いつもお世話になっております。
●●と申します。
相続財産の破産について質問をさせて頂きます。
長文となっておりますがご容赦下さい。
(前提)
○ 知り合いの弁護士先生より連絡があり、相続財産の破産による管財人になったと
のこと。
○ 管財人報酬に源泉が必要かという質問がありました。
○ 相続財産の破産について、事例として質問を受けたのが初めてであり、ネットの
情報(参考①)
などを確認すると、破産法による手続きであると説明があり、限定承認の制度と 比較してあまり
多く利用されていないという説明がありました。
(質問)
○ 相続財産の破産による管財人は、破産法による手続きであり、一般というか、
よ ある破産手続きと同じ管財人という、法的な立場は同じ管財人という考え方と
なりますでしょう か。
そうであれば、管財人報酬については、源泉徴収が必要と考えています。
弁護士業務の実務においては、破産管財人の報酬は源泉徴収の義務があるが、
依頼者(破産者)が事業を行っている個人及び法人であれば源泉をして、
事業者ではない一般個人だと源泉をしないというルールがあると伺いましたが、
本当でしょうか。
→ 源泉の有無については、税務の相談となってしまいますが、先生のお考えを
伺えれば幸いです。
○ ネットで、次の説明があり、
「限定承認・財産分離と、相続財産破産との相違点は以下の点にある。第1に、
限定承認・財産分離が相続人に
による簡易な清算手続であるとすれば、相続財産破産は、選任された破産管財人
による、より公平かつ厳格な 清算手続である。
もっとも、これら諸制度の間に優劣関係はなく、事実上、相続財産破産の制度が用いられることはほとんどない。
第2に、限定承認・財産分離は、相続債権者や相続人の固有債権者との関係で責任財産の
範囲を限定する効力をもつが、相続財産破産の制度にはそのような効力はない。
したがって、破産手続が終了し、
残余債務がある場合には、相続債権者は、限定承認がなされていない限り、なお
相続人の固有財産に対して権利を行使することができる」
https://ameblo.jp/espans/entry-10752789212.html
限定承認を選択する、相続財産破産を選択する、この手法の選択について、有
利、不利や一般的に選択をする際の考え方などはございますでしょうか。
どのように異なっているかが、よく理解できておりません。
○ 譲渡所得が発生するのか。
限定承認の場合は、所得税法59条①により譲渡所得の基因となる資産の移転が
あった場合は時価譲渡による
譲渡所得の課税が発生しますが、所得税法59条①には相続財産の破産という文言
はありません。
よって、譲渡所得の基因となる資産の移転があっても、譲渡所得は発生しないと
考えていますが、そもそも、相続財産の破産手続きをする場合は、
被相続人が債務超過の状態で有り、換価しても
相続人に分配される事は無いと理解しています。
譲渡所得の基因となる資産について、相続財産の破産があった場合の、債権弁済
までの流れについて、ご教授を頂ければと思います。
もし、譲渡所得税のご見解もあればあわせてご教授頂ければ幸いです。
そもそもの相続財産の破産についてをよく理解していないため、的を射ていない
質問になっているかもしれません。
申し訳ありません。
宜しくお願いいたします。
(参考①)
http://www.ac-hasan.jp/advice/advice15/answer01.html
(参考②)
質疑応答:破産管財人の源泉
843 破産管財人報酬
qaTitle-q
A社は,裁判所から破産手続開始の決定(破産宣告)を受け,弁護士Bがその破産管
財人に選任されました。その後,裁判所が破産管財人の報酬を2000万円と決定しまし
たので,
Bは,その支払決定に基づき,破産財団からその破産管財人報酬の支払を受けます。
この破産管財人報酬は,所得税法第204条第1項第2号に規定する弁護士の業務に関
する報酬・料金に該当するとして源泉徴収の対象となるのでしょうか。
qaTitle-a
破産管財人報酬は,弁護士の業務に関する報酬・料金として,源泉徴収の対象とな
る。
qaTitle-k
破産管財人の業務は,弁護士法第3条第1項に規定する「一般の法律事務」には該当
しないが,同法第30条の5の業務を定める法務省令(弁護士法人の業務及び会計帳簿
等に関する規則)
第1条第1号にいう業務に該当するとともに,弁護士は,正当の理由がなければ,法
令により官公署の委嘱した事項を行うことを辞することができないものとされている
(弁護士法24)。
したがって,弁護士法は,弁護士の使命及び職責にかんがみ,弁護士が破産管財人の
地位に就きその業務を行うことを予定しているものと考えられる。
また,所得税法第204条第1項第2号に規定する「弁護士の業務」を弁護士法第3条
第1項に規定する「一般の法律事務」に限定すべき理由はなく,弁護士としての専門
的知識をもって
行う業務も同号にいう「弁護士の業務」に含まれると考えられる。
以上のことから,弁護士が破産管財人として行う業務は,「弁護士の業務」に該当
し,破産管財人報酬は,弁護士の業務に関する報酬・料金に該当することとなる。
≪参考判決≫
○最高裁判決(平成23年1月14日最高2小判・平成20年(行ツ)第236号)
判決要旨
1 本件は,破産管財人である上告人(弁護士)が,破産法の下において,破産管財
人の報酬の支払をし,破産債権である元従業員らの退職金の債権に対する配当をした
ところ,
