株式 会社法

種類株式発行会社の自己株式取引に係る売渡請求について

永吉先生

いつもお世話になっております。
税理士の●●と申します。

種類株式発行会社の自己株式買い取りによる
売渡請求について質問をさせてください。

(前提)
○ 法人Aは普通株式とA種類株式(優先配当完全無議決権株)を
発行しています。

○ 株主は同族の個人株主(数名)と役員持株会、従業員持株会
となっています。

○ 普通株式は同族の個人株主と役員持株会が保有し、A種類株式は
従業員持株会が保有しています。

○ 今回、同族の個人株主から普通株式を発行法人であるA法人が
自己株式取引により取得することを検討しています。

○ 自己株式取引においては、特定の株主との合意による取得による
株主総会の特別決議が必要となり、その総会前に他の株主に
売渡追加請求権が認められている(会社法160③)かと
思います。

(質問)
① 今回のケースでは普通株式を自己株式により買い取るため、
A種類株式を保有している従業員持株会には売渡追加請求の
通知をする必要は無いと理解していますが、間違っていませんでしょうか。

→ 中央経済社の「よくわかる自己株式の実務処理」という書籍では
自己株式とする株式の種類株主のみに通知すればよいという
説明がされています。

懸念している事は、買い取り価格が同族株主のため高額であるため、
持株会規約に退会時の買い取り価格が規定されているとはいえ、その
自己株式取引に係る買取価額を通知することで、把握されたくないと
考えています。
※ 役員持株会は同族関係者も役員となっていることもあり、
説明をすることで追加の売渡請求は発生しない状況です。

② 少し異なる質問となりますが、
A種類株式は配当優先の完全無議決権株式となっています。

完全無議決権株式のため、株主総会における
役員選任や役員報酬の総額の決定(枠取り)、退職金の支給、
合併などの組織再編などを決議する際に無議決権のため
株主総会には参加しないと考えています。

よって、A種類株主には招集通知の案内は不要となる、
また株主総会の参加も認めないという実務対応は問題ない
対応になるのでしょうか。

完全無議決権株式を保有されている株主への対応について
基本的なポイントがあれば、教えて頂ければ幸いです。

よろしくお願い致します。

●●先生

ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜別の種類株主の売主追加請求について

> ① 今回のケースでは普通株式を自己株式により買い取るため、
>A種類株式を保有している従業員持株会には売渡追加請求の
>通知をする必要は無いと理解していますが、間違っていませんでしょうか。

はい。会社法160条2項に、売主追加請求権の通知に関して、
株式会社は、「株主(種類株式発行会社にあっては、
取得する株式の種類の種類株主)」に対して、
売主追加請求権の通知を行わなければならないと定めています
ので、ご認識のとおりで間違いありません。

2 ご質問②〜完全無議決権株主の株主総会について

(1)株主総会の招集通知について

>A種類株式は配当優先の完全無議決権株式となっています。
>完全無議決権株式のため、株主総会における
>役員選任や役員報酬の総額の決定(枠取り)、退職金の支給、
>合併などの組織再編などを決議する際に無議決権のため
>株主総会には参加しないと考えています。
>種類株主には招集通知の案内は不要となる、

はい。
招集通知を要するとする会社法299条1項の
「株主」は、同法298条2項の「株主」と
同義であるとされ、決議事項について
議決権を行使することが
できない株主を除くとされているからです。

(2)株主総会への参加権

>また株主総会の参加も認めないという実務対応は問題ない
>対応になるのでしょうか。

そうですね。会社法上、議決権のない株主が
株主総会に参加する権利があるのかないのかについては、
明確な規定がないところですが、

上記のように招集通知の相手方が定められている趣旨
や議長の裁量権などからすると認める必要がないという
判断になりやすい上、

仮に権利があるとして
株主総会決議の取消の訴えがされたとしても、
会社法831条2項の「その違反する事実が重大でなく、
かつ、決議に影響を及ぼさないものである」として、
裁判所が棄却するであろうことから実務上は、参加させない
という対応で問題がないとされています。

なお、仮に権利がないのに、総会への参加を
認め、議決権を有する株主に不当な影響を与えた等
があると、議長の裁量権の逸脱として、むしろ
取消事由があるとされるおそれもあるという理由も、
参加させない実務対応の理由となっています。

(3)その他の注意点

その他の注意事項として、
A種類株主総会などが必要な決議事項については
全体の株主総会決議とは別に、
A種類株主による総会決議が必要になります。

>完全無議決権

ということですので、おそらく会社法上
可能な範囲で、A種類株主総会決議事項についても
A種類株主総会は不要なものとして、種類株式を
組成されているものと思いますが、

以下の事項の定款変更は、
①株式の種類の追加②株式の内容の変更
③発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加

そのような組成をしても、
種類株主総会が必要となる場合がありますし、

A種類株式自体に、全部取得条項等をつける場合などは、
A種類株主の全員の同意が必要となります。

よろしくお願い申し上げます。