民法 その他

地位譲渡契約と契約の更改の違い

永吉先生

お世話になります。●●です。

件名につき教えてください。

以下では、地位譲渡契約を契約の更改であるとして、
印紙税の課税関係が解説されています。

〈Q&A〉印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第16回】「継続的取引の基本となる契約書②(契約上の地位を譲渡する場合)」

一方で、以下では地位譲渡契約(契約上の地位の移転)について、
「契約上の地位全体の移転は、更改と混同されてはならない。更改が、元の契約関係
を消滅させ、異なる目的物または異なる人 source を伴う新しい契約を構成するもので
あるのに対して、契約上の地位全体の移転においては、法律関係は同一性を維持する。
契約上の拘束は同じであるが、それが最初の当事者から新たに加わる第三者に移行す
るのである。」と解説しています。

両者は同一でしょうか、違うのでしょうか。
民法上の位置づけを教えていただければと思います。

よろしくお願いいたします。

●●先生

ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>地位譲渡契約を契約の更改であるとして、
>印紙税の課税関係が解説されています。
>https://profession-net.com/professionjournal/stamp-article-17/
>一方で、以下では地位譲渡契約(契約上の地位の移転)について、
>「契約上の地位全体の移転は、更改と混同されてはならない。更改が、元の契約関係
>を消滅させ、異なる目的物または異なる人 source を伴う新しい契約を構成するもので
>あるのに対して、契約上の地位全体の移転においては、法律関係は同一性を維持する。
>契約上の拘束は同じであるが、それが最初の当事者から新たに加わる第三者に移行す
>るのである。」と解説しています。

>両者は同一でしょうか、違うのでしょうか。
>民法上の位置づけを教えていただければと思います。

2 回答

上記URLでは、
売買取引基本契約についての地位を承継
することについて解説されています。
(ログインが必要なので、URL先の詳細が見れない方が
いるかと思いますので確認です。)

印紙税の課否判断の結論自体には、
影響はないかと思いますが、
厳密に民法上の「更改」にあたるのかという
とややミスリードなのではないかとは思います。
ただ、著名な「例解印紙税」でも同様の解説がなされています。

そもそも、民法上の「更改」は、
債権譲渡や債務引受が認められていなかった
ローマ法において重要とされた概念の
輸入品であって、今日では、
更改の意思が特に明確でない限り更改でない
と解すべきであるとされています(大判昭和7年10月29日)。
(代物弁済、債権譲渡、債務引受、契約上の地位
の移転的な性格であれば、そちらとして解すべきものという意味です。)

ただし、通常の契約上の地位の移転、
例えば、個別の売買契約の地位の移転等であれば、
債権譲渡・債務引受の集合体と説明され、
15号文書にあたると考えるのが一般的かと思います。

個別の売買契約の場合には、
・売主から買主に対しては、売買代金請求権
・買主から売主に対しては、目的物引渡請求権
が主に発生しますが、それらも含んだ契約上の地位
の集合体として、移転させるものというような意味合いです。

ただ、上記URLの解説は、
個別に債権・債務を生じさせる売買契約書ではなく、
売買取引「基本」契約書です。

個別の売買のルールを定めるものですが、

具体的な売買による債権・債務
・売主から買主に対しては、売買代金請求権
・買主から売主に対しては、目的物引渡請求権
などが移転するわけではありません。

地位承継という言葉が使われてはいますが、
基本契約書の契約者の変更(旧契約者との契約の終了と
終了した契約内容と同一の新たな契約関係を生じさせるもの)
に過ぎないと評価し、7号文書と考える方が素直な気がします。

このあたりは、更改と表現するとわかりやすいですし、
便宜的にこのような解説をしているのであって、
民法上の契約上の地位移転と更改の違いを厳密に
捉えた前提で、解説しているわけではないのではないでしょうか。

よろしくお願い申し上げます。

永吉先生

お手数ですがもう一つ教えて下さい。

基本契約については、地位譲渡が成立しない、
という理解でよろしいでしょうか。

それとも、基本契約の地位譲渡は存在するのでしょうか?

●●先生

追加でのご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>基本契約については、地位譲渡が成立しない、
>という理解でよろしいでしょうか。
>それとも、基本契約の地位譲渡は存在するのでしょうか?

そういう意味合いではなく、
なんと説明したら良いのかが難しいのですが、

ご指定いただい印紙税に対して解説するURLの記載から、
民事上の「契約上の地位の移転」の概念に
対する推察をすることはできないという意味です。
(または、しても意味がない)

2 回答

前回の解説は、
15号文書か7号文書に該当するのか
という印紙税課税判断の解説が、

売買基本契約が7号文書にあたる
としているご指摘のURLの「更改」
という解説が必ずしも民法上の更改
ではないのではないかというところです。

説明の便宜として、「更改」という
言葉を利用しているだけでしょうという
意味です。

つまり、他人が書いた文章ですので、
何とも言えませんが、

契約上の地位の移転と見るのか
新たな契約の締結と見るのか
更改と見るのかを厳密に区別するところに意味が
あるわけではなく、
いずれであったとしても、
7号文書にあたるとの考えの上での解説なのでは
ないかということです。

(個別・具体的な債権・債務関係における
請求権を発生させるものではない基本契約は、
個別契約の契約上の地位の移転が15号文書
となるものとは異なり、7号文書となる
という説明を便宜上、
「更改」という言葉で説明しているだけでは
ないですか?という趣旨です。)

民事上の話をすると、
基本契約の地位の譲渡と表現されることは
あると思います。それが明確に誤りなのかどうかは
解説の前提の事例などによるかと思います。

「従前の契約と同一内容で、
新たな権利義務の発生し、従前の契約を終了させる」契約
と表現するのか、
それとも「地位の譲渡」と表現するのかは、
例えば、書籍であれば本を書く人により違うと思います。
(説明の便宜で、読者が理解しやすいような表現で書くでしょう。)

結局のところ、法律上のこれらの概念は、
具体的な義務の内容等に違いがでるケースである
からこそ、どちらに該当するのかを議論する
実益が生じます。

基本契約の場合には、どちらで捉えても
民事上の意味に違いがないケースが多い(個別契約でいう
ところの義務の承継や発生を伴うものではない)
とは思いますので、
無駄に地位の移転という概念を増やす意味はないという
ことであれば、おっしゃるとおり存在しないと
考えても良いかと思いますが、

個別的な経緯や具体的な条項等から判断する
しかないかと思います(ないことを証明することはできないです。)。

よろしくお願い申し上げます。