お世話になっております。
(前提)
ある株式会社(同族会社。なお、委員会設置会社ではない)において、下記国税庁のリンクの「5
1から4までのほか、同族会社の役員のうち所有割合によって判定した結果、次の全ての要件を満たす役員」により使用人兼務役員になれない取締役がいます。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5205.htm
つまり、代表取締役や副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員ではなく、持株割合によって法人税法上使用人兼務役員になれない取締役です。
また、その役員は経営にも一定割合関与していますが、雇用契約もあり、使用人(部長)としての身分もあり、同レベルの部長である使用人(役員ではない、純粋な使用人)と、日々の業務はほぼ同じです。
(質問)
1.当該役員の報酬については、株主総会で報酬総額を決議し、個別の報酬額を取締役会に委任、さらに代表取締役に委任するという形をとっています。
この形に基づき、代表取締役が当該役員の役員報酬を決定するわけですが、実際の当該役員の報酬額はゼロと決定しています(部長としての業務が大半であり、当該役員に支給する給与はほぼすべて使用人給与と認識しているため)
税務上は、当該役員に支給する給与は役員報酬とみなす必要があるわけですが、会社法上の役員報酬は上記の代表取締役の決定に基づきゼロ(会社法上は使用人給与)という認識でよろしいでしょうか?
2.上記の法人税法上「使用人兼務役員になれない役員」の取扱いは、雇用保険や労災保険(労働保険)に係る法律上も影響は受けるのでしょうか?
つまり、法人税法上使用人兼務役員になれない取締役は、上記のようなケースであっても、労働保険に加入できないのでしょうか?
法人税法とは異なり、労働保険上の使用人兼務役員になれない取締役の条件が別途あるようでしたら、ご教示いただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜会社法上の問題について
>持株割合によって法人税法上使用人兼務役員になれない取締役です。
>その役員は経営にも一定割合関与していますが、雇用契約もあり、使用人(部長)としての
>身分もあり、同レベルの部長である使用人(役員ではない、純粋な使用人)と、日々の業務
>はほぼ同じです。
>税務上は、当該役員に支給する給与は役員報酬とみなす必要があるわけですが、会社法上の
>役員報酬は上記の代表取締役の決定に基づきゼロ(会社法上は使用人給与)という認識でよ
>ろしいでしょうか?
税法上の持株割合に応じて、使用人兼務役員となるのかという議論と、
会社法上、使用人給与が取締役の「報酬」に該当するのかという議論は
別の議論になります。
従来から様々な議論があるところですが、
判例上は、
①使用人として受ける給与の体系が明確に確立されており、
②別に使用人として給与を受けることを予定している
場合には、
取締役として受ける報酬額のみを株主総会決議が必要な「報酬」
とするものとされています(最高裁昭和60年3月26日)。
②の「予定している」とは、一般的に、報酬決議に
際して、使用人給与分が含まれていないことを明らかにする必要が
あるとされています。
結局のところ、会社法の報酬規制は、お手盛りの防止にありますので、
その点を考慮し、①②を判断することになります。
ただし、最近では、上記の最高裁は上場企業等を前提としており、
中小企業等では、具体的な事情からお手盛りの危険があるのか
ないのかという点から、取締役の「報酬」にあたるのかを
柔軟に判断すべきという見解が有力となっています。
このように
税務とは規制の目的が異なりますので、
>税務上の持株割合に応じて、当該役員に支給する給与は役員報酬とみなす
からといって会社法上使用人給与が「報酬」に含まれるわけでは
ありません。
具体的に「報酬」に該当するかという点ですが、
>その役員は経営にも一定割合関与していますが
ということでこれがどれだけの関与なのか、同レベルの他の使用人と
比べて報酬額が多額ではないか、給与体系が整理されており、
それに準じたものなのか等により、
使用人給与という名目でも、真実は取締役としての業務の対価
と言えるのか言えないのかという問題となります。
ただ、今回のケースでは、どちらの立場かにもよりますが、
いずれにしろ役員報酬は「0」と
されているということですので、この使用人兼務取締役が
会社に対して、追加で報酬を請求できるわけではありません。
株主との関係で、会社が勝手に実質的な役員報酬を
取締役に払っていると主張されると上記の判断に
なりますが、
>雇用契約もあり、使用人(部長)としての身分もあり、同レベルの部長である使用人(役員
>ではない、純粋な使用人)と、日々の業務はほぼ同じです。
>部長としての業務が大半であり、当該役員に支給する給与はほぼすべて使用人給与と認識し
>ているため
ということですと、会社から使用人兼取締役にすでに払った
報酬を返還するように請求するのは、かなり難しいと思います。
なお、使用人給与を取締役が受け取り、それが報酬に当たらない
場合には、雇用契約が会社とその取締役の利益相反取引に該当するため、
当該契約の株主総会または取締役会の承認が必要とされています(最高裁昭和43年9月3日)。
2 ご質問②〜労働保険について
>上記の法人税法上「使用人兼務役員になれない役員」の取扱いは、雇用保険や労災保険(労
>働保険)に係る法律上も影響は受けるのでしょうか?
>つまり、法人税法上使用人兼務役員になれない取締役は、上記のようなケースであっても、
>労働保険に加入できないのでしょうか?
>法人税法とは異なり、労働保険上の使用人兼務役員になれない取締役の条件が別途あるよう
>でしたら、ご教示いただけますと幸いです。
労働保険(雇用保険、労災保険)は、
雇用保険法、労働者災害補償保険法に定める
「労働者」に適用されるものなので、
今回のケースでは、使用人兼務取締役である方が、
「労働者」といえるかどうかにより、労働保険の適用があるか否かが変わります。
こちらも税務とは別の目的(労働者の保護)によるものですので、
労働者と評価できるだけの実態があるのか否かによります。
取締役が「労働者」にあたるか否かは、過去の判例を分析すると
①法令・定款上の業務執行権限の有無(これがあると原則認められませんが、今回はないと思います)
②取締役としての業務執行の有無・程度
③代表取締役からの指揮監督の有無・程度
④拘束性の有無
⑤提供している労務の内容
⑥取締役就任の経緯
⑦当事者の認識
等の事実認定と評価の問題として判断されます。
確かに株式を保有していると、経営への影響力が
強いという面はあるかとは思いますが、
>雇用契約もあり、使用人(部長)としての身分もあり、同レベルの部長である使用人(役員
>ではない、純粋な使用人)と、日々の業務はほぼ同じです。
>部長としての業務が大半であり、当該役員に支給する給与はほぼすべて使用人給与と認識し
>ているため
ということですと、労働者性が肯定される
可能性が高いものと思います。
よろしくお願い申し上げます。