不動産 民法 借地借家法

立退時期を確定する際の賃貸借契約の注意点について

永吉先生

いつもお世話になっております。
税理士の●●です。
宜しくお願い致します。

前提
知人(個人)より3年間、子供が学校に通う為、所有物件のワンフロアーを
居住スペースとして貸して欲しいと依頼あり。
ワンフロアーは、上下の階と独立した作りになっていて現在使用していないが、
もともと居住用であり、そのまま貸せる状態。
現時点では3年後に退去すると言っているが意向が変化するかは不明。
知人が3年後に明確に退去してくれれば、賃貸しても良いと考えている。
3年後に居住を継続したいと言われた場合も退去してもらえる体制を作っておきた
い。

質問
①賃貸借契約を結ぶ場合、契約書はどのような点に気をつければ良いでしょうか。
また、入れた方が良い条項など教えて下さい。

②できれば、貸してあげたいと考えていますが、
3年後に退去して貰いたい場合は、賃貸しない方がよいでしょうか。
最近の立ち退き事情など情報があれば教えて下さい。

ご回答宜しくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜3年で退去する旨の賃貸借契約について

>①賃貸借契約を結ぶ場合、契約書はどのような点に気をつければ良いでしょう
>か。また、入れた方が良い条項など教えて下さい。

まず、
> 現時点では3年後に退去すると言っているが意向が変化するかは不明。
> 知人が3年後に明確に退去してくれれば、賃貸しても良いと考えている。
> 3年後に居住を継続したいと言われた場合も退去してもらえる体制を作っておきたい。

とのご意向からすると、
賃貸借契約の性質を、普通建物賃貸借契約とする
のではなく、「定期建物賃貸借契約」(借地借家法38条)
とする必要があります。

理由は、普通建物賃貸借契約とした場合、
期間満了後に、賃借人(知人)との契約更新を拒絶する場合には、
「正当な理由」の要件が付加され、容易に契約終了が認められず、
賃借人への立退料の提供などが必要になってくるためです。

他方、「定期建物賃貸借契約」とした場合には、
正当な理由の要件に関係なく、
期間満了によって、賃貸借契約が終了することになります。

「定期建物賃貸借契約」の要件は、以下のとおりですので、
契約書には、②の条項の規定が必要です。

======================
①契約書を締結すること

②契約書に期間の定め、かつ、契約の更新がないことを明記すること

③契約書を締結前に、
契約の更新がなく、
期間満了により契約が終了することを
記載した説明書面を交付して、実際に説明をすること
(説明書面は、契約書とは別に作成することが必要)

④賃貸人は、賃借人に対して、期間満了の1年前から6か月前までの間に、
期間満了によって契約が終了することを通知すること
======================

2 ご質問②〜貸すべきか否か等

>できれば、貸してあげたいと考えていますが、
>3年後に退去して貰いたい場合は、賃貸しない方がよいでしょうか。
>最近の立ち退き事情など情報があれば教えて下さい。

上記の定期建物賃貸借契約の形式で契約をすれば、
法的には、3年で立ち退いてもらうことはできますので、
積極的に辞めた方がよいということはないかと思います。

知人ということもあり、事前にしっかりと説明しておけば、
特にトラブルになる可能性自体は高くないと思います。

以下は、賃貸借一般の話ですが、

法的には、建物明渡が請求できるとしても、
仮に知人の方が、自分から出ていかない場合には、
裁判をする必要自体はあります。

また、賃貸終了時には、原状回復等で揉める
こともよくあります。

民法上、この原状回復義務は、
一次的に賃借人が負うことになっています(民法621条)。
賃借人の裁量で(賃貸人との想定とは異なる)義務の履行が行われてしまうリスク
がありますので、

・原状回復義務の履行にあたっての工事は、賃貸人又は賃貸人が指定する者が行う旨の条項

を入れておくということはしても良いかと思います。

また、賃借人が所有物を残していくリスクも
(他人の所有物であるため、勝手に処分できません。)があるので、

・「賃貸人が動産等を残置したときは、賃借人は当該動産の所有権を放棄したものとみなし、
賃貸人は、当該動産を任意に処分し、当該処分に要した費用を賃借人に請求できる」旨の条項

などを入れておいても良いのではないかと思います。

よろしくお願い申し上げます。