以下の件について、御指導いただけませんでしょうか。
顧問先法人のスタッフ1名の雇用契約は、通常社員の70%勤務時間です。
ご実家が自営業を行っており、フルタイムの勤務が難しいという状況があり、
通常の社員の勤務時間について、70%相当を勤務すればよいということにしました。
一応、雇用契約書には、月曜(祝日の場合には火曜)、水曜、金曜とし
必要がある場合には、別曜日も出勤をする。
という記載がありますが、現実的には、曜日関係なく
業務の状況にあわせて、スタッフ本人のスケジュールで勤務をしていました。
月給制、残業は20日〆、月末給与支給です。
今回、GWなどもあり、休日が多く通常の勤務時間以外に、
残業や休日出勤が発生しています。
振替休日を取得するように社長が指示しましたが、業務多忙とのことで
振替休日を取得しないままになりました。
20日〆の勤務表を集計したところ、実際に勤務していない日に有休をつけて来ました。
有休は確かに事前に申請がありました。
この有休は社長が了解しています。
しかし、あまりにも社長からみると、
そもそもが70%勤務時間の雇用なのに、
それ以外の30%相当日を有休消化とするのは
ちょっと違うのではないか、とスタッフに言いましたところ、
スタッフ本人の主張は、70%の雇用契約にある勤務時間内で
有休消化をしたのである、ということです。
よって、有休が70%勤務時間に先に充当され、
それ以外の勤務時間は70%範囲を超えたら残業だ、といいます。
ちなみに、当該法人は32時間ほどの
みなし残業手当を支給していますが、
今回はみなし残業時間も、実際の残業、休日出勤、有休消化により超えています。
追加での残業代が発生しています。
このような場合、どのように対処すればよいですか。
また今後の管理方法などについて、ご注意をお知らせください。
ご指導をいただけませんか。
よろしくお願いします。
お世話になっております。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①~今回の事案における扱い~
> このような場合、どのように対処すればよいですか。
(1)有給休暇の取得について
> 20日〆の勤務表を集計したところ、実際に勤務していない日に有休をつけて来ました。
> 有休は確かに事前に申請がありました。
> この有休は社長が了解しています。
まずは、該当社員が、この日に有給休暇を
取得することが可能か(取得したものとして
会社が扱わなければならないか)が問題となります。
有給休暇は、法的には、労働者の労働日における
労働義務の免除、および、労働者がその日に労働した
ものとして、給与の支払いを行わなければならない
という効果がある制度です。
したがって、労働者は、自分の所定労働日にのみ、
有給休暇を取得することができます。
(会社と労働者の契約(個別合意も含む)において、
そもそも休日である日について、労働者は、
有給休暇を取得して出勤したことにして、
その分の給与を請求することはできません)
> 顧問先法人のスタッフ1名の雇用契約は、通常社員の70%勤務時間です。
> 一応、雇用契約書には、月曜(祝日の場合には火曜)、水曜、金曜とし
> 必要がある場合には、別曜日も出勤をする。
> という記載がありますが、現実的には、曜日関係なく
> 業務の状況にあわせて、スタッフ本人のスケジュールで勤務をしていました。
このように、契約書上の記載と、
実際の運用が異なっている場合、
会社と労働者との契約(個別合意含む)において、
どの日が労働日であると解釈されるかは、
判断が分かれるところだと思いますが、
特に労働関係においては、実態が重視されます。
実際の運用において、該当社員の希望に応じて、
出勤日を定めているということだと、
シフト制のように、個別で定めた日が
労働日であるということになる可能性が
高いのではないかと思われます。
> 有休は確かに事前に申請がありました。
> この有休は社長が了解しています。
また、この有給の申請・了解の手続により、
その日を労働日として、そこに有給を充てるという
合意があったということになると考えられます。
厳密には、会社として有給の承認という
行為はないのかもしれないですが、
そもそも、有給取得には会社の承認は不要ですし
(例外的に時期変更が認められる場合があるのみ)
有給申請があり、会社からも、そもそも
その日は労働日ではないので有給は使用できないという
ことを明示していないのであれば、
これをもって、上記のような合意があったと
されてしまう可能性が高いです。
法的にはこの日に社員が有給を取得したもの
と判断されてしまうでしょう。
(2)他の出勤日について
こちらも、実際に勤務をしている以上、
労働をしたものとして、
給与計算をするほかないでしょう。
> 振替休日を取得するように社長が指示しましたが、業務多忙とのことで
> 振替休日を取得しないままになりました。
ということだとしても、特定の日について、
労働することを禁止するような指示を
具体的に行っていない限り(その証拠がない限り)
は、実際に勤務した日を出勤と
認めないということは難しいかと思われます。
2 ご質問②~今後の運用における注意点~
今回の問題点は
> 通常の社員の勤務時間について、70%相当を勤務すればよいということにしました。
> 一応、雇用契約書には、月曜(祝日の場合には火曜)、水曜、金曜とし
> 必要がある場合には、別曜日も出勤をする。
> という記載がありますが、現実的には、曜日関係なく
> 業務の状況にあわせて、スタッフ本人のスケジュールで勤務をしていました。
具体的な労働日がいつなのかにつき
明確な定めがなく、社員の裁量に任せるような
運用がなされている点だと思います。
そうすると、社員が出勤日と指定した日が
労働日になり、その日に有給を
取得することも可能となってしまいます。
対策としては、運用を雇用契約書に合わせ、
原則として、出勤日は、月曜(祝日の場合には火曜)、
水曜、金曜として(所定時間も定める)、
労働日を他の日に変更する場合には、本人の申請に基づき、
会社の承認を必要とするという体制をとる(申請と承認を
メールやチャットなど証拠に残る形で行う)ことが考えられます。
そうすれば、社員は、勤務日とされた日にしか、
有給を取得することはできず、会社の想定外の日に
有給を消化されることはなくなります。
(労働日でない日に有給を取得することはできないので)
よろしくお願い申し上げます。