いつもお世話になっております。
●●です。
下記の件についてご相談させてください。
(前提)
弊社の顧客のA(70代・女性)は夫に先立たれ、
相続人として長女のB、次女のCがいます。
Bは従前より家族と折り合いが悪く、
Aとしては全財産をCに相続させたいと考えています。
そこでこの度、AはCに不動産を含む全財産を相続させ、
遺言執行人もCにする旨の公正証書遺言を作成することとしました。
遺言の内容は下記の予定です。
遺留分のリスクはAもCも承知しています。
(公正証書遺言)
令和元年第〇号 遺言公正証書 本
本職は,令和元年12月25日,遺言者Aの嘱託により,証人〇〇及び証人〇〇の立
会のもとに次のとおり,遺言者の口述を筆記して,この証書を作成する。
遺言の本旨
第1条 遺言者は,遺言者の有する一切の財産を,遺言者の二女C(昭和〇年〇月〇
日生)に相続させる。上記Cは,相続の負担として,遺言者の一切の債務を承継し,
これを弁済しなければならない。
第2条 (遺言執行者) 1 遺言者は,本遺言の遺言執行者として,上記Cを指定す
る。
2 遺言執行者は,遺言者の不動産,預貯金,有価証券その他の債権等遺言者名義の
遺産のすべてについて,遺言執行者の名において,名義変更,解約等の手続をし,ま
た貸金庫を開披し,その内容物の収受等を行う等,本遺言を執行するために必要な一
切の権限を有する。 以上
(本旨外要件)
住所 ○○ 遺言者 A 昭和〇〇年〇月〇日生
上記の者は,印鑑登録証明書の提出により,人違いでないことを証明させた。
(民法改正について)
・平成30年7月6日に成立した「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(平
成30年法律第72号)によって、
相続させる旨の遺言により承継された財産について、
登記等対抗要件なくして第三者に対抗することができるとされていた改正前民法の規
律が見直され、
法定相続分を超える部分の承継については、
対抗要件を具備しないと第三者に対抗できないことになったと、理解しております。
・この場合Aの死後すぐに、BがAの相続財産である不動産について、
法定相続分にて共有名義の登記を行い、Bから第三者Dに対して自己の持分を売却した
場合、
CはDよりも先に当該不動産について対抗要件を具備(登記)しないと、
自己の法定相続分を超える部分について取得することができない、と考えておりま
す。
・また、預貯金などの債権は改正民法899条の2第2項により、
不動産のようにBは勝手に取得できないと理解しています。
(質問)
・民法改正について 上記の理解間違いないでしょうか。
・不動産や預貯金以外はどのような対抗要件が必要なのでしょうか。
・弊社からAへのアドバイスとしては、Bの上記のような行動を阻止するために、
Aの死後Cに直ちに公正証書遺言通りの登記をしてもらう、
以外には方法がないのでしょうか。
以上です。
よろしくお願いいたします。
1 ご質問①〜民法改正の理解について〜
>・民法改正について 上記の理解間違いないでしょうか。
>・この場合Aの死後すぐに、BがAの相続財産である不動産について、
>法定相続分にて共有名義の登記を行い、Bから第三者Dに対して自己の持分を売却した
>場合、CはDよりも先に当該不動産について対抗要件を具備(登記)しないと、
>自己の法定相続分を超える部分について取得することができない、と考えておりま
>す。
はい。
結論としては、ご理解のとおりで問題ございません。
改正前民法では、相続させる旨の遺言と解されるものは、
対抗要件なくして全ての持分につき第三者に対して対抗できる
とされていました。
しかし、改正後には、民法899条の2第1項に従い、
法定相続分を超える部分については、
対抗要件を備えなければ、第三者に対抗できないとされています。
>・また、預貯金などの債権は改正民法899条の2第2項により、
>不動産のようにBは勝手に取得できないと理解しています。
こちらについては、改正民法899条の2第2項により、
勝手に取得できないわけではなく、
そもそも、預貯金債権は、遺言がない状態であっても、
準共有となる(最判平成28年12月19日)ので、
勝手に取得できません。
ただし、例えば、Bの債権者などが預貯金債権の持分を差押える等
第三者(D)が介入した場合には、その第三者との関係では、
対抗要件を具備していないと、Cはその第三者(D)に
対抗(自分のものであると主張)できないことになります。
そして、債権の第三者への対抗要件は、
債務者への確定日付ある通知によります(民法467条2項)。
改正民法899条の2第2項は、
従来の対抗要件具備に
共同相続人全員の通知が必要であった点を変更して、
債権を承継した相続人(C)が単独で通知することで
対抗要件を具備できるようにした規定です。
2 ご質問②〜その他の財産の対抗要件~
>不動産や預貯金以外はどのような対抗要件が必要なのでしょうか。
以下、代表的なものをあげます。
◯預貯金以外の債権
→第三者への対抗要件は、上記と同一です。
◯自動車
→登録の名義変更手続(道路運送車両法12条)。
◯株式
→株主名簿の名義書換え(会社法130条1項)
(株券発行会社の場合には、株券を保持していれば、
第三者へは主張できますが、会社へは名義書換え
請求が必要です(会社法130条2項))
◯その他、動産
「引渡し」が第三者への対抗要件となります。
なお、
「引渡し」の方法としては、
①現実の引渡し(現実に動産を引渡して交付する方法:民法182条1項)のみではなく
②簡易の引渡し(従前占有していた者に意思表示だけで占有を移転するという方法:民法182条2項)
③占有改定(代理人が占有している物を以後本人のために占有する旨の意思表示により本人に占有を移転するという方法:民法183条)
④指図による占有移転(代理人が占有している場合、本人が代理人に対し以後第三者のため
に占有することを命じ、第三者が承諾することにより第三者に占有が移転するという方法:民法184条)
があります。
3 ご質問③〜アドバイス〜
>弊社からAへのアドバイスとしては、Bの上記のような行動を阻止するために、
>Aの死後Cに直ちに公正証書遺言通りの登記をしてもらう、
>以外には方法がないのでしょうか。
そうですね。基本的にはそのようなアドバイスに
なりますが、
Bが自己の法定相続分相当の財産を勝手に処分する
可能性が高いケースですと、
登記をはじめとする対抗要件の具備を、
できる限り早期に行うために、
遺言執行者として、Cではなく、
司法書士さんや弁護士などの専門家を選任しておく
というアドバイスもあるかと思います。
(ただ、遺言執行者の報酬がかかるので、そことの
兼ね合いになるかと思います。)
よろしくお願い申し上げます。