分は剰余金7億円、乙の持分は優先出資10億円となりますでしょうか。
>それとも甲の持分は剰余金8.5億円、乙の持分は優先出資10億円及び剰余金▲1.5億円になりま
>すでしょうか。

持分が、剰余金等に観念されるわけではないことは、
ご質問①のとおりです。

よろしくお願い申し上げます。