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贈与契約書の記載方法とその効力

永吉先生、いつもありがとうございます。
●●です。

贈与契約書の記載方法とその効力について、教えてください。

個人大家さんで、親所有の賃貸不動産があるとします。
その家賃は自宅の近所の賃貸不動産なので現金で毎月、入居者から受け取って
いるものとします。

親が同居している子供の生活費の援助として、
賃貸不動産の現金回収の月額家賃10万円をあげるという話になりました。
これは親が回収してから子供がもらうのと
子供が直接、入居者からお金を回収するという行為は法律上、変わらないものでしょうか?

もちろん親と入居者の賃貸借契約で親は確定申告しているものとします。

年額120万円なので贈与税の申告はする方向なのですが、
贈与契約書の記載方法についてとその効力はいつまで生じるのか、
贈与契約書は毎年、作成するのかと相談を受けました。

永久に続くなら親が将来、痴呆になっても贈与が続くことになりおかしな
話になってしまうような気がします。、
したがって毎年、贈与契約書は作成すべきなのでしょうか?

記載方法は
財産の種類に
毎月、入居者Aから受け取る月額家賃10万円と記載したらいいでしょうか?

アドバイスをお願いします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜法的な性質

>親が同居している子供の生活費の援助として、
>賃貸不動産の現金回収の月額家賃10万円をあげるという話になりました。
>これは親が回収してから子供がもらうのと
>子供が直接、入居者からお金を回収するという行為は法律上、変わらないものでしょうか?
>もちろん親と入居者の賃貸借契約で親は確定申告しているものとします。

親が回収してから子供に譲るということで
あれば、これは贈与契約となります。

(1)回収後に親から子供に同額をあげる場合

一方、子供が直接回収したとするという
ケースでは、素直に法的に評価すると、

親から子供に対する債務免除(債権放棄)と
考えられます。

つまり、本来、子供はお金を回収した時点では、
本来の受益者である親に対して、この金額を
支払う債務を負います。
その債務を、親が子供に対して免除するものという
こととなります。

ただ、弁護士が入る場合は別として、
ここまで厳密な区別をするかというと
どうなのかなと思います。

同額の贈与をして、同額の返還債務との相殺
という構成とすることも可能ですし、

贈与契約書という名前であっても、特段問題は
ないようには思います。
(契約書は、あくまでも、
意思表示の意味を「証明する」ものですので。)

(2)回収前に取り決めをする場合

債務が発生する前(回収前)にというと、
子供が回収して子供に最終的に帰属させる
のであれば、親の賃借人に対する債権についての
無償の将来債権譲渡(贈与)という構成が素直かなとは思います。

上記の債務免除は、子供が回収して債務が生じるため
それを免除するというのが素直な構成だからです。

ただ、民事上は、このような解釈が素直かな
というところで、構成の仕方は様々あるところです。
結局のところ、
子供が回収した金額を親が回収しない(あげる)
という意思表示が明確になっていれば、
いずれでも契約書としての意義はあまり変わらないでしょう。

税務上は、みなし贈与という概念で、
贈与以外の構成をとっても、贈与税の課税対象と
なるように、調整されています。

2 ご質問②〜契約書の記載方法とその効力の範囲

(1)記載方法

>毎月、入居者Aから受け取る月額家賃10万円と記載したらいいでしょうか?

例えば、1年ごとに既に子供が受けった現金について
親が引渡請求権(債権)を放棄する場合には、以下のような記載になります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第○条 子供は、親と入居者Aの間の令和○年○月○日付け賃貸借契約に基づく月額家賃10万円について、令和○年○月〜令和○年○月分を親に代わり受領した。
第○条 親は、子供に対して、子供が親に対して負担する前条により受領した金額の引き渡し債務を免除する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

一方で、将来債権の贈与であれば、以下のような記載でしょう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第○条 親は、子に対して、親と入居者Aの間の令和○年○月○日付け賃貸借契約に基づく月額家賃10万円の債権のうち、令和○年○月〜令和○年○月分について、贈与する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

(2)効力の範囲

>永久に続くなら親が将来、痴呆になっても贈与が続くことになりおかしな
>話になってしまうような気がします。、
>したがって毎年、贈与契約書は作成すべきなのでしょうか?

民事上は、将来にわたる債権の譲渡も認められていますし、
必ずしも、将来に発生する債権放棄自体も禁止されるわけでは
ないでしょう。

ただ、これらの方法を取ると、
税務上は贈与や債務免除の対象価値は曖昧になります。

例えば、この契約書を作成した時点で、
将来の債権や免除額を含めて評価するのかという点です。

毎年贈与税申告を行うということであれば、
実務上は問題ないのではないかとも思いますが、
契約時点で将来の回収金額を現在価値に引きなおしたした上で、
課税するというのも税法の解釈上はあり得ます。

もちろん、通常のケースで基礎控除の範囲で毎年同額の
贈与をしているだけという事例であれば、このような
問題はおきないかと思いますが、

ある特定時点で、契約書という証拠上明確な意思表示をして
将来の贈与額についてまで確定してしまうとすると、
その特定時点で、契約の評価として、
将来何年にもわたり金銭を受領する法的地位の贈与があった
とされるおそれは残ります。

今回の契約書の作成の目的が税務上の贈与額を
明確にしておくという趣旨であるならば、
毎年作成した方が良いと思います。

よろしくお願い申し上げます。