所轄税務署長から上記支払には所得税法204条1項2号の規定が,上記配当には同法
199条の規定がそれぞれ適用されることを前提として,源泉所得税の納税の告知及び
不納付加算税の
賦課決定を受けたことから,上告人において,主位的に,上告人の被上告人に対する
上記源泉所得税及び不納付加算税の納税義務が存在しないことの確認を求めるととも
に,予備的に
上記源泉所得税及び不納付加算税の債権が財団債権でないことの確認を求めている事
案である。
2 弁護士である破産管財人は,その報酬につき,所得税法204条1項にいう「支払
をする者」に当たり,同項2号の規定に基づき,自らの報酬の支払の際にその報酬に
ついて所得税を徴収し,
これを国に納付する義務を負うと解するのが相当である。
3 破産管財人の報酬は,破産手続の遂行のために必要な費用であり,それ自体が破
産財団の管理の上で当然支出を要する経費に属するものであるから,その支払の際に
破産管財人が控除した
源泉所得税の納付義務は,破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが
相当である。
4 弁護士である破産管財人の報酬に係る源泉所得税の債権は,旧破産法47条2号た
だし書きにいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」として,財団債権に当たるという
べきである。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜源泉徴収の要否について
>相続財産の破産による管財人は、破産法による手続きであり、一般というか、よ
>くある破産手続きと同じ管財人という、法的な立場は同じ管財人という考え方となりますで
>しょうか。そうであれば、管財人報酬については、源泉徴収が必要と考えています。弁護士
>業務の実務においては、破産管財人の報酬は源泉徴収の義務があるが、依頼者(破産者)が
>事業を行っている個人及び法人であれば源泉をして、事業者ではない一般個人だと源泉をし
>ないというルールがあると伺いましたが、本当でしょうか。
>→ 源泉の有無については、税務の相談となってしまいますが、先生のお考えを伺えれば幸
>いです。
先生のご指摘のとおり、法的には源泉徴収が必要です。
(実務上は、問題とされることも少ないので、していない弁護士も多数だと思いますが)
ご存知の通り、相続財産の破産手続が利用される場面は、
近年ではほとんどなく、これが生じる主な場面は、個人の破産者が破産申立て後に
死亡した場合や、相続人が不存在等で相続財産管理人から破産手続きに移行
したというようなケースに限られています。
この場合の破産者は、
相続財産という法人となると解されています(民法951条等)。
(なお、前者の場合は「法人格なき財団」となるという見解もありますが、
所得税法上、第2条8号、第4条で法人とみなされます。)
そうすると、そもそも破産者は法人であり、源泉徴収が必要となります。
なお、今回のご質問とは直接の関連はないですが、
一般個人の破産ですと源泉徴収の必要がないという点は、
実は争いがあります。
破産者が一般個人の場合、
所得税法204条2項2号により、源泉徴収の適用除外とされる
と考える立場もあります(弁護士はこれを前提にしていることが
多いかとは思います。)。
ただ、引用いただいた法人破産のケースで管財人報酬に源泉徴収が必要とした
最高裁平成23年1月14日判決では理由中の判断において、
「所得税法204条1項〜にいう「支払いをする者」とは、
破産管財人」自身であるとしています。
これを前提とすると、そもそも管財報酬の場合、支払いをする者
も、支払いを受ける者も管財人(事業者である弁護士)である
ということになりますので、
>事業者ではない一般個人だと源泉をしないというルール
破産者が一般個人の場合は源泉をしないというルールは、
前提を欠くのではないかと思います。
2 ご質問②〜相続財産破産と限定承認・相続放棄の関係
>限定承認を選択する、相続財産破産を選択する、この手法の選択について、有
>利、不利や一般的に選択をする際の考え方などはございますでしょうか。
相続財産の破産と限定承認・相続放棄は、
手続上択一的な関係にありません。
相続財産の破産と限定承認・相続放棄は、そもそも
全く異なる制度ですので、どちらかを選択をするという
ものではありません。
相続財産の破産は、破産管財人が、相続財産を調査のうえ、
財産の換価配当又は破産手続の廃止を行う制度ですが、
この手続のなかで相続財産中の債務が消滅することは予定されていません。
つまり、
一般の破産手続の場合には、
破産手続後に免責の手続に移行し、裁判所が免責許可決定を行うことで
破産者は債務の弁済を免れることになりますが、
相続財産の破産の場合には、免責の手続には移行しないので、
相続財産における債務は残り、相続人がこれらの弁済を免れるためには、
別途、限定承認や相続放棄の手続が必要です。
相続財産の破産は、どちらかと言えば、
相続財産による債権者や受遺者への分配につき、裁判所や破産管財人が関与することで、
厳格化を図る制度です。
3 ご質問③〜譲渡所得について
こちらについては、上記のとおり、
相続財産という「法人」の行為となりますので、
所得税の問題とはならないと考えられます。
(法人格なき財団とされたとしても、法人税法第3条、第2条8号で法人とみなされます。)
よろしくお願い申し上げます。