お世話になっております。●●です。
夫X、妻Y、夫婦間に子供なし、X、Yともに直系尊属なし
またX,Yともに兄弟あり。兄弟に子あり。
この状況でXは次の公正証書遺言書を残す。
私、X(昭和*年*月*日生)は、私の全財産を私の妻である
Y(昭和*年*月*日生)に相続させる。
令和*年*月*日 住所 氏名X
遺言書作成の主目的は妻Yが夫Xの相続発生後に夫の兄弟(甥姪)と一切連絡を
とることなく、すべての相続財産の権利義務の承継手続きを可能ならしめるため
です。
質問
1.Xに相続が発生した場合
Yはこの遺言書によりXの兄弟と何ら連絡を取ることなく
相続した全財産につき、下記の行為ができますか。
・不動産の所有権移転登記
・預貯金の名義変更
・金融機関借入金の債務名義変更
・その他一切の権利・義務の承継手続き
2.遺言の文言について
「全財産」と記述した場合、相続発生時のXの一切の資産負債、権利義務を表現していますか。
それとも、遺言書作成時の財産(不動産、預貯金、借入金他)の明細を各々記述し、
最終行で「その他一切の資産、負債」と記述すべきですか。
3.公正証書遺言書の作成方法
公正証書遺言書を作成する場合はどのような方法がありますか。
・Xが公証人役場へ出向き相談する。
・司法書士に相談する
・弁護士に相談する。
4.夫Xの相続発生後に妻YがXの兄弟と一切の連絡を取ることく
上記2の行為を行うために、Xは生前に何をしておけば十分でしょうか。
5.遺言書の書換
公正証書遺言書の作成後、XがYには秘密に新たな公正証書遺言書を作成した場合、
前公正証書遺言書の内容はすべて無効となりますか。
6.自宅の名義
妻Yは、夫X名義の自宅である土地・建物に居住しているが、相続後の所有権につき
夫Xの兄弟(甥姪)と争いとなることを心配している。
この心配を解消し平穏な日々を過ごすには、夫X、妻Yの生前にXからYへ贈与、又は
YがXから適正価格にて購入し、各種税負担を負うてでも所有権移転登記しておくこと
が唯一の解決策でしょうか。
以上、ご教示の程お願い致します。
ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①について
>Yはこの遺言書によりXの兄弟と何ら連絡を取ることなく
>相続した全財産につき、下記の行為ができますか。
>・不動産の所有権移転登記
>・預貯金の名義変更
>・金融機関借入金の債務名義変更
>・その他一切の権利・義務の承継手続き
まず、前提として、相続人が
配偶者および兄弟姉妹である場合、
兄弟姉妹には、遺留分がありませんので(民法1042条1項)、
上記の遺言によって、配偶者のみに遺産を残すことは可能です。
そして、相続させる旨の遺言は、
その後、何らの行為を要せずして、
当然に財産が承継されます(最判平成3年4月19日)
ので、不動産の所有権移転登記などの
プラスの財産の承継に関する手続きは、
法律上可能です。
ただ、法律上は、預貯金の解約・引き出し等についても、
上記不動産の所有権移転登記と同様に配偶者のみで
行えなければおかしいのですが、金融機関によっては、
他の法定相続人(兄弟)の同意書を求めてくる
ところもあります。このようになると、
何かしら連絡を取らなければならなくなることが
ありえます。
下記の「3 ご質問③」の方法で遺言執行者を選定しておく
というのも1つの方法でしょう。
>・金融機関借入金の債務名義変更
一方で、夫Xの相続債務ですが、
ご指定の遺言がなされた場合、
相続人間(妻、兄弟)では、
妻が相続債務を負担することになります
(最判平成21年3月24日)が、
これはあくまでも相続人内部の問題であり、
債権者(金融機関)は、法定相続分に応じて
兄弟を含む各相続人に請求することができます。
金融機関が、妻のみが債務を負担することを
承諾してくれればそれで良いのですが、
そうでない場合には、金融機関が、兄弟に
請求する等の通知をして、兄弟から妻Yに
連絡が入ること自体は考えられます。
仮に、兄弟が金融機関に支払った場合には、
その金額について、兄弟から妻Yにその金額を
請求することができるということになります。
2 ご質問②
>2.遺言の文言について
>「全財産」と記述した場合、相続発生時のXの一切の資産負債、権利義務を表現しています
>か。
>それとも、遺言書作成時の財産(不動産、預貯金、借入金他)の明細を各々記述し、
>最終行で「その他一切の資産、負債」と記述すべきですか。
「全財産」を「相続させる」との記述であれば、
