相続 清算 株式 会社法 倒産法

代表者不存在で、判断能力のない大株主がいる場合の法人の清算

お世話になります。●●と申します。

株式会社を解散したいのですが、大株主に判断能力がない場合及び
株式会社の代表者が死亡し、次の代表者の候補がいない場合の対応について
教えてください。

(前提)
・甲社は解散を考えています。
・甲社株式の過半数を持つ前代表者乙(60%株式保有)は判断能力に問題があります。
・甲社の現代表者は乙の弟丙(40%株式保有)ですが、最近死亡しました。
・甲社の役員は丙1人で、従業員は丙の妻だけです。

・60%の株を持つ乙の判断能力に問題があるため、解散決議ができません。

・丙の死亡に伴う次の代表者の候補者がいません。
・丙の相続人も、何もわからない自分たちが会社を整理するようなことがないように
丙に対して、生前にさっさと会社を整理しておいてほしいと要求していました。
・しかし、株主乙の判断能力の問題で、先送りになっていたのです。
・したがって、自分たちが次の代表者なんてとんでもない、という状況にあります。

(質問)
・解散をするには、乙の後見人を選任するしかありませんか。
お金がないということで、後見人を選任する方法は、避けたいとのことです。
お金がないというのは口先だけではなく、実際に何とか生活をしているというのが実情です。

・後見人を選任すると、乙の会社に対する債権は、被後見人の利益を守るため、
放棄できなくなるのでしょうか。

そうなると、債務超過が解消せず、特別清算ということになってしまうと思うのです。

・前述のように、次の代表者が選任できない場合、裁判所に一時代表取締役の選任を申立てすることもできるようですが(会社法351条2項)、
そういうこともせず(というより関係 者たちはしたくない)、解散もせず(というよりできない)、会社を放っておいたとしたら、どのような問題がありますか。
現実にはこのような会社は多いようにも思います。
なお、第三者の債権者に対しては、その義務は履行しています。
親族債権者は、債権放棄を予定しています。

以上のように、打開策が見出さないのです。

どうかよろしくお願いします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①~議決権の行使について~

>・60%の株を持つ乙の判断能力に問題があるため、解散決議ができません。
>・解散をするには、乙の後見人を選任するしかありませんか。
>お金がないということで、後見人を選任する方法は、避けたいとのことです。

法的に「適法かつ有効」に会社を清算する方法としては、
その他に株主による解散請求(裁判所に解散命令を求めるもの)
がありますが、

この制度は最後の砦ともいえるものですので、
そもそも後見人を選任すれば良いという事案では、
裁判所は認めないものと思われますし、

>・前述のように、次の代表者が選任できない場合、裁判所に一時代表取締役の選任を申立て
>することもできるようですが(会社法351条2項)

とのことですから、そもそも裁判所関与の手続き
自体をしたくないということですと、
「適法かつ有効」に会社を消滅させる方法がありません。

したがって、元気なうちの
認知症対策がとても重要という点になってしまうのですが。

金銭面の話をすると、先日最高裁でも方針が
示されましたが、原則として乙の親族を後見人に
就任させるとされています。

もちろん、最終的には裁判所が決定すること
ですが、
乙の身近な親族が選任された場合、
親族全体の過処分金額の変更をさせない
ということは可能かとは思います。

2 ご質問②~会社に対する債権放棄について~

>・後見人を選任すると、乙の会社に対する債権は、被後見人の利益を守るため、
>放棄できなくなるのでしょうか。
>そうなると、債務超過が解消せず、特別清算ということになってしまうと思うのです。

後見人の行為として、法的に裁判所の許可が必要なものは、
居住不動産の処分だけですので、法的に債権放棄ができない
というわけではありません(後見監督人がついた場合には後見監督人の許可は必要です)。

ただ、後見制度の趣旨は被後見人の生活や財産の保護
ということにありますので、債権放棄をするには
合理的な理由が必要です。

少なくとも専門家(主に司法書士・弁護士)
が後見人になった場合、債権放棄はしてくれないと思いますし、

親族が就任した場合にも、債権放棄をすることが
乙の利益に資するということは本来ないでしょうから、
勝手にしたとなれば、裁判所等から指導を受け、
その金額にもよりますが、

後見監督人の選任や後見人の専門家への変更
という措置がされてしまう可能性もあります。

ご指摘のとおり、債権放棄ができず、
債務超過が解消できないということですと、
通常清算はできませんので、
特別清算か破産手続となるかと思います。

地域の裁判所の運用によりますが、このような
ケースだと破産手続に移行させることが多いように
思います。

債権放棄をしないとすると特別清算の
和解型での解決ができないからです。
(ここは、事前に家庭裁判所と後見人が
協議して、特別清算の手続に乗ったという
ことであれば、債権放棄を認めるという
家裁からのお達しを先にするという
運用も地域においてまちまちでしょうが。)

3 ご質問③~放置するという方法について~

>解散もせず(というよりできない)、会社を放っておいたとした
>ら、どのような問題がありますか。
>現実にはこのような会社は多いようにも思います。

そうですね。実際のところ、解散決議だけして、
債務超過で破産手続の費用が賄えないため、
放置されているという会社も現実的には多いですし、

解散もされていないケースでも
事業自体は止めてしまって放置ということは現実論としては、
あり得るところです(税務的な意味での休眠扱い)。

責任を取る役員もおらず、
債権者や株主が何も言わないという前提で
あれば、問題が顕在化することはないように思います。
(最終の登記から12年以上経過するとみなし解散
とされることがありますが、結局清算の
結了自体は株主総会なしではできません。)

乙に相続が発生した後に整理するということも
現実論としてはあり得るところかなと思います。

なお、そもそも乙の生活のために後見人なしで
進めることに問題がないのかについては、別途
考慮する必要はあるでしょう。

よろしくお願い申し上げます。