包括遺贈の場合、遺産分割が必要になりますが、
たとえば、下記のような場合も包括遺贈に該当し、
改めての遺産分割が必要になるでしょうか?
例1:上場株式A社株100株のうち、2分の1は長男甲に、2分の1は長男甲に相続させる。
例2:不動産以外の財産のうち、2分の1は長男甲に、2分の1は長男甲に相続させる。
→不動産以外の財産は全て預貯金とします。
また、上記では「相続させる」としましたが、
同じ前提で「遺贈する」と書いた場合、
注意すべき点はありますか?
よろしくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問
>包括遺贈の場合、遺産分割が必要になりますが、
>たとえば、下記のような場合も包括遺贈に該当し、
>改めての遺産分割が必要になるでしょうか?
>例1:上場株式A社株100株のうち、2分の1は長男甲に、2分の1は長男甲に相続させ
>る。
>例2:不動産以外の財産のうち、2分の1は長男甲に、2分の1は長男甲に相続させる。
>→不動産以外の財産は全て預貯金とします。
2 回答
まず、前提として、上記のように「相続させる」とした場合、
包括「遺贈」ではありません。
(1) 例1について
>例1:上場株式A社株100株のうち、2分の1は長男甲に、2分の1は長男甲に相続させ
>る。
後者は、「2分の1は次男乙」の誤記かと思いますので、
以下のその前提で回答します。
この遺言の文言ですと、A社株100株の1株ずつを、甲と乙の1/2共有に
させるという特定権利承継遺言なのか、
それとも、50株ずつを単独で、甲及び乙に承継させるという特定権利
承継遺言なのかについて疑義があります。
最終的には、遺言者の合理的意思解釈の問題となりますが、
「100株」という株数をあえて明示していることから
後者にあたるとされやすいとは思います。
その場合、遺産分割は不要です。
なお、前者の場合でも、
特定財産承継遺言の場合、その遺言により効力が発生します
(相続の問題としては確定する)ので、
この共有の解消方法は、厳密にいうと遺産分割ではなく、
共有物分割(交換)となります。
ただし、実務上は、遺言と異なる遺産分割として、
相続人全員の同意のもと、行うことで問題は生じない
でしょう(理論的にはこの場合も上記のとおりですが、
税務上も問題がないとされています)。
そういう意味では前者と解される場合には、
共有を解消する手続き自体は必要となります。
このような疑義を残さないために遺言の内容は、
明確に定めることが必要です。
>同じ前提で「遺贈する」と書いた場合、
>注意すべき点はありますか?
こちらも同様かと思います。結局、特定遺贈する
意味が共有として遺贈するのか、それとも50株ずつ
遺贈するのかを明確にすることが必要です。
(2)例2について
>例2:不動産以外の財産のうち、2分の1は長男甲に、2分の1は長男甲に相続させる。
>→不動産以外の財産は全て預貯金とします。
後者は、「2分の1は次男乙」の誤記かと思いますので、
以下のその前提で回答します。
こちらも厳密には、
遺言者の合理的意思解釈(遺言全体と経緯)に
よることになります。
ただ、結果としてその他の財産が、預貯金しかないというケースですと、
預貯金の銀行等との預金契約を解約することとなると思いますが、
その権限を有する者(相続人全員の同意または遺言執行者)
が解約をすれば、直接の遺産である預貯金債権自体は換価されますので、
遺産分割の範囲からでる結果、実際に金銭を取得した者に
対して、1/2を請求できる状態になります。
つまり、結果として遺産分割なしで、甲、乙両者が預貯金相当額の
1/2ずつ取得できる状態となります。
そういう意味では、遺産分割は不要です。
なお、以前は、預貯金債権は、相続により当然分割されるという
ことでしたが、現状は共有になると判例変更されていることから、
そもそも、これを換価分割型の特定財産承継遺言と合理的意思解釈をする
という説明で同様の結論とすることも可能かと思います。
>また、上記では「相続させる」としましたが、
>同じ前提で「遺贈する」と書いた場合、
>注意すべき点はありますか?
こちらについても、遺言全体等を確認しないと
なんとも言えません。
裁判例上、特定遺贈と包括遺贈の併存型を認める
ものが存在するからです(東京地判平成10年6月26日)。
この判決は、
『特定財産を除く相続財産(全部)』という形で
範囲を示された財産の遺贈であっても,
それが積極,消極財産を包括して承継させる趣旨のものであるときは,
〜省略〜包括遺贈に該当するものと解するのが相当である」
としており、
結局のところ、どういう趣旨の遺贈であったのか
という点が、焦点になります。
ただ、遺言時点で、債務がないという状態ですと、
原則的には、特定遺贈と解釈され遺産分割は不要
ということとなると考えられます。
なお、結果として預貯金しかないという状態
であれば、「相続させる」と同様です。
よろしくお願い申し上げます。