税理士の●●です
お世話になります。
時効の援用に関連して教えて下さい。
関与先の学校法人A(幼稚園)から
未払いの工事代金が時効になったので、
雑収入に振り替えたい旨相談がありました。
事の経緯を説明しますと、
(経緯)
・平成25年度8月
近隣で造成工事を行っていた工事会社Bの
現場責任者Cに幼稚園グラウンド整備工事を依頼。
C自身の名刺(常務取締役)と工事見積書を持って
来たので、打ち合わせの結果500万円で発注。
・平成25年10月
グランド整備工事が完了したので、経理処理(資産勘定/未払金500万円)
を行った。同月末Bの現場事務所撤収。
・その後Bからの請求書来ないまま、AからB及びCに
問い合わせをしないまま、現在に至る。
(Bの近隣造成工事原価にAのグラウンド整備工事原価
が紛れ込んで、うっかり請求漏れ?)
債権の消滅時効が成立するための要件は
下記を全て満たしていることとされています。
①時効期間が経過していること
②時効の援用がされていること
③時効の中断・停止事由がない
①は民法改正により「5年」となりましたが、
②は債務者が「時効の援用」をすれば、債権は
消滅することとされています。
Aは本件債務を法的に消滅させたいと、
考えています。
(質問)
・債権者から請求や支払督促が来ない状況で、債務者から「時効の援用」をするものなのでしょうか。
・するとしたら、その方法。
・このまま債権者から請求が無く、また、債務者が「時効の援用」をしなければ、未払金残高はこのまま残さざるを得ないことになりますか。
・本件の状況で、債権債務を消滅させる一般的な方法がありましたら教えて下さい。
以上よろしくお願い申し上げます。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜債権者からの請求がない場合の時効の援用
>・債権者から請求や支払督促が来ない状況で、
>債務者から「時効の援用」をするものなのでしょうか。
そうですね。
民事上は、債権者から請求があった場合に時効の援用を
することが多いですが、
会計処理の関係で、期ずれの問題への対処の
ために、時効の援用の意思表示を行うということは
あります。
なお、当該債権は、2020年4月1日より前に
生じているものですので、時効期間については、
改正民法ではなく、旧民法が適用されますが、
この場合、工事完成から3年となります(旧民法170条2号)。
2 ご質問②〜時効の援用の方法
>・するとしたら、その方法。
法律的な要件としては、
債務者が債権者に対して、時効の利益を享受することを
伝えれば良いということになりますが、
文書の内容とその時期を証拠として残すため、
内容証明郵便で書面を送る方法が一般的です。
「BのAに対する平成25年10月に完了した整備工事代金債権について、
時効を援用しますので、同日をもって当該債権は消滅します。」
というような文言の文書になります。
3 ご質問③〜時効の援用以外で未払金残高を雑収入に切り替える方法があるか。
>・このまま債権者から請求が無く、また、債務者が「時効の援用」を
>しなければ、未払金残高はこのまま残さざるを得ないことに
>なりますか。
> ・本件の状況で、債権債務を消滅させる一般的な方法
>がありましたら教えて下さい。
民事上、Aが債権を一方的に消滅させる方法としては、
時効の援用以外にはありません。
未払金残高についてですが、
民事の考え方からすると、時効の援用で消滅する
ものになりますので、このまま残ってしまうということになります。
ただ、税務上の権利確定と公正妥当な会計処理基準という
考え方から、その業界において業界団体などが公表している
会計処理基準である特殊な債権について5年が経過した場合の
債務消滅益計上が定められていた事案では、
公正妥当な会計処理基準として、
5年で債務消滅益を計上すべきとした裁判例も存在します。
また、事実上の貸倒れの裏返しとして、債務消滅益も
時効期間経過時点で、返済しなくてもよくなったのだから、
消滅益を計上するという考えもなくはないかとは思います。
(貸倒れでは、債権者側なので、時効の援用をされていない
状態で、回収不可能と判断し、勝手に事実上の貸倒れとするとリスクが
高いかとは思いますが。)
しかし、この部分については、明確な裁判例等存在しませんし、
時効の援用という形式を整え、時期等を確定できるものがあるのであれば、
民事の考え方に従い、
時効の援用をした時期に債務消滅益(雑収入)とするのが
無難かと思われます。
この問題については、私の著書である
「民事・税務上の「時効」」Q26(168頁以下〜)にも
その他の裁判例も分析しつつ記載しておりますので、
よろしければ、ご参考になさっていただければと思います。
よろしくお願い申し上げます。