労働法

労働審判手続きについて

永吉先生

いつもお世話になっております。

労働審判について教えて頂ければと思います。

A社が従業員Bから労働審判の申立をされました。

パワハラ、セクハラ、これらに伴う遺失利益、
退職強要に基づく解雇予告手当の請求をされております。

1.従業員自らが一身上の都合で退職届を自宅で作成し、
郵送してきた場合でも経営者が退職を強要したと受け取られるのでしょうか。
2.①従業員が仕事についていけないから退職させてほしい。
②従業員がやっぱり頑張りたいから雇用を継続してほしい。
③経営者は、これまでの従業員の非礼などがあるから考えさせてほしい。
という話の流れがあります。(証拠あり)
このような場合でも解雇を強制したと受け取られるのでしょうか。
3.従業員が「パワハラ」や「セクハラ」があってと主張している点について、
そのとき同席していた複数の社員はなかったと言っています。
このような他の従業員の主張は労働審判に影響しますか。

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

退職を強要したかどうか、セクハラ、パワハラ
があったか否かの裁判所の認定は、
個別具体的な有利な事情、不利な事情の総合判断に
よりますので、形式的にこういった事実があれば
大丈夫ですといえるものではなく、
有利・不利な事情をどのように裁判官に
書面含めて、うまく伝えることができるか、
証拠との兼ね合いはどうか等に関わってきます。

いただいた事情を見る限りでは、
会社が有利なのかなとは思いましたが、
背景事情などを個別にヒアリングして
いませんので、なんともいえないところです。

また、
>パワハラ、セクハラ、これらに伴う遺失利益、
>退職強要に基づく解雇予告手当の請求をされております。
ということですが、Bがどのような法的整理による
請求を立てているかが不明な点があります。

以下ではいただたい事実に関するご質問について、
回答します。

お客様に
個別のヒアリングに基づくアドバイスの
ご希望があれば、会員様またはその
紹介の方の無料相談をご利用ください。

1 ご質問①〜退職強要について

> 1.従業員自らが一身上の都合で退職届を自宅で作成し、
>  郵送してきた場合でも経営者が退職を強要したと受け取られるのでしょうか。

こちらの事情は、経営者がその場で無理やり書かせたわけでは
ないという意味(従業員が誰にも影響されない場所で書いたという意味)
では、強要していないことに傾く(有利な)事情かと思います。

ただ、この1点のみで、強要がなかったといえるわけではなく
会社で強要されて、やむなく家で書いて提出したという
認定も、ありえますので、他の事情(日付が時系列などの
兼ね合いも含む)やその他証拠から
この事実の意味を説得的に裁判官に伝えていくこととなるでしょう。

>2.①従業員が仕事についていけないから退職させてほしい。
>②従業員がやっぱり頑張りたいから雇用を継続してほしい。
>③経営者は、これまでの従業員の非礼などがあるから考えさせてほしい。
>という話の流れがあります。(証拠あり)
>このような場合でも解雇を強制したと受け取られるのでしょうか。

①の退職させて欲しい旨の意思表示があり、
経営者が退職する旨に同意したということが
明確であれば有利な事情になるでしょう。
(その経営者が了承した時点で退職合意ありと主張
することとなるかと思います。)

>②従業員がやっぱり頑張りたいから雇用を継続してほしい。
>③経営者は、これまでの従業員の非礼などがあるから考えさせてほしい。

ただ、②〜③の流れで①の後の経営者が了承していた
という流れ自体は弱くなりますので、このあたりの時系列
をうまく(不利にならないような)説明を工夫して、裁判官に
伝えていく必要があります。

上記のとおり、
いただいた形式的な事情のみからでは、
なんとも言い難いところがありますが、

審判となれば、このあたりは、従業員の従来の
仕事への態度や退職届を作成した時点での状況
など、ある程度広範囲にわたって、どちらがいっている
ことが正しいのかを判断されますので、
証拠関係との兼ね合いも踏まえた上で、説得的な主張をし、
裁判官の心証を得ていくことかと思います。

2 ご質問②〜パワハラやセクハラについて

>3.従業員が「パワハラ」や「セクハラ」があってと主張している点について、
>そのとき同席していた複数の社員はなかったと言っています。
>このような他の従業員の主張は労働審判に影響しますか。

相手方から具体的に時間や場所を特定したうえで、
「パワハラ」や「セクハラ」の主張がされているの
であれば、
その時、その場所にいた他の従業員の証言というのは
証拠とはなるでしょう。

ただし、従業員は現在も会社に雇用されている
立場にあるので、会社側に有利なことを
いっているのではないか!?という推認もあります。

これらの証言も使い方ですが、
陳述書などを作成し提出することとなるでしょう。

証言というのは裁判所レベルになると
他の客観的な証拠との兼ね合いなどでは
大きな意味をもつこともありますし、

ただ言っているだけでは認定しにくい
ものという側面もあるので、あくまでも
1つの証拠です。これらの証拠を説得的・
効果的に利用できるように主張や提出証拠を
工夫して、裁判官に伝えてください。

よろしくお願い申し上げます。

永吉先生

いつもお世話になっております。
先日はご回答頂き有難うございました。

追加で労働審判について、下記の点について教えて頂ければと思います。

労働者と使用者で行われた最後の会話の録音データ(反訳)が裁判所から送られてきま
した。
労働者は使用者に内緒で録音していたのですが、使用者も内緒で録音をしており会話の
以下の冒頭が切り取られていた事実が分かりました。

