先日、大株主が認知症のため、解散決議ができなくて
困っています、とご相談しました。
そこで、認知症になってしまった今回のお話は、仕様がないとして、
認知症などになってしまっても決議を有効にする事前の対策を
教えていただきたいのです。
1.後見人を選任する方法
2.信託を使う方法
この2つはすぐに思いつくのですが、ネットを見ていると
属人的株式を使った方法が、記載されていました。
(株主総会における議決権に関する株主ごとに異なる定め)
第〇条 株主Aに下記の事由が生じている間に限り、株主Bは
その保有する株式1株につき1000個の議決権を、株主Cはその
保有する株式1株につき500個の議決権を有する。
① 認知症、病気、事故、精神上の障害による判断能力の喪失
② 行方不明
2 株主Aについて、補助人、保佐人、成年後見人が選任された場合、
又は任意後見人との間に任意後見契約の効力が発生した場合は、
前項の規定はその効力を失う。
このことを書かれているのは行政書士の先生です。
この方法は、定款変更だけで済むので、効率及びコストの面では、
ありがたい方法ですが、法的には問題ないのでしょうか。
よろしくお願いします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>ネットを見ていると
>属人的株式を使った方法が、記載されていました。
>(株主総会における議決権に関する株主ごとに異なる定め)
>第〇条 株主Aに下記の事由が生じている間に限り、株主Bは
>その保有する株式1株につき1000個の議決権を、株主Cはその
>保有する株式1株につき500個の議決権を有する。
>① 認知症、病気、事故、精神上の障害による判断能力の喪失
>② 行方不明
>2 株主Aについて、補助人、保佐人、成年後見人が選任された場合、
>又は任意後見人との間に任意後見契約の効力が発生した場合は、
>前項の規定はその効力を失う。
>このことを書かれているのは行政書士の先生です。
>この方法は、定款変更だけで済むので、効率及びコストの面では、
>ありがたい方法ですが、法的には問題ないのでしょうか。
2 回答
この条項単体で見る限り、
以下の2点については、ご考慮された方が良いかと思います。
(1)その他の既存株主がいる場合
株主総会における特殊決議のみでなく、
既存株主全員の同意があるケースであれば特に
問題とならないですが、
属人的株式を利用する場合には、既存株主に
配慮する必要があります。
属人的株式は会社法上、認められているものですので、
要件さえ満たせば特に問題ないように思われがちですが、
例えば、既存の少数株主排除のための利用等ですと、
事例による個別判断になりますが、属人的株式の設定を
無効とした裁判例が存在します(東京地裁立川支部平成25年9月25日判決)。
個人的には会社法上明確に認められているものについての
この判決は問題があるようには思っていますが。
認知症対策のためということであれば、通常は問題
ないと思いますが、反対する株主等が存在する
場合には、株式1個の議決権を倍数化するよりも、
例えば、以下のように足し算にすると他の株主の
議決権が薄まるわけではないので、この点のリスク
ヘッジが可能です(書籍等で表に出ている方法では
ありませんが)。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
(株主総会における議決権について株主ごとに異なる定め)
第○条 株主A に以下の事由が生じている間に限り、株主Aの保有する株式1株
の議決権は、0個とする。
一 医師の診断書により認知症であると判断されたとき
二 ……省略……
2 株主A に前項の事由が生じている間に限り、株主B の保有する株式1株の議
決権の個数は、以下の計算式による。
1 + 株主Aが保有する株式数/株主Bが保有する株式数
※端数が生じる場合は状況に応じて調整
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
なお、これはそもそも論になりますが、先生のご指摘いただいた
条項の「認知症、病気、事故、精神上の障害による判断能力の喪失」
というのは実際には、どの時点で判断能力の喪失があったのか、
本当にあったのかというのは、明確ではありません。
ですので、私の条項も「医師の診断書」というある程度客観的なものを用意して
おりますが、これもどの時点からかは診断書がいつでたのか等によって変わってきて
しまうものです。
もちろん、株主間に争いがなければ良いのでしょうが、
実務上はより明確にしておくため、任意後見契約を併せて行って
おき、後見監督人が選任された時等より明確になるように
配慮することが多いと思います。
ただ、今回のご質問の目的は、後見人等を
利用しないという前提かと思いますので、
上記の若干のリスクはありつつも、上記の方法で、
リスクヘッジするという意味合いであれば良いのかと思います。
(2)後見人等が選任された場合には属人株の効力が失われるとされている点
これも、個別のケースによりどのようにすべきかは
ケースバイケースかと思いますが、
例えば、法定後見人の場合、会社に関係のない
親族等でも選任の申し立てができてしまいます。
そうすると、株主総会をする前に意図しない後見人が
選任され、関係者が思った通りの決議ができないという
事態は想定されます。
もちろん、そうなったとしても保険としてとりあえず、
入れておこうという趣旨であれば入れること自体は良い
かと思いますが、この点は注意が必要かと思います。
その他、先生からご指摘があった方法以外では、
例えば、Aが認知症になった場合には、会社が株式を
強制的に買い取れるようにしておく等の対応も
考えられますが、これも買取資金の問題等を考慮
しなくてはなりません。
このあたりの一番良い方法というのは、やはり
会社や家族状況などによりケースバイケースの
判断が求められることとなりますが、
もちろん保険として属人株の設定だけはとりあえず、
しておくという判断もありなのではないかと思います。
よろしくお願い申し上げます。