相続 遺言 贈与 遺留分 相続税

相続税の節税策と遺留分への影響

永吉先生

いつもお世話になります。

●●です。

本年もよろしくお願いいたします。

相続税の節税策において遺留分が減少した場合において
詐害的な問題は発生するか。また遺留分の算定に影響を与えるか。

(前提)
弊社の顧客のA(70代・女性)は夫に先立たれ、相続人として長女のB、次女のCがいます。
Bは従前より家族と折り合いが悪く、Aとしては全財産をCに相続させたいと考えてい ます。
そこで、AはCに不動産を含む全財産を相続させ、遺言執行人もCにする旨の公正証書遺言を作成しました。
しかし、Aの死後BはCに対して遺留分減殺請求を行う可能性が高いと考えています。

(弊社からの提案)
弊社からの提案でAは相続税対策として、下記の①②を本年中に行う予定です。
①Aの所有する貸店舗(美容室へ賃貸している)をCへ贈与する。貸店舗の敷地はAが 所有しており、今後もAが所有する。
目的:美容室からの賃貸料収入をAからCに移転させ、Aの財産の増加を防ぐため。
②Cの所有する土地の上に、Aが約2億円を投じてアパートを建設する。 目的:Aの財産を相続税評価により圧縮するため。
2億円×0.6(相続税評価による圧縮)=1.2億円
1.2億円×(1-30%)(貸家評価)=8,400万円
2億円-8,400万円=1.16億円の財産の圧縮効果

(質問)
Aの死後、Bが遺留分減殺請求を行ったと仮定して、以下の質問をさせてください。
・①の贈与は特別受益として持ち戻しの対象となるのでしょうか。
・①②の行為はBの遺留分を少なくすることが本来の目的ではなく、Aの相続税対策と
して行うものですが、遺留分額を算定するうえで問題は生じますか?
・①と②のどちらを先に行うかで、遺留分額に影響は生じますか?

以上です。
よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問1〜各行為と遺留分侵害額請求との関係について

(1)①貸店舗の贈与について
>①Aの所有する貸店舗(美容室へ賃貸している)をCへ贈与する。貸店舗の敷
> 地はAが所有しており、今後もAが所有する。
>目的:美容室からの賃貸料収入をAからCに移転させ、Aの財産の増加を防ぐ
>ため。
>・①の贈与は特別受益として持ち戻しの対象となるのでしょうか。

貸店舗の贈与については、
被相続人Aから相続人Cへの贈与ですので、
原則として、Aの死亡から10年以内であれば、
特別受益に該当し、遺留分の算定基礎財産に算入される
こととなります(民法1044条3項、1項前段)。

>①の行為はBの遺留分を少なくすることが本来の目的ではなく、Aの相続
>税対策として行うものですが、遺留分額を算定するうえで問題は生じますか?

Aの財産増加を食い止める目的、Aの年齢、AからCに
全財産を相続させる旨の遺言があることからすると
「遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした」
として、例外的に10年以上前の贈与も遺留分算定基礎財産に
算入される可能性が高いでしょう。

「この損害を加えることを知って贈与をした」の要件に
ついては、害意までは不要とされていますので、

相続税対策が主たる目的であるからといって、
この点の判断に影響するものではないと考えられます。

(2)②アパートの建設にうおる相続税対策について
> ②Cの所有する土地の上に、Aが約2億円を投じてアパートを建設する。
>目的:Aの財産を相続税評価により圧縮するため。
>2億円×0.6(相続税評価による圧縮)=1.2億円
>1.2億円×(1-30%)(貸家評価)=8,400万円
>2億円-8,400万円=1.16億円の財産の圧縮効果
>②の行為はBの遺留分を少なくすることが本来の目的ではなく、Aの相続税対策と
>して行うものですが、遺留分額を算定するうえで問題は生じますか?

建設したアパートは、
あくまでも、Aが建物を所有するという行為ですので、
特別受益等にはならず、相続財産として、その評価額
が遺留分の算定基礎財産に算入されます。

ただし、相続税評価による財産評価方法は、
あくまでも相続税額を算出されるための
ものであり、

遺留分算定上のアパートの時価は、民法上の時価で
評価することとなります。

ですので、遺留分の算定に際しては、上記の相続税
評価額となるわけではありません。

2 ご質問2〜①と②の順番が遺留分に与える影響

遺留分基礎財産の算定は、相続開始時の
価格評価に基づきますので、①と②のどちらを先に行おうと、
生前の行為である限りは、基本的に遺留分額には影響しません。

10年前の贈与として除外されやすくするために
①を先にするという考えはあると思います
(ただし、10年より前でも算入される
可能性が高い事案かとは思います。)。

よろしくお願い申し上げます。