不動産 民法 借地借家法 法人税 税理士法 税理士賠償責任

係争中の家賃収入と税理士の責任

永吉先生

●●です。
よろしくおねがいします。

(前提)
・不動産業を営む会社です。
・自社所有の建物を貸し付けているテナントの老人ホームと家賃金額について係争中ですがまだ裁判にはなっていません。
・家賃は契約では月額169万円ですが、テナントはこの金額に納得せず支払いもなされていません。
・支払いが停止して1年ほどになります。
・会社の社長は全額回収できない、と思っていますが、毎月169万円の家賃は請求しています。

(質問)
・通達2-1-29に「使用料等の額の増減に関するものを除く」とありますので、今回の家賃収入は契約自体について争いがないので、月額169万円の家賃収入を未収で計上するべきだと思いますが、正しいでしょうか?
・この社長は「全額回収できる可能性を加味すると月100万円ぐらいが家賃収入として計上するのが妥当」と主張しており、その主張には何らの合理的な根拠もありませんでした。さらに家族旅行も経費計上しているのですが「まわりの社長はみんなやってるけど調査で指摘されていない。自分は交際費はかなり控えめだし、これくらいは認めてほしい」と身勝手な主張を繰り返しております。経理処理を訂正するように伝えても受け入れず、もし税務署と争いになれば弁護士を立てて争う、と言ってます。私の考えはメールで伝えており内容も社長は了承しています。このような状況でも税務的な問題が生じた場合は私に何らかの責任はありえるのでしょうか?

すみませんが、よろしくおねがいいたします。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜家賃収入について
>・通達2-1-29に「使用料等の額の増減に関するものを除く」とありますので、今回の
>家賃収入は契約自体について争いがないので、月額169万円の家賃収入を未収で計上するべき
>だと思いますが、正しいでしょうか?

契約上の請求が立っている(法的に請求権がある)という
ことであれば、そのとおりかと思います。

>・自社所有の建物を貸し付けているテナントの老人ホームと家賃金額について係争中ですが
>まだ裁判にはなっていません。

とのことで、どのような理由で、相手が
支払いを拒否(金額が高いと主張)しているのか
がわかりませんので、何とも言えませんが、

先生の挙げていらっしゃる法基通2−1−29
の(注)2
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/02/02_01_05.htm
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
2 使用料等の額の増減に関して係争がある場合には(注)1の取扱いによらないのであるが、この場合には、契約の内容、相手方が供託をした金額等を勘案してその使用料等の額を合理的に見積もるものとする。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

として、合理的に見積もることが可能であれば
(減額に法的に理由があると判断ができれば)、
必ずしも契約の金額どおりに
というわけではないのでしょうが、

>その主張には何らの合理的な根拠もありませんでした。
>家賃金額について係争中ですがまだ裁判にはなっていません。

ということですと、契約金額となるでしょうし、
先方の供託等もないのではないかと推測します。

2 ご質問②〜税理士の責任について

>経理処理を訂正するように伝えても受け入れず、もし税務署と争いになれば弁護士を立てて
>争う、と言ってます。私の考えはメールで伝えており内容も社長は了承しています。このよ
>うな状況でも税務的な問題が生じた場合は私に何らかの責任はありえるのでしょうか?

(1)民事的な責任

過少申告事案では、依頼者が税理士さんへの損害
賠償を請求した場合に「損害」となり得るのは、
延滞税や加算税部分になります。

このようなケースでも、延滞税や加算税の説明
義務違反により税理士の責任を認めた裁判例も
存在します。

ですので、
そのような申告をし、後に調査指摘を受け、
修正申告や更正、賦課決定をされた場合に
生じうる延滞税や加算税についての説明
をした証拠を残しておいていただければ
良いと思います。具体的には、メールで
説明した旨が残る形にしておいてください。

(2)税理士法の問題

あくまでも税理士法上は、
依頼者の要望があったとしても、
不真正な税務書類の作成(税理士法45条)
として、懲戒事由になりえます。

ただ、先生のように積極的に止めるように
アドバイスしているというケースですと
実際には懲戒をされる可能性は、相当低いかとは思います。

このあたりは、
各々税理士先生の考え方や現実論との
兼ね合いかと思いますが、

税理士法からすると、
そのような要望があり、税理士から
適正に申告するようにどれだけ言っても、
適切な税務書類の作成が行えない(納得しない)
という依頼者の場合には、
解約するしかないということになります。

よろしくお願い申し上げます。