役員報酬 会社法

役員に対する退職金支給の時効について

永吉先生

いつもお世話になっております。
税理士の●●と申します。

先日は遺産分割に係るご相談について
とても分かりやすいご回答を頂きありがとう
ございました。

長年の疑問について解消する(不安が
なくなる)ことができました。

続けてのご質問で恐れ入りますが
宜しくお願い致します。

(前提)
〇 A社の取締役乙が退職をしました。

〇 役員乙はA社の代表取締役甲の長男です。

〇 元取締役乙は父である甲と経営方針について
以前から衝突があり、平成30年10月(定時株主総会)
に任期満了による退任となりました。

〇 役員乙は任期満了による退任は納得し、
一応、退任そのものに双方の疑義はありません。

〇 平成30年11月の臨時株主総会にてに
役員退職金規程に基づき退職金を計算した場合
3000万円ほどの金額となりましたが、退任する
理由が、元取締役乙のパワハラ、セクハラ、個人的
経費の使い込みなどを理由として、臨時株主総会では
支給額をゼロとする決議をしました。

〇 乙はA社の株式を8%ほど所有していましたが、
平成30年の8月にすべて同族関係者に売却をして、
資金化しており、株主総会自体には参加できない状況に
なっていました。

〇 そして、この臨時株主総会を経て、元取締役であった乙より、
退職金の支給について、上記の様な事実はなく、役員退職金の
支給決議がゼロになる事を不服として、乙の弁護士より訴えの
提起がされ、現在、裁判を念頭に話し合いがされています。

(質問)

質問①

A社より、仮に裁判になると期間を要することになりますが、
役員退職金の時効はいつになりますかと質問がありました。

下記のネット情報のように5年や10年と考えがあるようですが、
時効が成立するのは何年と考えられますでしょうか。

(参考)

【従業員の退職金の基本(請求できるか・消滅時効・取締役兼務ケース)】


https://www.bengo4.com/c_5/c_1099/c_1228/b_518006/

質問②

裁判など係争状態になっていると時効は中断されるのでしょうか。

正直、A社の顧問弁護士の先生に質問して欲しいのですが
一般的な回答が欲しいとお願いされているので、色々と
留意点があるのかもしれませんが、(一般的な)回答を
お願い出来れば幸いです。

先生著書の時効の解釈と実務を買いました。

勉強不足かもしれませんが、
宜しくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜時効期間について

乙の会社に対する役員退職金の請求につき、
時効期間が何年となるかは、乙が会社に対して、
どのような法的根拠に基づいて、
退職金相当の金額を請求してくるのかに左右されることになります。
(認められる(理由のある)請求か否かは別として)

(1)会社と乙との契約関係に基づき、役員退職金の請求を行う場合

判例上は、報酬等の支給について株主全員が
同意があったとされるときは、これを株主総会決議と同視
して報酬請求権を認めるとする判例があります(最高裁判平成15年2月21日)。
(地裁判例等だと、「実質的な株主全員の同意」があるときも
含むとされるものがあります(東京高判平成7年5月25日等)。

実際に認められるかは別として、このような主張の
場合には、委任契約に基づく請求になり、

会社と取締役との契約は、商行為とされるため、
乙の会社に対する請求について
消滅時効の期間は、5年間となる(商法522条)と
解するのが通説です。

(会社から役員への損害賠償事案は、純粋な委任契約による請求
とは異なるとして、10年とされます(最高裁平成20年1月28日)
が、上記URLはこの点を混同しているのではないかな?と思います。)

一般的には、この方法によって請求すると思いますので、
退任時から5年と考えるのが自然でしょう。

(2)乙が取締役の地位だけでなく、会社の使用人としての地位も有していたとして、
退職金を請求する場合

この場合、
会社と乙との間に退職金に関する合意が必要ですが、
労働債権として、退職時から5年間となります(労基法115条)。

裁判所が退職した役員に対して従業員の地位にあったことを認めて、
退職金の請求を認めた事例もあります。

(3)不当利得返還請求権による場合(民法703条)

一般に、不当利得返還請求権の時効期間は、10年間ですので、
乙が退任したときから10年間です。

(4)支給決議をしないことを不法行為等とした場合

この場合、被害者が損害及び加害者を知った時から
3年間行使しない時、または不法行為時から20年
経過した時となります。

2 ご質問②〜時効の中断について〜

>裁判など係争状態になっていると時効は中断されるのでしょうか。

係争状態が生じているケースにおいて、
時効の中断が生じる主な原因は、裁判上の請求です(民法147条)。

ですので、裁判となった場合、
時効は中断されます。

ただ、今回のケースは、平成30年頃の出来事であるうえ、
一般に、乙が弁護士を立てて、役員退職金の請求を行っている場合には、
時効の期間も管理したうえで、
訴訟手続を利用してくることになりますので、
時効を理由に請求が排斥されることはまずないでしょう。

よろしくお願い申し上げます。