相続 遺言 株式

上場株式の換価分割と遺言の記載

永吉先生、いつもありがとうございます。
●●です。

遺言書の記載例としてアドバイスをいただきたいです。
現在、公正証書遺言書の作成をしている最中です。
遺言者には上場株式があります。
上場株式について、下記の例のように特定遺贈なら問題はないと思いますが、
金融資産である、預金と有価証券を含めての換価遺贈のような方向で話が
進んでいます。

第○条 遺言者は、遺言者の有する下記の株式等を、妻******に相続させる。

株式会社○○証券 ○○支店 口座番号1111111
内訳
①株式会社○○ 普通株式 1000株

現在の案として
遺言者は、遺言者の有する現金及び金融資産の全部を遺言執行者において換価し、
その換価金の中から、遺言者の長女****及び遺言者の二女****にそれぞれ金4000万円ずつ(合計金8000万円)
を相続させた上、その残金を、次の者に次の割合で相続させる。
⑴ 妻****に対し、17分の1
⑵ 長男****に対し、17分の4
⑶ 養子****に対し、17分の3
⑷ 養子****に対し、17分の5
⑸ 養子****に対し、17分の4(現時点では未成年者)

遺言者は、遺言者の有する不動産、預貯金債権、有価証券等の財産のすべてについて、
本遺言執行のために必要な名義変更、払戻し、解約、換価、残高照会等をする権限並びに
遺言者の権利に属する金融機関の貸金庫があればその開扉、内容物の引取り及び
貸金庫契約の解約等をする権限、その他この遺言を執行するために必要な一切の権限を遺言執行者に付与し、
遺言執行者は、これらの権限を有する。
なお、遺言執行者が任務遂行に関して必要と認めたときは、
第三者にその任務を行わせることができる。

この文面で証券会社で名義変更と換金ができるかを聞いたところ、だいぶ手間がかかるとの
回答をいただいています。
実務上、上場有価証券がある場合の換価遺贈の記載例としては上記の記載例でおかしなところ、
手間がかかると言われていますが、手間がかかからない方法はないものでしょうか?
証券会社は売却されるのが分かっているため、特定の人にしたらとの回答でした。
つまり、有価証券の換価遺贈をやめて、特定の相続人へ特定遺贈したらとのアドバイスを
もらいました。

ちなみに換価遺贈ができた場合は、遺言執行者が代わりに売却したのみのため、
遺言執行者の特定口座で源泉徴収あり(含み益が全体ではある状態です)であれば、
源泉を引かれて手取りになりかと思いますが、
各相続人が換価の割合に応じて譲渡所得となり、原則、源泉徴収されているのであれば、
申告不要だけど、取得費加算を適用するなら譲渡所得をして源泉の還付を受けることは可能と
思われますが、税務の件もよろしければ、教えてください。

上場株式の遺贈について

相続人の譲渡申告について
http://www.sugitax.jp/15051958375272

参考として、
以前、ある信託銀行が作成したものもありましたので、記載します。
この記載例だと名義変更と換金の手間は簡単なのでしょうか?
どのみち遺言執行者は信託銀行でしたけど。
遺言者は、相続開始時に有する次の財産(ただし、保険契約及び出資金を除く)について第**条に
指定する遺言執行者をして、これを随時適宜の方法により、すべて換金させた上、その換金により
得られた金銭(利息・手数料等加除後の手取額)を次の者に対して次の割合により相続させる。
なお、第**条に指定する遺言執行者は次の者が取得する金銭から第**条記載のその者が負担する
費用等を控除した残額をその者らに交付することができる。
(取得者と取得割合の表示)
1前記 Aに対し2分の1
2前記 Bに対し4分の1
3前記 Cに対し4分の1
(財産音表示)
(1)遺言者が次の金融機関等との間で遺言者名義の預託契約等(貸金庫契約は含まない)を締結し
ている預貯金、金銭の信託、株式、公社債、投資信託、預け金、金債権及びその他の預託財産の
すべて及びこれに関する未収配当金その他の一切の権利
(金融機関等の表示)
1 A銀行
2 B銀行
3 C銀行
4 遺言者名義で契約するその他の金融機関
(2)その他遺言者が所有する有価証券のすべて及びこれに関する未収配当金その他の一切の権利

第**条にしていいする油井丼執行者は、前項の財産のうち換金が困難である財産については、
換金せず、当該財産を相続開始時の相続税法及び国税庁が定める財産評価基本通達に基づく相続税
評価額をもって、前記 Bに相続させる財産の一部として同人に現物を交付する。この場合、
当該相続税評価額をもって前項の換金により得られた金銭とみなす。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

まず前提として、
>上場株式について、下記の例のように特定遺贈なら問題はないと思いますが、
>金融資産である、預金と有価証券を含めての換価遺贈のような方向で話が
>進んでいます。

とのことですが、おそらく文案を見る限り、
「遺贈」ではなく、いわゆる「相続」させる旨の遺言
を前提としているのかと思いますので、
それを前提に回答します。

1 ご質問

>実務上、上場有価証券がある場合の
>換価遺贈の記載例としては上記の記載例でおかしなところ、
>手間がかかると言われていますが、手間がかかからない方法はないものでしょうか?

まず、法的には、むしろ●●先生の
文案が適切だと思います。

このままでも良いと思いますが、
「金融資産」という言葉が法律用語では
ないため、一応、【「金融資産」(預金、株式、金銭の信託、公社債、及び投資信託等
その他一切の金融資産を含む)】など、代表的なものを例示しておくという
ことをすることもあるかなという程度です。

>この文面で証券会社で名義変更と換金ができるかを聞いたところ、
>だいぶ手間がかかるとの回答をいただいています。

この回答については、おそらく証券会社担当者が
見たことがない(遺言の法的な意味を分かっていない)
ので、そう言ってるだけだと思いますね。

法的には疑義がない分むしろ単純明快です。

>証券会社は売却されるのが分かっているため、特定の人にしたらとの回答でした。
>つまり、有価証券の換価遺贈をやめて、特定の相続人へ特定遺贈したら
>とのアドバイスをもらいました。

おそらく、全部の金融資産を、
特定人に相続させて、その代償金として、
同程度の金額をその他の相続人に支払わせる
という内容になるかと思います。

この場合、その特定人が売却するか否かは
自由である旨がわかるような記載(金額の指定方法)
にしておかないと

代償分割の指定なのか、換価分割の指定なのか
明確にならず、税務含めて判断で悩むことに
りますので、注意が必要です。
(法律上も、遺言者の合理的意思解釈の問題となります。)

また、仮に特定の相続人が売却等をする際には、
それは相続の問題ではなくなりますので、
遺言執行者が代わりに行うことはできません。

このあたりは、証券会社の担当者が
やりやすいように作成するのか、
本来の遺言者の意思が明確
になるように遺言書を作成するのか
というバランスの問題だと思います。

>参考として、
>以前、ある信託銀行が作成したものもありましたので、記載します。
>この記載例だと名義変更と換金の手間は簡単なのでしょうか?

いいえ。これは信託銀行が自分たちが作成したものだから
意味がちゃんと分かっているから手間なくできるだけで、
先生の文案よりむしろとても複雑で手間のかかるものだと思います。

よろしくお願い申し上げます。