相続 清算 株式 会社法

相続放棄手続きと会社の清算

永吉先生

お世話になっております。

相続放棄について、ご教授お願い致します。

【前提】
・社長に相続が発生し、相続人は子供一人です。
・株主は被相続人他1名(他の1名も役員です。以下「A氏」)で50%ずつ保有
・相続発生時は清算中であった。

上記、前提において清算人の再選任が必要となったため
A氏を清算人として選任し登記をする予定でした。

しかし、被相続人の親族より相続人には相続放棄をしてもらう
話が進んでいるとの内容を聞きました。

この場合、清算人再選人の登記において株主名簿に相続人の
名前が記載されると相続放棄手続きの妨げになりますでしょうか。

よろしくお願い致します。

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問~相続放棄と議決権行使について

>被相続人の親族より相続人には相続放棄をしてもらう
>話が進んでいるとの内容を聞きました。

>この場合、清算人再選人の登記において株主名簿に相続人の
>名前が記載されると相続放棄手続きの妨げになりますでしょうか。

株主名簿自体は、会社側から
記載を正しい形に変更できると
されていますので、それ自体で妨げに
なるかと言われるとそうではない
ということとなるかと思いますが、

おそらくご質問の趣旨としては、
清算人の再選任を株主総会決議で行った上で、
清算人再選任の登記をするということ
かと思います。

A氏を清算人とする株主総会決議において、
A氏を清算人に選任する旨の議案に
相続人とA氏が、
賛成の議決権を行使することになると思います。

過去の裁判例からすると、
相続人が株主として議決権を行使した場合には、
「相続財産の処分」として、法定単純承認事由があることになり、
有効に相続放棄ができないことになります
(民法921条1号、東京地裁平成10年4月24日)。

したがって、相続人の相続放棄手続きの妨げになります。

2 今後の対応について

>(他の1名も役員です。以下「A氏」)

とあるため、会社法478条1項1号により、
取締役として、清算人となれそうですが、
こちらの規定は、清算手続きが開始する前、
すなわち、被相続人を清算人に選任する決議が
行われる前に適用されるもので、
再選任が不要になるわけではないと一般的に解されています。

したがって、
①株主総会決議で再選任をする
②裁判所に一時清算人の申立てをする
しかないこととなります。

① 株主総会決議による再選任について

①については、現状でいうと
清算人の再選任を行う株主総会決議は、
相続人が議決権を行使できないとなると
要件を満たしませんので、この方法をすぐに
行うことは困難だと思います(議決に参加しなければ、
定足数も満たさず、株主総会の開催自体も
できません。)。

この場合、相続人が相続放棄をすると
次順位の者に相続権が移ります。
次順位の者がいない場合やその者も相続
放棄をして、最終的に相続人がいなくなった
場合には、裁判所に
相続財産管理人の選任の申立てを行う
こととなります。

そして、
相続財産管理人となった者(または次順位の者)
とAで、清算人を再選任するということとなります。

②裁判所に一時清算人の申立てをする

こちらの方法ですと
裁判所から選任された一時清算人が、
被相続人の行っていた清算人業務を引継いで
行うことになります。

①と②の方法いずれが良いか
ですが、

②の方法を採用したとしても、
清算の結了までには、
別途、残余財産分配前に
貸借対照表の承認と事務報告のための
株主総会を開催しなければなりません。
さらに、最終的な結了前にも、
決算報告の承認の株主総会決議が必要になります。

②では、結局のところ、相続人が
株主であり、かつ相続放棄を予定している
ということですと、清算結了ができませんので、

①の方法で行うことがベターかと思います。

よろしくお願い申し上げます。