民法 労働法

使用人の賃金カット ( 減額) の方法について

永吉先生

お世話になっております。
●●です。

以下のことに関してお願い致します。

(前提)
1.A社は業績悪化のため使用人の給料の減額をするということです。(対象者は数
名です)
その際、具体的にどのようにしたらよいでしょうかきかれました。
2.それに対してとりあえず、会社の財務状況の説明、減額の必要性の説明、減額す
る金額
の説明、期間の設定などが必要ではないでしょうかと述べました。
3.そして、上記のことについて話し合い合意を得たら、合意書のような書面を交わ
しておく
べきではということものべておきました。
4.なお、役員の給与を減額することは決定しています。
5.参考として、雇用契約書はなく、就業規則は昔に作ったものがありますというこ
とです。

(質問等)
1.とりあえずは上記に掲げたように述べてありますが、使用人の賃金減額に関して
法律に
基づいて実施するにはどのような手順でどういうことすればよいでしょうか。
2.また、期間についてはそれも必要ですか言われましたが、個人的には合意を得や
すくする
観点からも期間は設定すべきと考えますがいかがなものでしょうか。

上記のことに関してご教示いただきたく願いますのてよろしくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問
>1.とりあえずは上記に掲げたように述べてありますが、使用人の賃金減額に関して
>法律に基づいて実施するにはどのような手順でどういうことすればよいでしょうか。

>2.また、期間についてはそれも必要ですか言われましたが、個人的には合意を得や
>すくする観点からも期間は設定すべきと考えますがいかがなものでしょうか。

2 回答

労働者の賃金減額の方法は、以下の2種類が考えられます。
(労働組合があれば労働協約の変更という方法もありますが、労働組合がない前提で回答します)。

①使用者と労働者との間の合意による方法(労働契約法(以下「法」といいます。)8条)
②就業規則の不利益変更による方法(法9条・10条)

(1)①合意による方法

まず、日本の法制度では、労働者は非常に守られていますので、
裁判所の認定も事業者に厳しいことから、

>3.そして、上記のことについて話し合い合意を得たら、合意書のような書面を交わ
>しておくべきではということものべておきました。

ご指摘のとおり、合意書等がないとそもそも合意がなかったと
認定される危険性が高いので、合意書を交わすことは必須と思います。

さらに、従業員の賃料減額については、合意があったとしても、
「労働者が自由な意思に基づき合意したのか」という点が問題
となります。

ですので、ご指摘のとおり、
>それに対してとりあえず、会社の財務状況の説明、減額の必要性の説明、減額す
>る金額の説明、期間の設定などが必要ではないでしょうかと述べました。

を行い、

合意書にも、
・減額の理由
・減額の期間
・具体的にいくら(もしくは何割)減額するか

は最低限合意書に記載しておいた方がよいでしょう。

>期間についてはそれも必要ですか言われましたが、個人的には合意を得や
>すくする観点からも期間は設定すべきと考えますがいかがなものでしょうか。

最終的には、
業態、会社の状況に現在受けている影響の程度によりますが、
減額の理由と期間がマッチしているということであれば、
説明を受け、自由な意思に基づき合意したと評価される
可能性がとても高くなります。

会社の状況にもよりますが、コロナの影響でという
ことであれば、時期的なことを考慮しないというのは
リスクが高いように思います。

合意を得やすいという点と法律的に有効な合意になるという
意味で、先生のおっしゃるとおりかと思います。

なお、合意による減額であっても、

就業規則に賃金額についての具体的な定めがある場合であって、
かつ合意した減額後の賃金が就業規則の定めを下回る場合、
その合意は無効となります(法12条)。
その場合には、労働者との合意により、そもそも就業規則を
変更する必要がありますので、注意が必要です。

(2)②就業規則の不利益変更による方法

賃金減額につき、労働者から同意を得られなかった場合には、
就業規則の変更によって賃金を減額する方法が考えられます。

法9条から、就業規則の変更による賃金減額は、原則として認められないのですが、
例外的に、
賃金を減額する旨の就業規則の変更を全労働者に周知徹底し、
かつ減額が合理的なものであると認められれば、
就業規則の変更によって賃金を減額することも可能となります(法10条)。

かなりハードルの高い方法ですが、
個別的な事情により、最終的には裁判所が判断することとなります。

一般的には、
・個々の労働者が受ける不利益の程度
・会社が労働条件を変更しなければならない必要性
・変更後の就業規則の内容自体の相当性
・変更に際して労働者側との間で講じた手段
・その他の就業規則の変更にかかる事情

などが考慮されます。
賃金減額というのは、労働者の権利の中核をなす
ものですので、通常は認められませんが、

現在の状況と会社の状況によるところとなります。

こちらは本当に最終手段ということになりますし、
まずは、先生のご提案されている①の合意による方法を
進めることになります。

よろしくお願い申し上げます。