「私たちはお客さんからお金をもらって仕事をしている以上、きちんと仕事をしないと
いけないから、あなたに歩み寄るのは難しい」

この発言が出た理由は、この日以前に従業員から「仕事中のタメ口など上司に対するラ
フな対応を受け入れるよう歩みよってほしい」という話があったためです。

1.冒頭以外の会話はおおむね反訳に書かれていますが、申立人の弁護士はなぜこの部
分だけ切り取ったと推測できますか。
2、会話が長い場合を除き、反訳の一部を意図的に切り取ることはよくあるのでしょう
か。
3.反訳を意図的に切り取ったことが明らかになった場合、審理に影響するものでしょ
うか。
4.パワハラやセクハラがあったと申立人は主張していますが、録音データなどの証拠
もなく既に退職している従業員も含めてなかった証言をしてくれる予定ですが、
それでもパワハラやセクハラはあったと認定されるものなのでしょうか。(パワハラや
セクハラは客観的な証拠がなくても認定されやすい印象があるので)
5.申立人は失業保険を受給するにあたっては自己都合退職に異議をとなえていないの
ですが、この点は会社側が解雇や退職勧奨を否定する材料になりますか。

ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

以下、順に回答させていただきます。

1 ご質問①

> 1.冒頭以外の会話はおおむね反訳に書かれていますが、申立人の弁護士はな
> ぜこの部
> 分だけ切り取ったと推測できますか。

弁護士が切り取った場合の他にも、
相手方労働者で切り取ったものを渡した場合も考えられます。
また、録音がその部分から始まっているという可能性もあります。

録音反訳の一部の提出がないということだけでは、
想定されることも多く、正直、何とも推測しかねます。

2 ご質問②

> 2、会話が長い場合を除き、反訳の一部を意図的に切り取ることはよくあるの
> でしょうか。

当該事件に関係ない部分が含まれていれば、
それを反訳しない場合などはあります。

また、一般的に、裁判では、自己に有利な証拠のみを
提出する(不利なものは提出しない)というのは
よくあることです。

反訳の一部で不都合なところを切り取ることも、
さほど珍しいことではないと思いますが、

次のご質問③で回答するように悪印象を持たれる可能性もあるため、
弁護士としては、そのようなことも考慮した上で、
どの部分までを出すかは決めることになります。

3 ご質問③

> 3.反訳を意図的に切り取ったことが明らかになった場合、審理に影響するも
> のでしょうか。

不都合な部分を意図的に切り取って証拠とした場合に、
相手方からも同一の録音反訳およびデータを提出されるなどした場合には、
裁判所に悪印象を持たれることはあり得ます。

もっとも、あくまで印象の話であって、
「反訳を意図的に切り取ったこと」自体が、
審理に大きく影響するようなことはないと思います。

重要なのは、切り取られた部分がその裁判の中で、
どのような意味を持つかです。
(相手の主張と真っ向から矛盾するやりとりをしており、
相手の主張を否定するような証拠となるなど)

したがって、相手が意図的に切り取ったのか?
なぜ切り取ったのか?ということよりは、

切り取られた部分が、当方の主張を肯定する材料
(相手の主張を否定する材料)として有用なのかどうか
という観点からご検討いただければよいでしょう。

4 ご質問④

> 4.パワハラやセクハラがあったと申立人は主張していますが、録音データな
> どの証拠
> もなく既に退職している従業員も含めてなかった証言をしてくれる予定ですが、
> それでもパワハラやセクハラはあったと認定されるものなのでしょうか。(パワ
> ハラや
> セクハラは客観的な証拠がなくても認定されやすい印象があるので)

証拠として、録音データや他者の証言もないということであれば、
パワハラやセクハラがあったことを証明する証拠は、
おそらく本人の供述ということになるのでしょう。
(本人の供述しかないとなると、一般的には、
証拠としては弱いです)

そのため、事実認定にあたっては、
本人の供述が信用できるかの検討がメインになることが多いです。

このとき使用者側でするべきことは、
本人の供述が信用できないことを主張立証することです。

> 既に退職している従業員も含めてなかった証言をしてくれる予定

といったような従業員の供述がその一つの手段ではありますが、
先日回答いたしましたように、あくまでも一つの証拠です。

相手方の供述があるからといって、直ちに負けるわけでも、
こちら側の供述が複数あるからといって、直ちに勝てるわけでもありません。

これらの証拠を説得的・効果的に利用できるように主張や提出証拠を
工夫して、裁判官に伝えてください。

なお、裁判における事実認定は、証拠に基づき行いますので、
パワハラ、セクハラだからといって、一般的に
証明のハードルが下がるというようなことはありません。

5 ご質問⑤

> 5.申立人は失業保険を受給するにあたっては自己都合退職に異議をとなえて
> いないの
> ですが、この点は会社側が解雇や退職勧奨を否定する材料になりますか。

相手方労働者が、現在の主張と矛盾する行動をとったものとして、
一つの証拠になると考えられます。

ただし、伺っている事情からすれば、
パワハラがあったので、交付された離職票の内容に対して
異議を唱えられなかったなどと、
主張してくる可能性はあると思います。

よろしくお願い申し上げます。