会社法

自己株式取得規制の例外規定の適用可否(代物弁済)

永吉先生

お世話になっております。
清算予定会社から貸付金の代わりに自己株式の代物弁済を受ける場合に、取締役会決議で手続を完結できるかご教示下さい。

【前提】
・A社はB社に400百万円貸付金があり、B社は間もなく事業廃止・清算予定。
A社の株主構成はオーナーC及び一族が2/3弱、B社の株主はオーナーCのみ。

・B社の資産は預金300百万円、A社株式150百万円のみ。
負債はA社宛借入金400百万円のみ、純資産は資本金10百万円及び利益剰余金40百万円。

・A社は貸付金400百万円につき、預金及び自己株式の代物弁済により回収予定。
但しA社は少数株主の一部と係争中で、株主総会を開催したくない。

・よって、自己株式取得規制の例外である会社法施行規則27⑧
「その権利の実行に当たり目的を達成するために当該株式会社の株式を取得することが必要かつ不可欠である場合」
の適用を検討している。

【ご質問】
①法務省の2009/3/30付の会社法施行規則等改正パブコメ結果には、27⑧の典型例として
「債務者が当該株式会社の株式以外にみるべき財産を有しない場合において,当該自己の株式を強制執行によって取得する場合又は代物弁済として受領する場合」
とあります。

本件ではB社は借入400百万円に対し預金300百万円があるため、不足分は100百万円です。
A社が自己株式150百万円のすべてを取得した場合、自己株式150百万円代物弁済+預金250百万円通常弁済となります。
この結果、B社は余剰金50百万円を残余財産としてオーナーCに分配すると考えられます。
このような場合でも、A社は27⑧により役会決議で手続を完結できますでしょうか?

②前問で仮に総会特別決議が必要となる場合、代物弁済が100百万円分の自己株式であればいかがでしょうか?
この場合は、自己株式100百万円代物弁済+預金300百万円通常弁済となります。
結果、B社にはA社株式50百万円が残り、これをオーナーCへ残余財産として分配します。
このケースでは、A社の自己株式100百万円について、役会決議で完結できますでしょうか。

お手数お掛けしますが宜しくお願い申し上げます。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

ご質問の内容を拝見しましたが、
>但しA社は少数株主の一部と係争中で、株主総会を開催したくない。

とのことですが、むしろこの係争との関係を踏まえた
上で、対応をご検討された方が良いと思います。

この係争の内容を把握しておりませんので、
何とも言えませんが、
ご質問の行為が争点の複雑化や民事上の株価評価の
問題含め、仮に取締役会のみで行えたとしても、
A社サイドに不利に働く可能性も高いのではないか
と懸念しています。

係争中で弁護士が会社についているということで
あれば、その辺りのバランス調整もした上でご意思決定
された方が良いかと思います。
(むしろ、株主総会を開催した方が良いという可能性や
そもそも今のタイミングでは行わない方が良いという可能性も
比較的高いようにも思えます。)

以下では、ご質問の株主総会手続きなしで
自己株式取得が行えるのかという点について回答します。

1 ご質問①

>本件ではB社は借入400百万円に対し預金300百万円があるため、不足分は100百万円です。
>A社が自己株式150百万円のすべてを取得した場合、自己株式150百万円代物弁済+預金250百
>万円通常弁済となります。
>この結果、B社は余剰金50百万円を残余財産としてオーナーCに分配すると考えられます。
>このような場合でも、A社は27⑧により役会決議で手続を完結できますでしょうか?

この点については、明確な裁判例等があるわけでは
ないのですが、

「その権利の実行に当たり目的を達成するために
当該株式会社の株式を取得することが必要かつ不可欠である場合」

の要件について、これは自己株式取得の手続きに関する
株主の平等についての重大な例外なので、一般論としては
かなり厳格に解されるものと考えられます。

また、本件では、B社のオーナーとA社のオーナーが
同一人物であるCということで、係争が生じているこのタイミングで
不可欠と評価できるのかという問題もあります。
(つまり、破産手続きに入る等で株主総会による手続き等によってしまうと
回収が困難になる事情がどこまであるのかという判断に影響を及ぼします。)。

>「債務者が当該株式会社の株式以外にみるべき財産を有しない場合において,当該自己の株
>式を強制執行によって取得する場合又は代物弁済として受領する場合」

この例も、あくまでも一般論ですので、
B社の状況(しかも内容をA社のオーナー株主Cが決められる立場にある)
などに依存してくると思われます。

そもそも緊急事態において、債権の回収が困難となることを回避し、
他の株主の利益を図るための例外ですから、他の株主と
係争中であることから株主総会を開催したくないというだけの
状況ですと難しいのではないかと思いますし、

既に係争中ということであれば、
役員への責任追及等の問題も出てくるところですので、
あまり安易に実行しない方が良いのではないかと思います。

2 ご質問②

>前問で仮に総会特別決議が必要となる場合、代物弁済が100百万円分の自己株式であればいか
>がでしょうか?
>この場合は、自己株式100百万円代物弁済+預金300百万円通常弁済となります。
>結果、B社にはA社株式50百万円が残り、これをオーナーCへ残余財産として分配します。
>このケースでは、A社の自己株式100百万円について、役会決議で完結できますでしょうか。

この点についても、典型例としては、上記が
挙げられておりますが、法律の趣旨からすると、
オーナーCが最終的にいくら受け取れるのか等の問題ではなく、

自己株式取得の手続きを省略してもなお、他の株主も含めた
会社の利益が害されることを回避するための不可欠性があるのか
というところだと思いますので、代物弁済と通常弁済の比率
で決定的に何かが変わるというものではないと考えられます。

最終的には、少数株主との係争等との関係から
無効とされるリスクがあるが実行した方がいいケースなのか
否か等をかなり多角的かつ深く詰めた上で、
決定する必要があるかと思います。

よろしくお願い申し上げます。