税理士の●●です。
表題の件につきご教示いただけますでしょうか。
前提
取締役(株23%所有)が業務委託を受けている会社からの帰宅途中に居酒屋等で5,6時間飲酒の上、バイクで事故を起こした。
本人と連絡が取れない(親族とは連絡がとれているが本人は話しができる状況ではない)
親族等へのヒアリングから事故は本人に非があると思われる。
緊急事態宣言が出ている中、会社としても飲酒を自粛するように要請していた。
株の残り77%は代表者と他の取締役が所有していて争い等はない。
質問
以上の状況で取締役の解任を含めた検討されておりますが
以下の対応する上で問題、気をつける点がございましたらご教示ください。
①本人と連絡が取れない状況で取締役を解任する。
②親族等に辞任届を代筆してもらうことは可能か。
③本人と話せるまで給与の支払いをストップする。
④本人の意志が確認出来ない場合に所有株の買取は行うことができるか。
以上、宜しくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜本人と連絡が取れない状況で取締役を解任することについて
>①本人と連絡が取れない状況で取締役を解任する。
取締役の解任は、いつでも、株主総会の普通決議(過半数)
で行えますが、解任に正当な理由がない限り、
会社は、解任した取締役に対して、損害賠償責任を
負うこととなります(会社法339条2項)。
取締役に何の損害が生じるのかというと、個別
事案によりますが、本来であれば得られた報酬という
ことになります。どの期間の報酬か(いくらか)は、
その取締役の会社への関与の仕方やその後の就業状況等の影響
を受けますので、このくらいとは言い難いところです。
本件では、解任に「正当な理由」があるのかないのかが
問題となります。
この「正当な理由」は、
当該取締役によって、取締役としての業務執行に
障害となる客観的な状況が生じた場合に
認められるものです。
業務執行の内容に関わる理由だと
正当な理由は認められやすいですが、
>取締役(株23%所有)が業務委託を受けている会社からの帰宅途中に居酒屋等で5,6時間飲酒
>の上、バイクで事故を起こした。
>本人と連絡が取れない(親族とは連絡がとれているが本人は話しができる状況ではない)
これが当該取締役が個人で業務委託を受けているという前提であれば、
確かに会社の業務とは関係ないとされそうです。
ただし、役員の飲酒運転により会社のイメージに大きな影響
を及ぼす場合もあるでしょうし、
>本人と連絡が取れない(親族とは連絡がとれているが本人は話しができる状況ではない)
ということで、何より、取締役個人の事情により、
従来から想定されている当該取締役の業務執行ができないという
状況が継続するようですと、
正当な理由が認められる可能性が高いと思います。
(ここは従来の業務内容に依存します)
いつの時点で解任するかは当該取締役とのこれまでの関係性等も
踏まえて、リスクをどれだけ勘案するかによりますが、
1ヶ月程度この状況が続くようであれば、「正当な理由」が
認められる可能性は高いかと思います。
2 ご質問②〜親族等に辞任届を代筆してもらうことは可能か〜
>②親族等に辞任届を代筆してもらうことは可能か。
上記のとおり、解任の場合は、損害賠償責任が生じる可能性は
あるので、辞任してもらう方がリスクは小さいです。
ただ、代筆だから辞任の効力が生じないというわけでは
ありませんが、結局のところ、取締役が辞任の意思を有し、
親族等に代筆を依頼していた事実がなけれは、
法的には意味のないものとなります。
>本人と連絡が取れない(親族とは連絡がとれているが本人は話しができる状況ではない)
ということで、取締役がどのような状態かは分かりませんし、
代筆の委任状などをもらう対応が可能なのであれば、
そもそも本人に辞任届を書いてもらえば良いという
ことにはなるかと思います。
ここは、会社としての解任の緊急度や必要性とのバランスに
よる意思決定(決断)になりますが、
親族にあくまでも取締役の意思の確認を明確にとった上で、
代筆してくださいと依頼(依頼の証拠を残した上で)するかどうか
になります。
それでも、取締役にその意思があったかどうかの
直接的な証拠ではないので、のちに取締役から
その意思の確認などできるような状態ではなかった
と言われてしまえば、その有効性は争いになります。
3 ご質問③〜本人と話せるまで給与の支払いをストップする場合の問題点等〜
現状で、取締役と会社の間には有償委任契約が
成立している状態となります。
契約である以上、
株主総会で減額決議をしたとしても、一方的なストップが無条件に
認められるわけではありません。
ただ、その報酬が、具体的な会社のための行為をする
ことを前提に決定しているといえる場合、現状で
個人の事情で、取締役の業務が行えていないということですから、
委任契約の不履行があったとして、報酬請求権の発生がない
という認定もなくはありません。
それでも、通常の雇用契約などとは異なり、取締役はその地位及び
責任も報酬の対価になっていると思われるため、
完全に0にできるかというと
解任や辞任がない状況だと難しいと思います。
こちらについても、会社の緊急性と必要性との
兼ね合いですが、減額決議をして報酬を0にして、
のちに減額が認められなかったという場合には、
報酬の未払金が積み上がるということ
になるということを許容するのか否かの決定
だと思います。
短期的な問題と読むのであれば
そのような対応もあり得るかもしれません。
なお、仮に減額が認められない場合には、
本来の支払日以降は、会社は遅延損害金の
支払義務も負担することになります。
4 ご質問④〜本人の意思が確認できない場合の自社株の買取
>④本人の意志が確認出来ない場合に所有株の買取は行うことができるか。
まず、株式の買取や譲渡を契約などの合意で行う場合には、
上記の辞任届と同様にできません。
取締役の地位の問題とは異なり、
株式の場合には、お金で片付く問題に限らない
ところもありますので、
リスクがある譲渡合意書などによることはお勧めできません。
一方で、
>株の残り77%は代表者と他の取締役が所有していて争い等はない。
ということですので、2/3以上の賛成で、株自体を
会社が強制的に取得することは手段として可能です。
(いわゆるスクイーズアウト)
今回ですと、株式併合スキームなどが適切なのかなとは思います。
(厳密には、各人の持株数によっては他の株主も追い出されてしまうことに
なるので、この辺りの調整・判断が必要になりますが。)
ただし、手続きが煩雑であることと株価で争いになる
ことも多いので、通常は交渉をした上で行うということに
なります。
5 まとめ
全体として、株式を交渉で買い取りたい
ということですと、一方的な解任や支払いを
ストップすると、関係性悪化により交渉がしにくくなる
ということも予想されます。
ただ、話せない状況が長引くと困りますし、
会社の緊急性や必要性に応じて、どのタイミングで
強硬策にでるかの決断は必要かと思います。
事故が起きてからどのくらい経っているのかが
わかりませんが、上記の考慮の上、
どこで線引きをするかの決断になるでしょう。
よろしくお願い申し上げます。