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法人破産における破産債権の貸倒れは、法律上の貸倒れなのか?

永吉先生

破産した債務者(法人)に対する債権について、その法人が破産の終結決定で法人格がなくなった場合の取扱いについて教えてください。

破産債権は法的に消滅しないと言われますが、破産した法人が終結決定で法人格がなくなった場合、その債権は私法上どのような取扱いになるのでしょうか?法的に消滅することはないと思いますが。

貸倒損失の計上で、法的に消滅すれば損金経理要件などありませんが、事実上の貸倒れになると損金経理等しておかないとリスクがあります。終結決定としても、以下の通り事実上の貸倒れになると思いますが、整理したく思います。

https://www.eyjapan.jp/library/issue/info-sensor/pdf/info-sensor-2009-08-04.pdf

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>破産した債務者(法人)に対する債権について、その法人が破産の終結決定で法人格がなく
>なった場合の取扱いについて教えてください。

>破産債権は法的に消滅しないと言われますが、破産した法人が終結決定で法人格がなくなっ
>た場合、その債権は私法上どのような取扱いになるのでしょうか?法的に消滅することはな
>いと思いますが。

>貸倒損失の計上で、法的に消滅すれば損金経理要件などありませんが、事実上の貸倒れにな
>ると損金経理等しておかないとリスクがあります。終結決定としても、以下の通り事実上の
>貸倒れになると思いますが、整理したく思います。

2 回答

そもそもの事実上の貸倒れの損金経理要件の要否は、別の問題として、

法人破産の場合には、法的には法人格の消滅に伴い、その債権は法的に消滅します
(最高裁平成15年3月14日等)。

この点に関する損金経理等の問題は、
https://zeirishi-law.com/kashidaole/houtekiseiri/1#i-5
にも記載しておりますが、

一般的な解説書などでは、
古い時代からの通達の解説で「破産」には法的な債権の切捨て
という手続きがないため、
事実上の貸倒れの典型であると現状でも解説されるものが多数存在します。

しかし、法人破産においては、法人格の法的な消滅により、
債権が法的に消滅しますので現在ではミスリードかなとは思います。

法人の破産手続きにおいては、民事上はもちろんのこと、
税務上も破産手続の終結決定(または廃止決定の確定)があった時点で、
法人格が消滅し、その時点で債権が消滅し、
貸倒れがあったと解されているものと
思います(国税不服審判所平成20年6月26日裁決)。
(もちろん、保証人等いれば別ですが)。

この裁決も、
「法人が所有する金銭債権が貸倒れとなったか否かは、
第一次的には、その金銭債権全体が滅失したか否かによって判定され、
その債権が滅失している場合には、法人がこれを貸倒れとして損金経理しているか否かにかかわらず、税務上はその債権が滅失した時点において損金の額に算入することとなる。」

とした上で、「法人の破産手続においては、配当されなかった部分の破産債権を法的に消滅させる免責手続はなく、裁判所が破産法人の財産がないことを公証の上、出すところの廃止決定又は終結決定があり、当該法人の登記が閉鎖されることとされており、この決定がなされた時点で当該破産法人は消滅することからすると、この時点において、当然、破産法人に分配可能な財産はないのであり、当該決定等により法人が破産法人に対して有する金銭債権もその全額が滅失したとするのが相当であると解され」とし、

債権が「滅失した」と認定していることから損金経理が不要と判断しているものと
思われます。それより早く貸倒れにする場合には、事実上の貸倒れとして、9-6-2の要件
が必要と述べているに過ぎません。

ただ、他の解説書等によれば、事実上の貸倒れだという
前提で解説されるものも多いという点があり、税務訴訟等に
強い弁護士(当たり前ですが、数は多くないのですが。。。)などで、

この点については、随時情報共有していますが、
上記の最高裁や裁決例等も根拠資料にしつつ、

裁判(税賠含む)上も、更正の請求の場面でも、
損金経理なしで、法律上の貸倒れとして認められてはいますね。

もちろん、現場の調査官が知っているのかという視点では、
ご指摘の通り、損金経理をするに越したことはないとは
思いますが。

よろしくお願い申し上げます。