民法

財産の差押えの競合が可能かについて

永吉先生

お世話になっております。
財産の差押えについてご質問です。

A社という多額の借金を抱えている会社があります。

A社の借入先は、金融機関が5社、一般の株式会社であるZ社の合計6社とします。
A社は経営悪化により、借入の返済も利息の支払いもすべてストップしており、破産寸前でした。

そこに会計ファームが企業再生を請け負い、再生計画を策定し、バンクミーティングを重ね、
なんとか皆で協力して再生を支援しようという流れになりました。

その後、A社は決算による税務申告で、1000万円の還付金が生じることとなりました。
還付金の使い道は、再生のための運転資金に充てることで、各金融機関は納得しておりました。

しかし、ここでA社に対し、裁判所から債権差押命令が届きました。
上述した1000万円の還付金に対し、Z社が第三債務者としての国(国税資金支払命令官 〇〇税務署長)に差し押さえの手続きを行ったのです。
なお、Z社の債務額は1000万円丁度でした。

税務署にはこちらの都合を考慮して頂き、まだ還付は行われておらず、還付手続きを止めてもらっている状態です。

これを知った金融機関は当然憤慨しており、抜け駆けしたZ社への対抗策はないかと思案しております。

ここで質問なのですが、他の金融機関が同じように還付金の差押え手続きをすることは可能なのでしょうか?
そうなった場合、債務金額の多い順に還付金が割り当てられるのでしょうか?

なお、A社とZ社との借入は公正証書で契約が行われており、他の金融機関は通常の金銭消費貸借契約となっております。

漠然とした質問で申し訳ありません。
ご回答の程宜しくお願い致します。

●●先生

ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>財産の差押えについてご質問です。
>他の金融機関が同じように還付金の差押え手続きをすることは可能なのでしょうか?
>そうなった場合、債務金額の多い順に還付金が割り当てられるのでしょうか?

2 回答

(1)他の金融機関の差押手続きの可否

>他の金融機関が同じように還付金の差押え手続きをすることは可能なのでしょうか?

今回は、Z社(債権者)が、A 社(債務者)の国(第三債務者)に対する債権を
差し押さえたということですが、

>税務署にはこちらの都合を考慮して頂き、まだ還付は行われておらず、
>還付手続きを止めてもらっている状態です。

というのは、国はまだZ社に対する支払いや供託等をしていないという
ことだと思いますので、他の金融機関が還付金請求権の差押え(仮差押を含む)を
することが可能です。

(2)金融機関の債権回収の割合

>そうなった場合、債務金額の多い順に還付金が割り当てられるのでしょうか?

>上述した1000万円の還付金に対し、Z社が第三債務者としての国(国税資金支払命令官 〇〇
>税務署長)に差し押さえの手続きを行ったのです。
>なお、Z社の債務額は1000万円丁度でした。

ということですので、他の金融機関が還付金の差押え手続きをした場合であって、
かつ債権の総額が還付金の額を超える場合に当たりますので、
差押えの競合の問題となります。

この場合、差押え順や債権の多い順、差押えか仮差押えか等によって決まるのではなく、
債権額によって平等に按分されることになります。

例を挙げると以下のとおりです。

A社に対し、
・Z社が1000万円
・X銀行が1500万円
・Y銀行が2500万円
の債権をそれぞれ有していたとして、
還付金が1000万円の場合、

Z社:X銀行:Y銀行=2:3:5
すなわち、
・Z社が200万円
・X銀行が300万円
・Y銀行が500万円
の還付金の配当を受けることになります。

差押えが競合した場合の配当手続きは、必ず裁判所が行います。
勝手に債権者が自分の分を取り立てることはできません。

なお、以上は差押競合についての話ですが、

金融機関が(仮)差押え手続きをする前に、
取立訴訟の訴状が第三債務者(国)に送達されたり、
裁判所から転付命令が送達されたりした場合には、
金融機関は上記の配当を受けることができなくなりますので、
ご注意ください。

よろしくお願い申し上げます。