(前提)
・監査役甲が死亡し、会社から遺族に対して、功績倍率に基づく死亡退職金を
支給する予定です。
・その額は2500万円を予定していますが、税務上の適正額です。
・甲は配偶者も子もなく、相続人は母乙のみとなります。(父は既に死亡)
・死亡退職金の受給権者を定めている規定はありません。
(質問)
・この金員を、相続人である母乙をとびこえて、甲の兄弟である
社長丙に対して支給することについて、法律上、問題はありませんか。
・もし法律上、相続人が優先して取得すべき、ということであれば、社長丙が
取得することで、母乙から社長丙への贈与ということになってしまいます。
・母乙は、法律上及び税務上問題がなければ、会社の資金繰りのため、
ということで、同意される予定です。
すなわち、社長丙にこの金員を取得させて、社長丙が会社に貸して、
資金を安定させる、あるいは、社長丙が連帯保証をしている銀行借り入れを
返済することを望んでおられます。
よろしくお願いします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問〜法律上相続人以外に退職金を支給することは可能か?〜
>この金員を、相続人である母乙をとびこえて、甲の兄弟である
>社長丙に対して支給することについて、法律上、問題はありませんか。
死亡退職金については、
支給基準や受給権者に関する定めや株主総会での
支給承認の趣旨等により、相続財産か固有財産かを
決するとされています(東京地裁平成26年5月22日等)。
実務上は、基本的に支給基準や受給者の定めが法人に
設けられていれば、そのとおりと判断することには
なるでしょう。
ただ、
>・死亡退職金の受給権者を定めている規定はありません。
ということで、相続財産とされる可能性は
低いでしょう。
会社法上は、誰に支給するのかは株主総会で決定する
ことが可能ですので、社長丙に対して支給できます。
なお、このあたりは、認定評価の問題となるので、
相続財産等と主張された後の紛争に備えて
母乙も同意している旨の書面も作成しておいた方が無難でしょう。
2 蛇足
母乙の同意書のような書面を作成すると相続財産であった
のではないかと疑われ、贈与となるのではないか
という点は疑問が残ると思います。
民事上は、理論上はあり得るのですが、
相続税法から考えると、相続税法3条1項2号の定めで、
「相続人以外の者が」支給を受けた場合には、
遺贈により取得したものとみなすと明確に定め
られています(相続税法3条1項2号)。
ここからすると、遺贈とされたものを、
税務上の贈与税の対象となるとは考えにくいかと
思います。
これは、民事の裁判例上は、役員死亡退職金であっても、
相続財産となる場合があるとされていますが、
相続税法は、相続財産とはならずに
みなし相続財産となるという前提で作られて
いるため、このような民事と税務で少し
乖離が生じています。
もちろん、上記の書面は、当事者が持って
いれば良いものですので、税務署等には
見せない方が良いでしょう。
よろしくお願い申し上げます。