株式 会社法

現物出資財産の不足額がある場合の取締役の責任

永吉先生

お世話になっております。
現物出資財産の実際の評価額が、新株発行価額の額面を下回る場合の取締役の責任についてご質問させて下さい。

【前提】
・Aが代表取締役、Aの子Bが100%株主である非上場C社に、親Aが現物出資を行う。
この結果、親Aと子Bの出資割合は51%:49%となる予定。

・現物出資の対象となる財産は不動産、上場・非上場株式、貸付金等計10億円以上と多岐・多額である。
本来は検査役の調査や弁護士等の証明が必要になるが、費用・時間がかかることから省略したい。

・対象財産の実際の評価額は新株発行価額を下回る可能性もゼロではないが、現時点で認識しているものはない。
また両者の乖離による税務リスクは無視できるものとする。
なおC社は財務的に健全で、本件増資に債務超過解消やコベナンツ抵触回避といった意図はない。

【ご質問】
①対象財産の価額が新株の額面を下回ることが判明した場合、検査役調査等がなければ親Aは不足額の支払義務を負うと考えます。
(会社法213条)
この時点では、C社は親Aに対して不足額相当の未収債権を認識し、同額対象財産を減額するという理解で合っていますでしょうか?
すなわち、子Bが株主として無効の訴え(会社法828条)を主張しない限り、C社の資本金等及び親Aの出資51%に係る権利は維持されることになるでしょうか。

②上記①の他、親Aは取締役として善管注意義務や忠実義務違反で任務懈怠責任を問われ、損害賠償や解任のリスクが生じると考えます。
当該リスクについて、子Bが株主として責任を問わなければ、他の関係者から訴えられるリスクは僅少といえるでしょうか。
資本充実の原則の観点から問題はあると思っております。
一方で、財務優良でコベナンツや業種特有の資本維持規制等に関する問題がない会社の場合、銀行等債権者がこの点を主張してくることはあまりないかなという気もしております。

以上から、唯一の既存株主が子Bで親Aを訴える可能性がほぼない場合、上記①の不足額がどの程度かを本件リスクとして考えればいいかと考えているところです。
考え方に誤りや他にも見落としているリスク等があればご教示頂けますでしょうか。

宜しくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜検査役の調査や弁護士等の証明の省略について

>①対象財産の価額が新株の額面を下回ることが判明した場合、検査役調査等がなければ親Aは
>不足額の支払義務を負うと考えます。
>(会社法213条)
>この時点では、C社は親Aに対して不足額相当の未収債権を認識し、同額対象財産を減額する
>という理解で合っていますでしょうか?
>すなわち、子Bが株主として無効の訴え(会社法828条)を主張しない限り、C社の資本金等
>及び親Aの出資51%に係る権利は維持されることになるでしょうか。

現状の判例等を前提とする
会社法上の理解では、ご認識のとおりで間違いはありませんが、

現実の問題として、新株発行の登記申請が通らないという問題があります。
現物出資の場合、登記申請の添付資料として、
検査役の調査報告書及び付属書類や
弁護士等の証明書及びその付属資料が必要となります。

仮に、それらがない場合には、上記出訴期間経過後に訴えの提起が
なされていないことの証明書を裁判所から得て登記を入れるという
方法もありますが、こちらの方は、かなり手間がかかる手続きに
なるので、

>費用・時間がかかることから省略したい。

というとむしろマイナスになるように思います。
(弁護士でも、この手続き自体やったことのない
者が99%だと思われます)。

また、このあたりは事実認定と評価の問題になりますが、
長期間の登記放置等の事情がありますと、そもそも、
CとAの株式引き受け契約自体が仮装的なものであり、
存在しなかった等(無効でなく不存在)もあり得る
ところですので、専門家が勧めることではないでしょう。

2 ご質問②~その他について

>上記①の他、親Aは取締役として善管注意義務や忠実義務違反で任務懈怠責任を問われ、損害
>賠償や解任のリスクが生じると考えます。
>当該リスクについて、子Bが株主として責任を問わなければ、他の関係者から訴えられるリス
>クは僅少といえるでしょうか。
>資本充実の原則の観点から問題はあると思っております。
>一方で、財務優良でコベナンツや業種特有の資本維持規制等に関する問題がない会社の場
>合、銀行等債権者がこの点を主張してくることはあまりないかなという気もしております。

>以上から、唯一の既存株主が子Bで親Aを訴える可能性がほぼない場合、上記①の不足額がど
>の程度かを本件リスクとして考えればいいかと考えているところです。
>考え方に誤りや他にも見落としているリスク等があればご教示頂けますでしょうか。

そうですね。ただ、上記の通り、新株発行の登記申請が通らないと
登記簿の発行済株式数と株主関係が異なる
会社ということになりますので、
登記簿がチェック項目となっている対外的な会社との
取引等で引っかかる可能性がありますし、

手間だから省略しても問題ないとアドバイスできるような
話ではないのではないかと思います。

よろしくお願い申し上げます。