相続 遺言

受遺者のみの相続について

永吉先生、お世話になっております。
●●です。

受遺者のみの相続について教えてください。

(前提条件)
・被相続人には配偶者、子供はいない
・親はすでに死亡、兄弟姉妹は全員存命
・公正証書遺言があり、全財産を姪(弟の子ではない)に遺贈する、遺言執行者は姪とする内容の記載あり
・被相続人と1人の弟はとても仲が悪い
・その弟に直接亡くなった旨は伝えていないが、親戚から伝わっているらしい
・申告書の提出にあたり弟からの押印は困難

(質問事項)
・名義変更等の諸手続きにあたって法定相続情報の取得を考えましたが、受遺者が親族に限らないこともあるため、遺言書と受遺者の身分(住所変更があるので住民票)と戸籍謄本、免許証等の身分証明書で足りると思いますが、その認識でよいでしょうか
・申告書の提出に当たり、弟からの押印がない申告書を提出することで、想定される弟側の異議(のようなもの)は、どのようなものがありますでしょうか
・そのほか、想定される弟側とのトラブルとその予防策がありましたら教えてください

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜名義変更手続等の書類について

>・被相続人には配偶者、子供はいない
>・親はすでに死亡、兄弟姉妹は全員存命
>・公正証書遺言があり、全財産を姪(弟の子ではない)に遺贈する、
>遺言執行者は姪とする内容の記載あり
>・被相続人と1人の弟はとても仲が悪い

>名義変更等の諸手続きにあたって法定相続情報の取得を考えましたが、
>受遺者が親族に限らないこともあるため、
>遺言書と受遺者の身分(住所変更があるので住民票)と戸籍謄本、免許証等の身分証明書で
>足りると思いますが、その認識でよいでしょうか

以下、法定相続情報を利用しない前提の
主にあり得る不動産と預貯金についてです。

(1)不動産の遺贈による登記

①遺言者の死亡時の戸籍謄本
②遺言者の住民票の除票
③遺言者の所有権の登記済権利証又は登記識別情報
④遺言書
⑤遺言執行者の印鑑証明書
⑥受遺者の住民票
⑦固定資産評価証明書

(2)預貯金の名義変更(解約手続き)

こちらについては、金融機関によりばらつきがありますが、
一般的には、
①遺言書
②遺言者の死亡時の戸籍謄本
③受遺者の住民票
④受遺者・遺言執行者の印鑑証明書
⑤遺言者の預金通帳や証書など
となります。

金融機関によっては、
遺言により遺言執行者が選任されているケースでも
相続人全員の同意書などを一次的に求められる
こともありますが、最近は遺言執行者が選任
されているので必要ない旨伝えれば、基本的に応じてくれます。
(本来、法的には必要ありません。)

2 ご質問②〜弟の申告書の押印について

>申告書の提出に当たり、弟からの押印がない申告書を提出することで、想定される弟側の異
>議(のようなもの)は、どのようなものがありますでしょうか

そもそも、相続税法上の建付としては、
相続税申告は、本来財産を取得する者が単独
で行うのが原則です(相続税法27条1項)。
共同申告は、相続税法27条5項で一定の要件のもと、
例外的に認められているものです。
(実務上の頻度でいうと、手間なのと各相続人間で、
申告内容が違うと調査等での問題があるので、
原則と例外が入れ替わっているだけです。)

今回のケースでは、弟の押印は特に必要ありませんので、
弟が何か異議を唱えられるものではありません。

3 ご質問③〜その他

>想定される弟側とのトラブルとその予防策がありましたら教えてください

被相続人の兄弟姉妹には、遺留分も認められませんので、
この点を考慮する必要はありません。

あるとすれば、法律上は
上記の名義変更等は、あくまでも姪に遺言執行者の地位が
あるからこそ、法定相続人の関与を排除できるもの
ですので、遺言執行者としての義務は負うこととなります。
例えば、遺言執行者としての任務を開始した時には、
遺言の内容を他の相続人に通知する義務(1007条2項)
や財産目録を作成し、相続人に交付する義務(1012条1項)
があります。

ただ、これがなくても、名義変更等自体はできて
しまいますので、専門家が遺言執行に関わる場合は
別として、相続人や受遺者自身が行う場合には
問題とされていないケースも多いです。
(本来は解任請求や善管注意義務違反の問題は
ありますが。)

遺言の内容が変わるわけではないので、
その後、特段問題としても、結局受遺者が権利を取得
できること自体は変わりがないので、
そのまま放置されるということでしょう。

特に専門家が報酬をもらって行う場合には、実質的にも、
善管注意義務違反や解任等の問題はでてきますので、
ご注意ください。

よろしくお願い申し上げます。