株式 会社法

確実に株主と役員を抜けるための相談

永吉先生
お世話になります。税理士の●●です。

確実に株主と役員を抜けるために気をつけることを
お伺いしたくて投稿しました。

【前提】
・当事務所の顧問先の個人事業主Mさんが、X社に33万出資した
・X社の代表は別人のAさん(親族ではない)
・X社の株主構成は、A・B・Mで3分の1ずつ

・Mは営業でX社の売上を作っているにも関わらず、役員報酬を1円ももらえていない(未払)

・MのしらないうちにX社で社会保険に加入して、勝手に保険証が送られてきた
・Mは自分の個人事業では扶養の範囲の利益しかでていないので、社会保険はMの夫の扶養として、夫の会社から健康保険証を交付されている

・現在、売上の金額として35万円を保有していて、AはMにこの35万円の引き渡しを求めている
・その他MはX社の在庫を販売目的で一時的に預かっている

・X社の会計資料などを見せるようにAに要求しても一切要求に応じない

【ゴール】
・MはX社の取締役を抜ける
・Mの所有するX社の株を、Aに33万で買い取ってほしい

【質問】

(1)
Mが一時的に保有している35万円の売上金から
33万円を差し引いてAに2万渡すので、
株を買い取ってほしい、という要求はできるか?

(2)
仮に1について話がまとまった場合、
お金は動いたが、取締役を辞任した登記を行わない場合、

登記を行うように働きかける強制力は、
どうしたらつけられるか?

(3)
その他ゴールを達成するにあたって、注意することはあるか?

お手数ですが、よろしくお願いします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

ご質問中の
>【ゴール】
>・MはX社の取締役を抜ける
>・Mの所有するX社の株を、Aに33万で買い取ってほしい
を前提に回答します。

1 ご質問①〜要求の可否について

>(1)
>Mが一時的に保有している35万円の売上金から
>33万円を差し引いてAに2万渡すので、
>株を買い取ってほしい、という要求はできるか?

(1)株式の売買契約について

まず、株式の売買契約は、MとAの合意による
必要がありますので、Mから一方的に株式の
買い取りを要求することはできません。

仮に、MとAで33万円による売買契約の合意が可能な
場合には、AがX社に譲渡承認請求をすることに
なります(A・Mで過半数を満たすので株主総会で承認
できるでしょう(取締役会設置会社の場合は取締役会の承認
が必要ですが、この場合、AとMは特別利害関係人で役会に
参加できません))。

(2)売上金35万円と売買契約代金33万円の相殺について

次に売買契約が可能であるとしても、
売上金35万円については、X社のMに対する債権です。

一方で、売買代金33万円は、MのAに対する債権です。

つまり、債権者と債務者が一致していないため、
相殺はできません。

あるとすれば、X社、M、Aの3者で、Aの売買代金債務を
X社が負担する合意も合わせて行い相殺をするという
合意をすることはできます。

その場合、取締役の利益相反取引になりますので、
株主総会決議(取締役会設置会社の場合は取締役会の承認
が必要ですが、この場合、AとMは特別利害関係人で役会に
参加できません)が必要となります。

2 ご質問②〜登記を強制することについて

>仮に1について話がまとまった場合、
>お金は動いたが、取締役を辞任した登記を行わない場合、
>登記を行うように働きかける強制力は、
>どうしたらつけられるか?

この場合、ご存知の通り、
登記申請権者は、X社になります。

一般的ではないですが、
合意で強制力を持たせるのであれば、
登記を2週間以内にするものとし、
されない場合には、1日いくら
という形で違約金を払う等の合意を
するという方法もなくはありません。

仮に、X社が取締役の辞任による登記を申請しないときは、
Mは、X社を相手として取締役退任登記手続請求訴訟を
提起することができます。

この訴訟で勝訴判決を得ることにより、
会社が関与することなしに、
辞任した取締役だけで変更登記の申請を行うことが
できるようになります。

なお、裁判と言っても、辞任は明らかでしょうから、
裁判自体は難しいものではないです。

ただし、質問③をご確認ください。

3 ご質問③〜その他の注意点

>(3)
>その他ゴールを達成するにあたって、注意することはあるか?

ご質問②の登記申請については、そもそも
X社の取締役がA1名で足りる等、
Mが抜けても、法定の人数を下回らないことが
前提となります。

仮に取締役会設置会社の場合には、
最低3名の取締役が必要となります。

この場合、Mは辞任したとしても、
権利義務承継取締役としての地位が残って
しまいます。そうすると、そもそも退任の登記もできません。

この場合、X社に、必要人数を減らせる
ように定款変更をしてもらうか、新たな
取締役を選任してもらわなければなりません。

仮にそのような対応が難しい場合には、
Mは、仮取締役を裁判所に選任してもらう等の
請求をしていくこととなります。

よろしくお願い申し上げます。