税理士賠償責任

税理士の重過失責任について

永吉先生、

お世話になっております。税理士の●●と申します。

法人との税務顧問契約(税務相談・税務プランニング)における留意点(税倍の観
点)につき質問させてください。先生の雛形をベースに先方と交渉しているのです
が、先方から下記の修正案提示を受けました(甲:先方、乙:私)。

(原 文)乙が本契約に基づいて行った本件委託業務について、乙の過失により甲が
損害を受けたときは、乙は甲より受けた本件委託業務にかかる直前6ヶ月分の報酬の
額を限度として損害を負担するものとし、甲はその余の請求を放棄する。
(修正案)乙が本契約に基づいて行った本件委託業務について、乙の過失により甲が
損害を受けたときは、乙は甲より受けた本件委託業務にかかる直前6ヶ月分の報酬の
額を限度として損害を負担するものとする。ただし、乙の故意又は重過失に起因する
場合は、この限りではないものとする。

この修正案につき、下記の点をご教示いただけないでしょうか。
①「甲はその余の請求を放棄する」という箇所が削除されているのですが、この修正
は実質的な影響は無いのでしょうか。
②「故意又は重過失」の場合は上限規定が外された形の修正案で、税理士のような士
業では重過失認定のハードルが低いことは理解しておりますが、条文の読み間違いは
重過失だが条文で不明確な部分や事実認定の見解相違は重過失に当たらない、という
ような大雑把な理解は正しいものでしょうか。
③「重過失」を「重過失(故意に準ずるものを指す。)」と修正提案しようかと思案
しておりますが、この修正は重過失認定リスクをだいぶ下げることとなりますでしょ
うか。
④他に良い対処がもしございましたらご教示いただけますと助かります。

お手数をおかけいたしますが、どうぞよろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①

>①「甲はその余の請求を放棄する」という箇所が削除されているのですが、この修正
>は実質的な影響は無いのでしょうか。

はい。ニュアンスの問題はありますが、
この点については問題ないと思います。

2 ご質問②

>②「故意又は重過失」の場合は上限規定が外された形の修正案で、税理士のような士
>業では重過失認定のハードルが低いことは理解しておりますが、条文の読み間違いは
>重過失だが条文で不明確な部分や事実認定の見解相違は重過失に当たらない、という
>ような大雑把な理解は正しいものでしょうか。

>条文で不明確な部分
条文で不明確であったとしても、裁判例や裁決例、通達(QA含む)
などで、一定程度確立された解釈があるとすると、
それを説明などせずに処理を行えば、条文の読み間違えと
同様に解されるとは思います。

もちろん、裁判例等がなく、一般的に解釈が確立されていない
場合は、そのとおりかと思います。

(ただ、その場合でも、重過失かどうかは別として、
解釈が確立されていないことを伝えて意思決定をしてもらう必要自体は
出てくると思います。結局は認定の問題となりますので。)

>事実認定の見解相違

こちらも結局のところ、具体的状況によることに
なりますが、法的には、一般的な税理士であれば、
容易にわかるような事実認定過誤であれば、
重過失の認定もあり得るところです。

3 ご質問③

>③「重過失」を「重過失(故意に準ずるものを指す。)」と修正提案しようかと思案
>しておりますが、この修正は重過失認定リスクをだいぶ下げることとなりますでしょ
>うか。

重過失がそもそも故意に近い過失を示す言葉で、
専門家責任の考え方は、「故意に準ずる」と評価するハードルが
低いということなので、そこまで厳密な意味があるわけでは
ないでしょうが、

最終的には認定の問題となりますので、このように
明確に入れておくことで、明確に限定する趣旨だった
んだということが認定しやすくなりますので、
入れておいても良いかとは思います。

4 ご質問④

>④他に良い対処がもしございましたらご教示いただけますと助かります。

雛形の説明書にも記載があるのでそちらも
ご参照いただいていると思いますが、

そもそも裁判となるとこの規定は、通常の顧問契約であれば、
重過失の事例では適用を排除される可能性が比較的高いものです。
(もちろん、金額や依頼内容等にも依存する問題もありますが)

ただし、説明書記載のとおり、紛争の重大化予防の観点から、
雛形では、重過失を除く形とはしていません。
(詳しくは説明書をご覧ください。)

ただ、既にこのような要望をしてきている依頼者様の場合、
そもそも、重過失を除く形としていなくても、問題が
起きれば、重過失の事例は除かれると主張してくる
可能性が高いので、そういう意味では、紛争の重大化の予防
の意義は薄れますので、重過失を除く提案を受け入れるという
ことは一つありかとは思います。

また、期間についても一般的なところよりもかなり短い
形(通常は1年以上)で、現状、先方も認めているところなので、
交渉を長引かせ、変にこのあたりの修正要望がくることは避けたいところです。

よろしくお願い申し上げます。