他に特記をしない限り、相続発生時のすべての
積極財産及び消極財産を承継させるものであると解釈されます。
(最判平成21年3月24日)
なお、全財産を相続させたい場合に、
・各財産の明細を記載する場合
・遺言者の有する「全財産」「一切の財産」などと包括的に記載する場合
のいずれもありますが、
法的な効果に違いはありません。
各財産の明細を記載しておけば、
遺言書を見た人に財産の明細を知らせ、
もれなく財産を把握してもらえる
という副次的な効果はありますので、
このようなことを想定されるのであれば、
明細を書いておいてもよいかと思います。
3 ご質問③
>公正証書遺言書を作成する場合はどのような方法がありますか。
>・Xが公証人役場へ出向き相談する。
>・司法書士に相談する
>・弁護士に相談する。
いずれの方法でも構わないと思いますが、
法的に正確にということであれば、
司法書士や弁護士に依頼の上行っても良いかと
は思います。
また、今回のケースですと、
遺言執行者を選定し、執行者に
預貯金の解約・引出等などの
手続きができる権限を与えておけば、
少なくとも、執行者が他の相続人とも
連絡をとる形で、妻が連絡しなくても済む状況を作れるかとは思います。
その遺言執行者に司法書士や弁護士に選定する
ことも検討されて良いかと思います。
(一般的に銀行等より安いです。)
なお、通常、単純な遺言であれば、
妻が遺言執行者となる方が費用もかからないのですが、
遺言執行者となると兄弟である相続人に通知等しなくては
ならないので、連絡を取りたくないという趣旨には
合わないかと思います。
4 ご質問④
>4.夫Xの相続発生後に妻YがXの兄弟と一切の連絡を取ることく
>上記2の行為を行うために、Xは生前に何をしておけば十分でしょうか。
上記のように、少なくとも債務については、
金融機関との関係では、法定相続分で相続されるため
あらかじめ債務を妻Yに移しておくという
方法もなくはないですが、それが可能なのか
(金融機関が同意するか)本当にそれで目的が
達成できるのかについては、
金額や依頼者様のご意向によるところかとは
思います。
5 ご質問⑤
> 5.遺言書の書換
> 公正証書遺言書の作成後、XがYには秘密に新たな公正証書遺言書を作成した
> 場合、
> 前公正証書遺言書の内容はすべて無効となりますか。
すべて無効となるのかは、
Xが新たに作成した公正証書遺言書の内容によります。
この遺言と矛盾する範囲で、前の遺言は撤回された
ものとされます(民法1023条)。
6 ご質問⑥
>6.自宅の名義
>妻Yは、夫X名義の自宅である土地・建物に居住しているが、相続後の所有権につき
>夫Xの兄弟(甥姪)と争いとなることを心配している。
>この心配を解消し平穏な日々を過ごすには、夫X、妻Yの生前にXからYへ贈与、又は
>YがXから適正価格にて購入し、各種税負担を負うてでも所有権移転登記しておくこと
>が唯一の解決策でしょうか。
兄弟姉妹は遺留分がないので、
ご指定の内容の有効な遺言があれば、
法的には何も主張することができません。
もちろん、「5」の遺言の書き換えリスクや
Xに意思能力(遺言能力)がなく、
遺言が無効であるなどと争われる可能性
自体はあります。
遺言の書き換えリスク自体は、信託等を活用
することで極端に低くすることは可能です。
(意思能力の問題は贈与であっても売買で
あっても同様です。)
また、法的に認められる主張ではないとしても、
争うこと自体や言いがかりをつけること自体は、
兄弟がしてくる可能性をゼロにすることは
できません(人間として思ったことを言う自由があるので)。
なお、生前贈与や売買をするにしても、
遺言がなければ、その他のXの残置財産について、
遺産分割をしなければ処分できない状態に
なるので、一切連絡を取りたくないという
妻の要望は満たされないとは思いますので、
その他の財産についての帰属を確定させる遺言書は
必要です。
最終的にどのような方策をとるのかは、
依頼者様の意向の強さやそのスキームを
維持するコスト、現実的に遺言が書き換えられる
リスク(夫と兄弟との関係性)などを
総合勘案してよりベターな方法を選択していく
こととなります。
今回のようなケースですと、
事業承継などの案件ではない前提
とすると、「遺言+遺言執行者の指定」
という形が一般的ではあるかなという
ところです。
遺言者さまにご希望があれば、
会員さまのご紹介になりますので、
面談の相談についても無料で対応可能です。
その際は、個別にご連絡ください。
よろしくお願い申し上げます。