民法 法人税

業務委託契約の資産の所有権の帰属について

永吉先生
お世話になっております。

表題につき、ご回答お願い致します。

法人A(委託者)と個人B(受託者)の間で飲食店の業務委託契約を
締結しています。
委託内容は店舗の運営です。

この度、同契約をしている他店舗の受託者が契約を解消したことに伴い
Bが当該他店舗(以下C店舗)を、同契約により受託することになりました。
その際、BがC店舗の内部造作を1千万で行いました。

契約書において内外装の改変・補修はBがAの承諾を書面で得なければならない旨の記載があり、
内外装、什器、在庫等は全てAが所有権を有することになっています。
また、修繕費及び改装費はAが一旦支出を行い、その後業務委託料の計算において
控除される旨の記載もあります。

しかし、Aの承諾を得る旨の書面の取り交わしがなく、口頭の確認のみで工事の実行
をしています。

この場合、工事費用をAに求めることは可能でしょうか。
また、工事費用の負担を求めた結果、Aが工事費用を契約書通り一旦負担するとなっ
た場合には当該資産の所有権はAに帰属すると考えますが、
Aが負担を拒否した場合には当該資産の所有権はどちらに帰属するのでしょうか。
また、拒否したとき所有権がAに帰属するとした場合は、Aは受贈益(Aの所有になる
ものを勝手にBが工事をした)の計上をすることになるのでしょうか。
それとも一旦資産の計上はしておいて毎月の業務委託料の控除の際に収益を
認識することになるのでしょうか。

A、Bの関係性はあまり良い状況ではなくAに負担を拒否される可能性が
高いと考えています。
Bとしては、費用負担もしてもらえず内部造作部分の所有権も取得できない(契約解
消時にAに売却できない) ことは避けたいと考えています。
良い方法がありましたら、合わせてご教授いただければ幸いです。

よろしお願い致します。

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜Aの費用負担と所有権の帰属~

>Bが当該他店舗(以下C店舗)を、同契約により受託することになりました。
>その際、BがC店舗の内部造作を1千万で行いました。
>契約書において内外装の改変・補修はBがAの承諾を書面で得なければならない旨の記
>載があり、内外装、什器、在庫等は全てAが所有権を有することになっています。
>また、修繕費及び改装費はAが一旦支出を行い、その後業務委託料の計算において
>控除される旨の記載もあります。
>しかし、Aの承諾を得る旨の書面の取り交わしがなく、口頭の確認のみで工事の実行
>をしています。

>この場合、工事費用をAに求めることは可能でしょうか。
>Aが負担を拒否した場合には当該資産の所有権はどちらに帰属するのでしょうか。

通常の飲食店の店舗運営の委託は、民法上の準委任と評価されるため、
民法のルールでは、
受任者Bが委任事務を処理するために支出をして得た所有物を委任者A
に引き渡す義務を負う一方、委任者Aは費用を負担する義務を負います。

ただし、今回は、

特約①
>契約書において内外装の改変・補修はBがAの承諾を書面で得なければならない旨の記
>載があり、

特約②
>内外装、什器、在庫等は全てAが所有権を有することになっています。

特約③
>また、修繕費及び改装費はAが一旦支出を行い、その後業務委託料の計算において
>控除される旨の記載もあります。

とのことですので、この民法のルールが契約で、修正されていると言えるでしょう。

最終的にはこの特約の契約書の具体的な文言、契約締結の経緯
これまでのBとAのやりとりや取引経緯から合理的意思解釈の問題となります。

また、各特約は相互関連するものとして今回の事案でどう適用されるのか
解釈されることとなるでしょう。

正直、契約書すら見ていない状態では、今回のご相談については判断
は難しいです。

例えば、特約①の書面による承諾がない改変・補修については、
その承諾がなければ、Aは一時の負担もしないという趣旨(上記の
委任者Aは費用を負担する義務の修正)なのか、
勝手な改変・補修については、A の請求があれば、
Bが原状回復する義務を負うという趣旨なのかなど解釈は分かれます。
(なお、従前からAとBは書面によることなく修繕等をしていた
などの経緯があれば、契約書の文言はそうなっているが真実の契約内容
としては、必ずしも書面は必要ないという判断もあり得ます。)

また、特約②についても、Aの事前の承諾があった(またはAが事後に承諾
した→原状回復を請求しなかった)場合に限定して適用される趣旨の
ものなのか、それとも、どんな状態であれ、Bが行った造作であれば所有権が
Aに帰属するという趣旨なのかなど、特約①との関係も踏まえた上で解釈していく
必要があります。

通常であれば、費用の負担もせず、所有権だけ取得するという状態
というのは、バランスがあまりにも悪いので、
弁護士の法的構成がある程度できれば、裁判所もここのバランスはとるか
と思いますが、

特約③で結局のところ、最終的には、造作費用もBが負担する
ということになるのであるから、特約②も、後者と解釈される可能性も
でてきます。

なお、
>所有権がAに帰属するとした場合は、Aは受贈益(Aの所有になる
>ものを勝手にBが工事をした)の計上を
>することになるのでしょうか。それとも一旦資産の計上はしておいて毎月の業務委託
>料の控除の際に収益を認識することになるのでしょうか。

厳密には、上記の民事上の解釈とも関連します。
仮に、所有権はAに帰属し、Aの一時の費用負担も0という
解釈適用がされることを前提にすると、前者になると考えられます。
(あくまでも特約③自体は、一旦Aが負担することを前提に
業務委託料から控除するものとなっていますので)。

ただ、実務的に裁判もせずに、上記を判断することは困難ですので、
A ・Bの争いとなった場合には、その実際の対応に合わせて
申告していくこととなるでしょう。
(後に確定すれば、更正の請求または修正申告)。

2 ご質問②〜今後の対応〜

>A、Bの関係性はあまり良い状況ではなくAに負担を拒否される可能性が
>高いと考えています。
>Bとしては、費用負担もしてもらえず内部造作部分の所有権も取得できない(契約解
>消時にAに売却できない)
>ことは避けたいと考えています。
>良い方法がありましたら、合わせてご教授いただければ幸いです。

そうですね。
今回の件は、過去のことですので、
仮にAが一切の負担をしないという主張が明確ですと、
Bとしては裁判などの法的手続きで上記の解釈のうち
いかに自身に有利に主張・立証をしていくかに尽きるかと思います。

一旦、Bとしては、費用負担の請求をしてみて、
拒否されたという場合には、一度、弊社の無料面談等
で、契約書やこれまでの経緯などをお客様からヒアリングさせて
いただければ、より見込みの高い判断ができるものと思いますし、

お客様のご意向等も踏まえつつ、今後の対応について
お話しできるかと思います。

よろしくお願い申し上げます。