代表弁護士 永吉 啓一郎様
税理士の●●と申します。
いつも読ませていただいています。
今回お聞きしたいのは、相続時精算課税の財産と公正証書遺言書の関係です。
<経緯>
①.相続時精算課税で相続人の一人に財産を2500万円弱渡しました。
②.その1年後に公正証書遺言を作成し、3人の相続人の相続財産の割り当てを記載し
ています。
<質問>
・実際に相続が発生した際の各人の割り当ての財産のなかに、上記①の財産は含まれ
るのか、それとも上記①の財産を除いた残りの財産を公正証書遺言の按分で割り当て
を行うのか
・相続時精算課税の財産を含む・含まないに関して、上記①と②のように時期が関係
するのかも併せて教えてください。
よろしくお願いします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜相続時清算課税対象財産の相続財産性
>①.相続時精算課税で相続人の一人に財産を2500万円弱渡しました。
>②.その1年後に公正証書遺言を作成し、3人の相続人の相続財産の割り当てを記載し
>ています。
>・実際に相続が発生した際の各人の割り当ての財産のなかに、上記①の財産は含まれ
>るのか、それとも上記①の財産を除いた残りの財産を公正証書遺言の按分で割り当て
>を行うのか
まず、相続時精算課税によるとしても、
法務上は、単なる贈与契約であり、
実際に相続が発生した際の各人の割り当て財産(相続財産)に、
①の財産は含まれません。
ただし、
①の生前贈与が特別受益となるため、
遺言が個別・特定の財産を相続させる等のものではなく、
単なる相続分の指定の場合(例えば、A30%、B30%、C40%など)
には、この点を考慮して、具体的な相続分が修正されることとなります。
(なお、勘違いされやすいですが、この場合にも、①の財産が相続財産になる
わけではありません。相続分の計算のために、フィクションとして、
一時的に割り戻して相続分を計算するだけです。)
具体的な計算方法は、私が以前配信したメールマガジンを
当メールの末尾に転載しますので、ご覧になってください。
※わかりやすさのため法定相続分(遺言なし)の例で
記載されていますが、遺言で、単なる相続分の指定を
した場合の指定相続分でも同様ですので、
その場合は、法定相続分→指定相続分と読み替えて
ください。
ただ、相続分を修正する特別受益は、贈与者による
持ち戻し免除の意思表示(相続分の修正のための一時的な
割り戻しもしないという意思表示)をしておくことで、
この特別受益による相続分の修正計算はしなくてもよく
なりますので、これをしていれば①が関連して、
相続分が修正されることもありません。
2 ご質問②〜時期の先後関係
>・相続時精算課税の財産を含む・含まないに関して、
>上記①と②のように時期が関係するのかも併せて教えてください。
一度、相続時精算課税による生前贈与をすれば、
その財産は相続人の1人のものとなり、
被相続人の財産ではなくなるため、
遺言の対象財産にはなりません。
一方で、遺言をしたのちの生前贈与の場合でも、
生前贈与が優先するので、こちらも関係ありません。
したがって、①と②の時期の関係で影響がでることは
ありません。
また、上記の特別受益の問題も、遺言の先後で決定
されるものではないため、影響はないでしょう。
よろしくお願い申し上げます。
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特別受益は「相続分(率)」の確定の問題
(相続財産が増えるわけではない)
税理士のための法律メールマガジン
2020年5月1日(金)
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●● ●●さま
おはようございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
資産税や相続の事前対策に強い税理士の
先生からもよくご相談を受けたり、
誤解されていることが多いのが、特別受益の問題です。
(私もわかりにくいところだと思います。)
民法上の「みなし相続財産」という言葉からか
あたかも「被相続人の相続財産が増える」ように捉えられ
ていることがあります。
しかし、特別受益の持ち戻しによる
「みなし相続財産」というのは、
あくまでも、各相続人の相続分を算定
させるために相続財産と仮にみなして
計算しますよというもので、
最終的な被相続人の相続財産が増えるわけでありません。
この辺りが、相続税法上のみなし相続財産とは異なるところです。
以下、具体的な例で解説します。
1 事例設定
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○被相続人:X
○相続人 :子A 子B 子 C
○相続財産
(1)自宅不動産(2000万円)
(2)預金(1000万円)
○生前贈与(特別受益)
子Cに対して500万円
○遺言等はなし
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2 相続分と特別受益
(1)法定相続分と具体的相続分
相続分を考えるにあたり、出発点に
なるのは、
法定相続分か
指定相続分(遺言で指定された相続分)
です。
今回は、遺言はありませんので、
法定相続分が出発点になります。
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○法定相続分
子A(1/3) 子B(1/3) 子C(1/3)
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特別受益は、この法定相続分を
相続人の公平の観点から修正するものです。
その修正された相続分は、
「具体的相続分」などと呼ばれたりします。
特別受益は、相続分という比率をだすたために
算定するものですが、具体的な財産額を基準に
判断されるため、誤解が生じやすいのではないかと
思います。
(2)特別受益による具体的相続分の計算
今回は、子Cに対してのみ、500万円の
特別受益にあたる生前贈与がなされています。
この特別受益は、相続分の計算において
みなし相続財産の中に持ち戻され、実際に贈与
受けた子Cの相続算定上、マイナスされます。
言葉のみですと?となりそうな部分ですので、
今回の事例で計算してみます。
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○みなし相続財産=4000万円
【相続財産(自宅不動産2000万円+預金1000万円)+特別受益(1000万円)】
A=みなし相続財産(4000万円)×法定相続分(1/3)
=1333万3333円(少数省略)
B=みなし相続財産(4000万円)×法定相続分(1/3)
=1333万3333円(少数省略)
C=みなし相続財産(4000万円)×法定相続分(1/3)ー特別受益(1000万円)
=333万3333円(少数省略)
各具体的相続分
=A(1333万3333円):B (1333万3333円):C(333万3333円)の比率
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(3)具体的相続分はあくまでも本来の相続財産に対して有するもの
そして、実際の相続財産である
○自宅不動産(2000万円)と預金債権(1000万円)
がこの具体的相続分の比率で共有状態となることとなります。
あくまでも、特別受益が影響を及ぼすのは、実際の相続財産に
対する持分率への影響ということです。
これの相続分を前提に遺産分割により財産の帰属を
確定させていくこととなります。
(もちろん、合意ができれば相続分とは異なる
遺産分割も可能です。)
結果としては、今回のように上記の計算Cの部分が正の値であれば、
相続分の「価値」としては、
A:1333万3333円
B:1333万3333円
C: 333万3333円
となります(結局、分数におき直すと分母が相続財産の価額となるからです)。
一方で、今回とは異なり、Cの特別受益の額が
1333万3333円を超えている場合には、
Cの計算部分はマイナスとなります。
その場合には、相続財産のである
自宅不動産(2000万円)と預金債権(1000万円)
に対するCの持分が0となるのみ(マイナス換算はされません)
で、AとBが1/2ずつ具体的相続分を有するこことなります。
マイナスがでたからといって、そのマイナス部分を
A、BがCに対して請求できるわけではありません。
以上より、特別受益は、本来の相続財産に対する相続分の
算定に使われるものであり、被相続人の相続財産が増えるわけでは
ないという点はご理解いただけたかと思います。
なお、この相続財産に対する相続分の算定の問題と
遺留分の問題は、当メルマガでも繰り返し申し上げて
いるとおり、別の問題ですので注意が必要です。