お世話になっております。
関与先よりM&Aにおいて役員退職金をいくらにすればよいか
との相談を受けました。
関与先は売り手側であり、最終月額報酬は30万円(数カ月前に増額しそれ以前は0
円)
勤続年数は7年です。
当該法人の株式は設立当初よりA社が100%保有しており
A社の株式は当該社長が100%保有しています。
当該法人の役員は社長1名です。
売上規模は2億~2億5千万円、剰余金も2千5百万円程あります。
関与先としては、できるだけ個人で金銭を受け取りたいと考えており
役員退職金を最大限取得したい意向です。
また、M&Aを斡旋している銀行員が他の税理士にヒヤリングし、
仮月額報酬を100万円として、2,000万円程度であれば問題ないとのアドバイスもして
いるようです。
類似業業種の1年あたりの退職金支給額×在任期間の算出方法もあるかと思います
が、
類似業種の退職金支給額の資料等参考にできるものがあればお教えください。
その他、限度額算定根拠となる方法がその他あればお教えください。
また、M&A後、否認された場合の税務リスクは売り手、買い手どちらが負担するが一
般的なのでしょうか。
よろしくお願い致します。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①~類似業種の退職金支給額の資料等参考~
>類似業業種の1年あたりの退職金支給額×在任期間の算出方法もあるかと思います
>が、
>類似業種の退職金支給額の資料等参考にできるものがあればお教えください。
>その他、限度額算定根拠となる方法がその他あればお教えください。
こちらは、過大役員退職金の実質基準による個別判断になるので、
個別事案から論理武装をしておくこととなるかと
思いますが、
「類似業業種の1年あたりの退職金支給額?」というのは
統計として調査することは難しいのではないかと思います。
類似業業種の役員報酬を
「最終月額報酬」相当額として計算するための
調査としては以下が参考にはなるかなとは思います。
(あくまでも、国税と同じレベルでは不可能ですが、
理論武装の1つとしての位置づけです。)
残波事件の地裁(東京地裁平成28年4月22日)で、
国税が述べた主張(この主張自体どうなのかとは思いますが)として、
「財務省や国税庁がホームページ上で公表している「法人企業統計年報特集」,
「民間給与実態統計調査」や税務関係の雑誌である「週刊税務通信」の掲載記事や,
税務関係の書籍にも参考となる資料が数多く掲載されているし,東京商工リサーチの
TSRレポートのサンプルには,役員数や役員報酬の金額が記載されているのであって,
これらの資料から,類似法人の一人当たりの平均役員給与額を算定することも可能である」
例:「法人企業統計年報特集」
https://www.mof.go.jp/pri/publication/zaikin_geppo/hyou07.htm
これらから、同規模程度の類似業種の
月額の平均役員報酬を算出し、その金額を「最終月額報酬」相当額
として、論理武装するというのはあるかとは思います。
ただ、本件では、完全親会社であるA社の社長を兼ねている
ということがあるので、このA社の価値向上のため、その子会社
株式の価値を上げることも、A社からの役員報酬に含まれていた
という点も考慮する必要はあるかもしれません。
結局のところ、
◯職務の内容
◯法人収益状況
◯使用人に対する給料ないし給与の支払の状況
◯同種の事業を営む法人やその事業規模が類似するものの役員に対する報酬
ないし給与の支給の状況
から、できる限り論理武装するということになります。
2 ご質問②~税務リスクの負担者~
>M&A後、否認された場合の税務リスクは売り手、買い手どちらが負担するが一
>般的なのでしょうか。
今回のような売り手の目的があるケースでは
どちらが一般的かというのはパワーバランスに
よるところです。
例えば、売り手サイドが、税務リスクも負ってくれない
なら売らないという前提で交渉しても、買い手サイドがその取引金額で、
欲しいと思うのか否かです。
特に役員退職金を支給するとするとMA前に
いずれにしろ先方と調整をしなければならない
でしょうから(B/Sに比較的大きな影響が当然でますので)、
その点も含めて、協議し、契約を定めるということになるでしょう。
当然、買い手側の弁護士であれば、
表明保証により、売り手に損害賠償ができる形としたり、
リスクを買い手側が負担する分、
売却金額が低額となるように交渉します。
変な言い方になりますが、結果として
否認されるかは別として、
MAだけの観点から言えば、買い手サイドからは、
値切れるネタになってしまうかなとは思います。
最終的には、
>関与先としては、できるだけ個人で金銭を受け取りたいと考えており
>役員退職金を最大限取得したい意向です。
この要望と買い手との交渉の兼ね合いで決める
しかないかとは思います。
よろしくお願い申し上げます。