相続 役員報酬 会社法 相続税

役員退職金規定における死亡退職金の相続財産性

永吉先生、お世話になります。公認会計士の●●です。

役員退職金規程における死亡退職金ついての質問です。

(前提)役員退職金規程では一般的に死亡退職金について、以下のように定めるこ
とが多いと思います。

「役員が死亡により退職した場合には、役員退職慰労金はその役員の遺族に支給
する。」

(質問)
1 上記のような一般的な規定の場合は、死亡退職金は法定相続分に応じて、遺族
に支払われると考えてよろしいでしょうか?

2 また、上記の規定に代えて、

「第7条 役員が死亡により退職した場合には、役員退職慰労金はその役員の遺族
に支給する。」

「第8条 この規定において「遺族」とは、次に掲げる者をいう。
一 配偶者
二 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で役員の死亡当時主としてその収入によ
つて生計を維持していたもの
三 前号に掲げる者のほか、役員の死亡当時主としてその収入によつて生計を維
持していた親族
四 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で第二号に該当しないもの
2 この規定による退職手当を受けるべき遺族の順位は、前項各号の順位により、
同項第二号及び第四号に掲げる者のうちにあつては、当該各号に掲げる順位によ
る。」

とした規定を作成した場合には、上記の役員退職金規定は、役員の退職金支給時
に民法上、税務上(法人税法、相続税法上)問題となりますでしょうか?

3 仮に上記2の規定が問題ないとした場合には、役員退職金は配偶者がいる場合
に配偶者に支給することとなりますが、これは配偶者の固有の財産となり、遺産
分割の対象とはならないという理解であってますでしょうか?

お手数かけますが、よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜「遺族」としか定めのない規定

>(前提)役員退職金規程では一般的に死亡退職金について、以下のように定めるこ
>とが多いと思います。
>「役員が死亡により退職した場合には、役員退職慰労金はその役員の遺族に支給
>する。」
>上記のような一般的な規定の場合は、死亡退職金は法定相続分に応じて、遺族
>に支払われると考えてよろしいでしょうか?

このような規定のみの場合には、「遺族」のうち、
誰に支払われるのかについては、何も確定的に
なっていません。

ですので、規程上に、
役員退職金の支給対象たる「遺族」としか定めがない場合、
支給対象および支給金額については、株主総会決議によって、
これらを決定し、実際の支給を行う流れになります。

最終的には、
株主総会の決議の帰趨によりますが、
法定相続分に応じて、
役員の相続人に支払う趣旨の決議を経れば、支給が行われます。

誰に払うかを会社が決めることに
問題はないのかという点、

例えば、他の遺族が会社に対して自分にも支払えと請求
できるかという点については、

本来役員退職金は、株主総会による決議があって初めて
具体的な請求権が発生するものですので、役員退職金
の請求はできません。

他の遺族が、会社に何らかの請求をするとすれば、
損害賠償等になると思いますが、

従前の取締役との取り決めや規定ができた経緯等で
その規定が契約内容になっているとまで認定でき
(本来は役員退職金の支給の有無は、株主総会で決定
することですので、ハードルは高いです。)、
さらに、当該会社の規定の「遺族」とは何を指しているのかの
事実認定と評価で自分も含まれることまで証明できるケース
ということになります。

このような規定しかないケースでは、仮に契約内容に
なっていると認定できても、誰に支給するかは会社の
裁量とされるケースがほとんどかと思いますので、

他の遺族が、会社に対して何か請求することは困難
でしょう。

結局のところ、遺族のうち、株主総会で決定した
者に支給されることとなります。

2 ご質問②〜ご提案の規定について

>「第8条 この規定において「遺族」とは、次に掲げる者をいう。
>一 配偶者
>二 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で役員の死亡当時主としてその収入によ
>つて生計を維持していたもの
>三 前号に掲げる者のほか、役員の死亡当時主としてその収入によつて生計を維
>持していた親族
>四 子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で第二号に該当しないもの
>2 この規定による退職手当を受けるべき遺族の順位は、前項各号の順位により、
>同項第二号及び第四号に掲げる者のうちにあつては、当該各号に掲げる順位によ
>る。」

>とした規定を作成した場合には、上記の役員退職金規定は、役員の退職金支給時
>に民法上、税務上(法人税法、相続税法上)問題となりますでしょうか?

