役員報酬 医療法

医療法人社団における理事長退任に伴う退職慰労金支給

永吉先生
お世話になります。
税理士の●●です。

表題の件につき、以下質問させてください。

■質問
株式会社であれば、株主総会決議(会社法361)からの取締役会への委任という流れが一般的と理解しております。

出資持分ありの医療法人社団の場合は同様の流れになるのでしょうか(前提:退職金規程はこれから作成予定)。
医療法で定める社員総会、理事会という流れなのでしょうか。
退職する理事長は、特別利害関係人となり議決権停止するなどの措置はありますでしょうか。
理事長は当然持分保有者(社員)で分掌変更ではなく完全退職になります。

以上、よろしくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

> 出資持分ありの医療法人社団の場合は同様の流れになるのでしょうか(前提:
> 退職金規程はこれから作成予定)。
> 医療法で定める社員総会、理事会という流れなのでしょうか。
> 退職する理事長は、特別利害関係人となり議決権停止するなどの措置はありま
> すでしょうか。

2 回答

(1)社員総会から理事会への委任について

通常の理事報酬については、社員総会で最高
限度額を定めれば、理事会に委ねることが
できると解釈されています(平成28年3月25日医政発0325第3号)。

退職金についてはどうかというと、
明確な何かというものがあるわけではありませんが、

会社法と同様の趣旨から、
社員総会が理事会に委ねることは可能だと考えられます。

ただし、明確な判例や根拠があるわけではないので、
可能であれば、原則通り、退職金規定により計算した
金額を社員総会決議で決定するという
扱いがベターだと思います。
(医療法と会社法は異なる側面があるとして、
争いになることも多いので。)

(2)社員総会と特別利害関係について

株式会社の株主総会とは異なり、

医療法の社員総会では、決議について
「特別の利害関係を有する」社員は、
議決権を行使することができません
(医療法46条の3の3第6項)。

通常の理事の報酬の総額を決定し、その後、
理事会で誰がいくらもらうかを決定すること
自体は、理事であっても、特別利害関係人
には当たらないという見解が有力な一方で、

退職金の場合には、特定人に対するものですので、
特別利害関係人に当たるという見解が有力です。
(判例等はない状況です。)

ですので、社員総会(理事会に委任する場合には、
委任する社員総会、理事会両方)においては、

理事長は、議決権行使をできない前提で、
決議をすることが安全です。

(3)その他、社員総会の注意事項

その他、
株主総会とは異なる点で、大きなところ
といえば、

医療法では、定款等に別段の定めがない限り、
社員総会において議長に選任された者は、
社員として議決権を行使することができない
とされています(医療法46条の3の3第4項)。

一方で、議長に選任された者は、社員の議決権が
「可否同数」のときは、議長が決定することが
できるという議長決裁権なるものがあります。

議長でありながら、社員としての議決権行使を
している議事録は、実務的には多いかと思いますが、
本来は、議長の社員としての議決権行使は認められて
いないので、注意が必要です。
(全員賛成等が多いと思うので、実務上問題と
なるケースは多くはないとは思いますが。)

よろしくお願い申し上げます。