●●です。
実務上、遺言書の記載について教えてください。
遺言書を作成する際に、
1.不動産を登記簿に記載しているものと同じように記載しているタイプ
2.例えば、別紙1に記載している不動産は次男
その他い一切の財産は長男という消去法みたいに記載しているタイプ
(包括遺贈になるものなのでしょうか?)
3.その他の記載もあるかと思います。
実務上、
司法書士からは、特定されていなくても、その他一切の記載があれば相続登記は
できると聞いています。
登記手続上は遺言書に「相続させる。」と書いてあれば「相続」として登記し、「遺贈する。」と書いてあれば
「遺贈」として登記するのが原則ですが、「相続人全員に対して全財産を遺贈する。」と書かれていた場合は、
遺言書に「遺贈する。」と記載してあっても「遺贈」ではなく「相続」で登記することになっています。
今回の乙は被相続人の唯一の相続人だったため、これが包括遺贈だとすると「相続」で登記することになりますので、
これを法務局がどう判断するか管轄の法務局に相談に行ってきたところ、
包括遺贈と解して手続を行って構わないとのことでした。
債務超過でないなら、
特定して記載している場合と不動産を記載していない場合と
何か取扱いが変わる、有利不利になることは個人的にはないと思っていますが、
何か問題が生じることはあるのでしょうか?
特定財産を除く遺産についてなされた遺贈も包括遺贈となり得るか【東京地判平成10年6月26日】
https://www.nihonbashi-souzoku.com/column/post_73.html
(1)包括遺贈とされた場合は遺産分割ができる
包括遺贈では、相続人以外の方(包括受遺者)も相続人とみなして、遺産分割をすることになっています。
ですから、相続人と包括受遺者とで話し合いをして、自由な遺産分割をすることができます。
これに対して、特定遺贈の場合、受遺者(相続人以外の他人)は、その財産をもらう権利しか持っていません。
ですから、「遺言書で指定されているA財産じゃなくて、B財産をもらう」とした場合、問題があります。
その場合は、いったん相続人が財産をもらい、その財産を他人である受遺者に贈与したとして、相続税と贈与税の両方の税金がかかる可能性があります。
(2)債務控除
相続税を計算する際、財産から債務(借金や未払金)を引くことができます。
財産をもらう方が相続人であれば債務控除ができるのですが、相続人でない方が特定遺贈で債務を引き継ぐ場合は、原則として債務控除できません。
(ですが負担付遺贈と判断された場合は財産から直接債務控除ができます)
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>1.不動産を登記簿に記載しているものと同じように記載しているタイプ
>2.例えば、別紙1に記載している不動産は次男
>その他い一切の財産は長男という消去法みたいに記載しているタイプ
>(包括遺贈になるものなのでしょうか?)
>債務超過でないなら、
>特定して記載している場合と不動産を記載していない場合と
>何か取扱いが変わる、有利不利になることは個人的にはないと思っていますが、
>何か問題が生じることはあるのでしょうか?
2 回答
まず、前提として、相続させる旨の遺言と(特定・包括遺贈)は
法的に異なるものです。相続人への遺言の場合には
基本的に前者が利用されるのが一般的です。
(1)相続させる旨の遺言の場合
相続させる旨の遺言の場合は、
>1.不動産を登記簿に記載しているものと同じように記載しているタイプ
>2.例えば、別紙1に記載している不動産は次男
>その他い一切の財産は長男という消去法みたいに記載しているタイプ
「1」で記載されたとしても、「2」で記載されたとしても、
財産の特定の方法に過ぎず、基本的に違いはありません。
(「2」は、その他一切の財産は、個別の財産の相続させる旨の遺言の束と見るに過ぎません。)
なお、この場合、
基本的には相続分の指定(債務の負担割合も積極財産分で按分される)
が伴いますので、債務超過であっても有利不利も変わらないと
思われます。
(2)遺贈の場合
特定遺贈と包括遺贈の場合の大きな違いとしては
前者は、特定の積極財産のみの特定承継、
後者は、積極財産・消極財産を含む被相続人の地位の一般承継
ということで、債務の負担割合に違いがでます。
>1.不動産を登記簿に記載しているものと同じように記載しているタイプ
>2.例えば、別紙1に記載している不動産は次男
>その他い一切の財産は長男という消去法みたいに記載しているタイプ
>(包括遺贈になるものなのでしょうか?)
ご指摘の東京地判平成10年6月26日により、
特定遺贈と包括遺贈の併存型が明示的に認められた
とされる裁判例ですが、
結局のところ、
「『特定財産を除く相続財産(全部)』という形で範囲を示された財産の遺贈」
がどのような趣旨がなされたのかの解釈の問題となります。
確かに全ての財産について「1」で記載があれば特定遺贈であると推認する
事情にはなり得るかなとは思いますが、「2」の記載であるから包括遺贈である
という根拠にはならないようには思います。
遺言の経緯などから遺言者の意思を推認することとなります。
実際の上記裁判例でも、遺言作成に関わった弁護士の証人尋問や
その他覚書などの存在から、遺言者はどのような意思で、遺言を
残したのかという点を検討した上で、包括遺贈の趣旨だったと認定しています。
先生のおっしゃるとおり、「1」、「2」で決定的に違いが
出るわけではないと思います。
むしろ、特に遺贈の場合には、付言事項も含めて、遺言者の意思が
明確になるようにしておくことが重要であって、
「1」・「2」の書き方で結論が分かれるという考え方は
少々違うかなと思います。
よろしくお願い申し上げます。