いつもお世話になっております。
税理士の●●と申します。
被相続人の甲は、生前に法定相続人ではない姪Aに
上場企業S社の株式を遺贈する公正証書遺言を
残しておりましたが、S社株式は生前に売却してしまい
ました。
その代わりに、姪Aに対し現金3百万円を遺贈する
という内容の追加の遺言書を作成しようと準備して
いたところ、作成前に亡くなってしまいました。
そのことは、相談を受けていた顧問税理士は知って
おります。
また、自筆証書遺言の法定の要件は満たしており
ませんが、「メモ書き」があり、「Aに3百万円」と
読み取ることができます。
以上の状況で、甲の遺産分割において、Aが甲から
現金3百万円の遺贈を受けたとすることは法律的に
問題があるでしょうか?
また、相続税の申告において、Aが3百万円の遺贈を
受けたとして申告をすることに問題があるでしょうか?
(Aに対する相続人からの贈与であると認定される
可能性があるでしょうか?)
なお、相続人全員がAに対する遺贈を認めており
反対する関係者は一人もおりません。
以上、よろしくご教示お願い申し上げます。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜法律上遺贈を受けたといるか?
>被相続人の甲は、生前に法定相続人ではない姪Aに
>上場企業S社の株式を遺贈する公正証書遺言を
>残しておりましたが、S社株式は生前に売却してしまい
>ました。
>その代わりに、姪Aに対し現金3百万円を遺贈する
>という内容の追加の遺言書を作成しようと準備して
>いたところ、作成前に亡くなってしまいました。
>そのことは、相談を受けていた顧問税理士は知って
>おります。
>また、自筆証書遺言の法定の要件は満たしており
>ませんが、「メモ書き」があり、「Aに3百万円」と
>読み取ることができます。
>以上の状況で、甲の遺産分割において、Aが甲から
>現金3百万円の遺贈を受けたとすることは法律的に
>問題があるでしょうか?
(1)S社株式の生前売却について
公正証書遺言のAに対するS社株の遺贈については、
遺言後の生前の処分が
遺言書の内容と抵触する場合には、その抵触する部分について、
撤回したものとみなされ、効力を生じなくなります(民法1023条2項)。
(2)自筆証書遺言として遺贈とすることが可能か
遺言は、口頭のみでは発生しない
要式行為(ある一定の要件を満たした書面を作ることで効力
が発生するもの)であるため、
>姪Aに対し現金3百万円を遺贈する
>という内容の追加の遺言書を作成しようと準備して
>いたところ、作成前に亡くなってしまいました。
>そのことは、相談を受けていた顧問税理士は知って
>おります。
>また、自筆証書遺言の法定の要件は満たしており
>ませんが、「メモ書き」があり、「Aに3百万円」と
>読み取ることができます。
ということであっても、残念ながら効力は生じないものと
考えられます。
したがって、法的に300万円の「遺贈」があったという
ことはできないでしょう。
もちろん、民事の問題であれば、当事者が納得していれば、
300万円の財産自体をAにあげることは問題ないのですが、
例えば、遺産分割協議書にその旨の記載をすれば、
遺産分割協議書というタイトルであったしても
その部分は、相続人からAに対する贈与として
評価されるでしょう。
つまり、「遺贈」としては財産を渡すことは
できません。
2 ご質問②〜相続税申告について
>また、相続税の申告において、Aが3百万円の遺贈を
>受けたとして申告をすることに問題があるでしょうか?
>(Aに対する相続人からの贈与であると認定される
>可能性があるでしょうか?)
遺贈を受けていない財産を遺贈を受けたとして
申告することになりますから、不真正な申告とは
なるでしょう。したがって、問題がないとは言えません。
>相続人全員がAに対する遺贈を認めており
>反対する関係者は一人もおりません。
という前提であれば、事実認定と評価の問題
となります(単なる不正取得だという認定も
論理的にはありえます)が、
もちろん相続人から贈与があったとされるおそれは当然あります。
上記のとおり、遺産分割協議書にその旨の記載をすれば、
遺産分割協議書というタイトルであったしても
その部分は、相続人からAに対する贈与として評価されるでしょう。
よろしくお願い申し上げます。