いつも大変お世話になっております。
初歩的かつ素人的質問ですが、何卒よろしくお願い申し上げます。
【前提】
◎矯正歯科医 自身の経営する診療所の他、他の歯科医の経営する歯科医院でも矯正治療を行っている
◎矯正治療を始めるにあたっては、患者と『約定書』と『矯正治療を始められる方への料金表』といった簡単な文書のみがある
◎約定書に『いかなる場合においても返金を求めることはありません』と文言とともに患者の署名押印あり
◎治療費は原則矯正器具装着時に一括受領としているが、患者の要望により分割により受領する(実際は分割の方が多い)
【質問】
矯正を行い歯科医師の所属する団体(社団法人)では、矯正治療を行っている患者が『転医』『治療を中止』などした場合に
進行状態を基に矯正治療費の返金を示していますが、
この返金をしたくないと考える歯科医師がとるべき
①返金しないことの法的根拠
②上記①の患者への説明方法
をご教授下さい(もちろん法的に返金必要であれば、そちらをご教授ください)。
また、指針に反して返金しなかった場合、認定医を取り消されることも視野にいれると、その場合の
③とるべき対応方法
もご教授いただけますでしょうか 。
質問に抽象的な部分があり恐縮ですが、何卒宜しくお願い致します。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問①〜返金しないことの法的根拠~
あえて、全額返金しないことの根拠を
あげると、
>◎約定書に『いかなる場合においても返金を求めることはありません』と文言
>とともに患者の署名押印あり
ということで、
歯科医師と患者との間で、
契約関係が終了した場合には一括受領した治療費の全額を
歯科医師の報酬とする特約が結ばれていたことになります。
この特約の有効性ですが、
仮に裁判まで争うということになると、
患者は「消費者」という弱い
立場になりますので、消費者契約法が適用があり、
消費者の利益を一方的に害するものは、
無効となります(消費者契約法10条)
例えば、患者都合での解約による返金は認めない
ということであれば、サービス内容の性質から個別に
判断するところかと思いますが、
>『いかなる場合においても返金を求めることはありません』
ということですと、特約自体が無効とされる可能性が非常に
高いかと思います。
その場合には、矯正を行う歯科医師とその患者との間の契約は、
準委任契約契約となりますので、
転院や患者の判断による治療の中止といった
患者側の都合によって、契約関係が終了した場合には、
歯科医師が、矯正治療の進行の程度に応じて、
一括受領した治療費の一部を報酬として貰い受けることができる
民法の原則に戻ることとなります(民法656条、648条3項)。
また、
>矯正治療を始めるにあたっては、
>患者と『約定書』と『矯正治療を始められる方への料金表』といった簡単な文書のみがある
ということですと、説明義務違反などを主張される可能性も
あるでしょう。
このあたりは、弊社弁護士で歯科医さまをメインに
取り扱っている弁護士の記事もありますので、
以下もあわせてご参照ください。
https://legal-conference.com/patient/kyousei
2 ご質問②〜患者への説明方法について
それでも、全額返金をしないという前提に立つと、
患者に対しては、
『いかなる場合においても返金を求めることはありません』と
書かれている約定書を示しながら、上記特約があるため返金は
できないとを説明することになります。
ただ、上記のように特約の有効性に問題があるため、
無用な紛争をさけるとすると、
矯正治療の進捗の程度に応じて、返金する
というのも視野に入れて考えても良いとは思います。
3 ご質問③〜取るべき対応方法
>指針に反して返金しなかった場合、認定医を取り消されることも視野にいれると
>その場合の③とるべき対応方法
認定医の取消については、
最終的には、日本矯正歯科学会が判断する事項であるため、
可能性の話になります。
(実務上は1回の返金クレームで取消になることは
ないでしょう。)
もっとも、日本臨床矯正歯科医会のウェブサイト上
(https://www.jpao.jp/change)にて、
日本臨床矯正歯科医会の診療報酬精算目安が公開されています。
そのため、この基準に応じて、返金を行う場合には、
患者からの納得感も得られること、
業界団体の基準にしたがっていることから、
返金の問題に基づく認定取消しの可能性は著しく低くなるとは考えられます。
よろしくお願い申し上げます。