規定自体の問題点としては、同順位の人が複数いた場合の
取扱いが不明確かと思います。

例えば、「子で役員の死亡当時主として
その収入によつて生計を維持していたもの」(第8条1項2号)が
2名いる場合の取扱いです。

これを明確にするため、
第8条2項に以下の文言を付け足すことが考えられます。
「なお、同順位の者が複数いる場合には、人数に応じて案分して支給する。」

税法上は、規定独自の固有の問題というのは、
ないかと思いますが、
上記のとおり、
誰が退職金を受給するのかの権利関係が
明らかにならないと申告時に困るという
こともあるでしょうし、上記の定め方ですと
相続人が他にいるケースでも、
相続人でない者が受給するということもあると
思いますので、それで良いか等は検討しても良いかと思います。

3 ご質問③〜配偶者の固有財産性

>仮に上記2の規定が問題ないとした場合には、役員退職金は配偶者がいる場合
>に配偶者に支給することとなりますが、これは配偶者の固有の財産となり、遺産
>分割の対象とはならないという理解であってますでしょうか?

死亡により退職した場合の役員退職慰労金、
すなわち死亡退職金自体については、
死亡退職金が、相続財産となるか、
受給者固有の財産となるのかという問題点があります。

これについては、
支給基準や受給権者に関する定めや株主総会での
支給承認の趣旨等により、相続財産か固有財産かを
決するとされており、裁判所はケースバイケースで、
このどちらに該当するのかを判断している状況です。
(東京地裁平成26年5月22日等)

ただ、上記2の規定のように第1順位が「配偶者」
とされているものであれば、
配偶者の今後の生活の糧のためのニュアンスが読みとれますし、
2号以下も「収入によって生計を維持していた者」とされている
ことからも、今後の生活の糧のための支給であることが
読み取れるので、

あくまでも可能性の問題となりますが、
実務上は、配偶者の固有財産と考えていただいて問題がないように
思います。

よろしくお願い申し上げます。

なお、死亡退職金が相続財産となるかについては、
過去に私が作成したメールマガジンを
以下に転載しておきます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
【役員死亡退職金は相続財産になる場合がある?】

税理士のための法律メールマガジン
2018年8月24日(金)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

おはようございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

死亡役員退職金については、
相続税法上は「みなし相続財産」に
なるとされており、

民法上は、相続財産にはならない
というように考えられている方が
多いと思います。

これは、役員死亡退職金の場合、
死亡後の株主総会決議に基づいて、
会社が指定した受給者に支払われる
ため、

「死亡後に」権利が確定する以上、
相続財産ではないというのが理論的には
しっくりくるからです。

しかし、裁判例などでは必ずしも、
そのようには考えられていません。

もし仮に、死亡退職金が相続財産にあたる
ということであると、

実務上、遺産分割における交渉や
遺留分の算定に影響を及ぼすところですので、
今回はこの点について解説したいと思います。

一般的に最近の裁判例などを見ていると、
死亡退職金が相続財産に当たるか受給者の固有財産に
当たるかという点は、

「死亡退職金の支給の根拠や経緯、
支給基準の内容等の事情を総合考慮して判断する」
としているものが多いです。

具体的には、

支給を受ける者の生活保障などために固有の権利として支出される
ものなのか、
それとも、給与の後払的性質を有するか
(被相続人の功績に報いるためのものであり、
被相続人の勤続年数や功績等を考慮して算定されている
か)

により前者であれば「固有財産」
後者であれば「相続財産」というような方向性になっています。

裁判例によっては、
その金額算定の性質から
半分は固有財産、半分は相続財産としたものまで、
最近はでています(東京地裁平成26年5月22日)。

もちろん、役員の生前に退職金規定などが整備され、
死亡の場合の受給者が具体的に定められているの
であれば、その者の「固有財産」と認定されやすく
なりますので、そのようにしたいのであれば、
必ず作成しておくことが、法務の面からもとても重要です。

ただし、「配偶者」が受給者になっている
場合は、生活保障の側面が強くなり、「固有財産」
とされる可能性が高くなりますが、
例えば、「配偶者」がいるにも関わらず、「子」を指定
しているようなケースですと、生活保障という意味では
固有財産と認定される可能性が「配偶者」への指定よりも
低くなるでしょう。

あくまでも、事実認定と評価の問題であるため
相続対策を考えるにあたって、
退職金規定での対策も、実は万全ではないという点は、
知っておいても良いポイントかと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━