税理士の●●です、お世話になっております。
保育所において、運営している社会福祉法人契約の賃貸住宅で都が行う「保育士宿舎借上げ支援事業」を利用する場合、法人が借り上げ社宅規定で「補助金対象外の家賃、仲介料、敷金は個人負担とする」旨を記載することは法的に問題ないか。
またその場合、経理上個人負担分は敷金/預り金等として両方計上しなくてよいか。
よろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜法的な問題点について
> 保育所において、運営している社会福祉法人契約の賃貸住宅で都が行う「保育
> 士宿舎借上げ支援事業」を利用する場合、法人が借り上げ社宅規定で「補助金
> 対象外の家賃、仲介料、敷金は個人負担とする」旨を記載することは法的に問
> 題ないか。
保育士宿舎借り上げ支援事業は給付行政なので、
それ自体には根拠法は特になく、
「子育て安心プラン実施計画」を採択した一部の市区町村で
独自に行われている制度です。
そのため、市区町村および特別区の中で、交付要件や、
支給対象などにばらつきがあります。
また、交付決定そのものも各行政機関によって裁量がありますので、
一概には適法違法という話にはなりません。
以下の回答にあたっては、
厚生労働省が発表している実施要項および東京都保健福祉局が
発表している基準をもとにしていますので、
各市町村等における具体的な取り扱いは、
当該市町村に確認するようにしてください。
https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenko/kodomo/files/hoikujinzai.pdf
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kodomo/hoiku/jinzaikakuho_torikumi.html
(1)「保育士宿舎借り上げ支援事業」との関係
前記の通り、同事業は、各市区町村において独自に行う制度であり、
> 法人が借り上げ社宅規定で「補助金対象外の家賃、
> 仲介料、敷金は個人負担とする」旨を記載すること
の可否は、当該市区町村の策定する実施要項如何によります。
一般的なことを申し上げると、同事業の補助金交付の対象は、
あくまでも賃借人である事業者です。
事業者が賃借人であるので、家賃、共益費、敷金、礼金、更新料その他の
賃貸人に対して支払うべき金額は、原則として、
賃借人である事業者が、賃貸人に対しては、一次的に支払うべきものです。
これらの金額を保育士個人に負担させることについては、
少なくとも厚生労働省の実施要項上は記載がありませんので、
禁止されるわけではないですが、
保育士個人に対してこれらの金額を負担させた場合には、
その負担分について、差し引いた金額を基準に、
補助金が計算される場合もあると考えられます
(「「保育人材確保事業の実施について」の一部改正について」
別添5「保育士宿舎借り上げ支援事業」留意事項5(3))。
どの費用までこの計算に入れるのかは、
各公共団体で様々なところがあるようですので、
その点は、対象の団体にお問合せいただくほか
ないかと存じます。
(2)借地借家法との関係
保育士本人の負担が相当程度ある場合や、
敷金や礼金といった名目で徴収する場合には、
事業者と保育士の間で、宿舎の使用契約や雇用契約の一内容ではなく、
別途、賃貸借(転貸借)契約が締結されたと判断されるおそれが一応
あります。
極端な話ですが、賃貸借契約が成立しているとされた場合、
借地借家法の規定が適用されることとなり、
正当な事由のない限り、更新を拒めないことにはなりえます。
裁判例の羅列等はしませんが、
多くの裁判例では、結局のところ、
負担額の大きさにより判断しているようです。
一般的には、
社宅の賃料が近隣相場の数分の1(少なくとも2分の1以下)
であれば、問題はないといえると解説される例が
多いところですので、この辺りもご注意いただければと思います。
(なお、裁判例の中には数は多くないですが、法的な構成として、
負担額が低額であっても、借地借家法の適用を認めつつ、
退職が更新を拒む「正当な事由」にあたるとしているものもあります。)
2 ご質問②〜会計について〜
>またその場合、経理上個人負担分は敷金/預り金等として両方計上しなくてよい
>か。
事業者と保育士の当該宿舎に関する契約内容によります。
この部分は、事業者と保育士の間で、
保育士が退去時に返還する(退去時に原状回復費用と相殺する等はあると思いますが)
ことが契約内容となっているのであれば、保育士との関係で、
事業者側で預り金名目等になるものと思います。
なお、賃貸人との敷金契約は、あくまでも、
事業者と賃貸人間のものですので、両方計上することとなると思います。
よろしくお願い申し上げます。