お世話になります。
税理士の●●です。
表題の件につき、以下をご教示いただけますでしょうか。
被相続人(父):社長
相続人:母(会社と関与なし)、長男(専務、次期社長)、長女(会社と関与なし)
・社長(父)は在任中に相続発生した。
・会社の役員退任は初であり、役員退職慰労金規程はない。
・死亡退職金は5,000万円(損金算入限度額内)で、弔慰金の考慮不要。
■質問
母はある程度財産を保有しているため、自社株と死亡退職金を渡したいと考えている。
この場合、役員退職慰労金規程で、長男のみを受取りとする規程にすることは可能か?
趣旨は非課税枠(相法12①六)を有効に使いたいという意味です。
よろしくお願いします。
ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問と回答の結論
>被相続人(父):社長
>相続人:母(会社と関与なし)、長男(専務、次期社長)、長女(会社と関与なし)
>・社長(父)は在任中に相続発生した。
>・会社の役員退任は初であり、役員退職慰労金規程はない。
>・死亡退職金は5,000万円(損金算入限度額内)で、弔慰金の考慮不要。
>母はある程度財産を保有しているため、自社株と死亡退職金を渡したいと考えている。
>この場合、役員退職慰労金規程で、長男のみを受取りとする規程にすることは可能か?
>趣旨は非課税枠(相法12①六)を有効に使いたいという意味です。
結論として、
相続税法12条1項6号の非課税枠の利用は可能と考えられます。
2 回答の理由
(1)民事上の支給の可否と相続財産性
会社法上は、死亡退職金の支給(相手を含む)については、
株主総会で決定することとなります。
役員退職慰労金規程は、株主総会がそれを前提に決議
しているという意味で、法的に意味を持つものです。
(事前に定められている場合には、他の役員との
契約内容となっているため、他の役員は、明確な
株主総会決議がなくても会社に死亡退職金を
請求できるのかという論点がでてきますが。)
つまり、役員退職慰労金規程にある内容を前提に
具体的に支給額や受取人を株主総会が承認することで、
支給の可否が決まりますので、
>この場合、役員退職慰労金規程で、長男のみを受取りとする規程にすることは可能か?
という点については可能ということになります。
なお、これとは別の問題として、ご存じのとおり、
死亡退職金が、民事上の相続財産となるのか、または
固有財産となるのかという点については、
最近では、支給基準や受給権者に関する定めや株主総会での
支給承認の趣旨等により、相続財産か固有財産かを
決するとされています(東京地裁平成26年5月22日等)。
半分が固有財産で半分が相続財産であるという裁判例等も存在しますので、
注意が必要です。
(2) 相続税法上の判断
相続税法上は、死亡退職金については、
みなし相続財産(相続税法3条1項2号)とされます。
最近の民事の裁判例上は、役員死亡退職金であっても、
相続財産となる場合があるとされていますが、
相続税法は、相続財産とはならずに
みなし相続財産となるという前提で作られて
いるため、このような民事と税務で若干
乖離が生じています。
しかし、相続税法3条2号は、死亡に起因している
財産の取得に担税力を見て、課税を拡張できるように
意図している趣旨の規定ですし、
「被相続人の死亡により相続人その他の者が当該被相続人に
支給されるべきであつた退職手当金」
という文言からも、
民事上、相続財産に該当するというケースでも、
相続税法3条1項2号の適用を除外するという解釈をし、
相続税法12条1項6号の非課税枠の適用を排除する
という解釈は非常に難しいものと思います。
実務上の観点から見ても、死亡退職金のうち、
どの部分が相続財産で、どの部分が固有財産なのか
という判断は民事でも裁判までしないとはっきり
しない現状がある上、税法の解釈も上記の
とおり、適用を除外する解釈は難しいということを
併せて考えると、非課税枠の適用ができる
前提で考えて問題ないと思います。
よろしくお願い申し上げます。