相続 遺産分割 税理士法

遺産分割協議書の作成と税理士法等

永吉先生

税理士の●●と申します。

税理士が作成する遺産分割協議書についてお教えください。

分割協議自体は本人たちの話し合いで決定しており、それぞれが取得す
る財産のリストをいただきました。

このリストに基づき、遺産分割協議書を私がWordで作成(清書と考えて
います)した場合、弁護士法違反等になりますでしょうか?

よろしくお願い致します。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問

>税理士が作成する遺産分割協議書についてお教えください。
>分割協議自体は本人たちの話し合いで決定しており、それぞれが取得す
>る財産のリストをいただきました。
>このリストに基づき、遺産分割協議書を私がWordで作成(清書と考えて
>います)した場合、弁護士法違反等になりますでしょうか?

2 回答

この領域について、業際の問題で、
各業界団体(弁護士会、行政書士会、税理士会等)
による見解の相違や各業法の建付の不明確さから、
種々議論があるところですが、

すべての建付等を説明すると論文に
なってしまいますので、実務上、
このような理解が一般的であろうという範囲で回答します。

(1)弁護士法について

こちらについては、弁護士会の見解はおくとして、

既に内容の決定している財産リストに
基づき遺産分割協議書を作成する行為自体で、
一般的に弁護士法違反とはされないでしょう。

ただ、裁判例レベルで見ると、
弁護士法72条の「法律事件」について、

◯「法律事件」を「法律上の権利義務に関し争いや疑義があり,又は,新たな権利義務関係の発生する案件をいうと解される。」
とするものと
◯「法律事件」を「訴訟事件等の具体的例示に準ずる程度の法律事件であることを要する」

とするものがあり、

前者からすると、遺産分割協議書の作成も、
新たな権利義務関係の発生する案件(「法律事件」)について、
「法律事務」(法律上の効果を発生,変更する事項の処理や,
保全,明確化する事項の処理をいうと解されている。)として、
遺産分割の内容を明確化する事項の処理にあたる
として、弁護士法違反とされる可能性は理論上はあります。

ただ、各裁判例も事案の悪質性などに応じて、
ある意味結果ありきで「法律事件」の解釈を
しているように見えるのが実際で、

>リストに基づき、遺産分割協議書を私がWordで作成(清書と考えています)

程度では、弁護士法違反を認定するかというとしないようには思います。

(2)行政書士法について

行政書士法では、
「その他権利義務又は事実証明に関する書類を作成」が
独占業務とされています(行政書士法第1条の2、第19条)。

遺産分割協議書が「その他権利義務〜に関する書類」に
該当するのは、明らかでしょう。

「作成」については、清書するだけは含まれないという
考えもあるかもしれませんが、法律の解釈としては、
かなり苦しいとは思います。

(3)税理士法で認められないのか?

相続税申告の添付書類として、遺産分割協議書
が必要な場合(配偶者の税額軽減等(相続税法施行規則1条の6))には、
税理士業務として税理士が遺産分割協議書を作成する
ことが、認められるというご見解もあるようです。

ただ、遺産分割協議については、あくまでも
当事者が行いそれを利用して、申告をする
ということになるでしょうから、この解釈も
なかなかちょっと苦しいのかなとは思います。

(4)まとめ

特に安全に業務を行いたいということですと、
税理士の先生は、行政書士の登録をすることが
できますので、この登録をしておくという
ことかと思います。

ただ、実務上、苦しいとは思いますが、
上記の税理士法で認められるという解釈もあるところですし、
あくまでも専門家である税理士の先生が、

>このリストに基づき、遺産分割協議書を私がWordで作成(清書と考えて
>います)した

という程度であれば、おすすめができるわけないですが、
実務上は問題とされることはないのかなと思います。

よろしくお願い申し上げます。