民法 所得税

倒産防止共済の契約者の地位はどのような権利なのでしょうか

永吉先生

いつもお世話になります。

●●の倒産防止共済の契約者の地位はどのような権利かについてお尋ねします。

倒産防止共済制度に加入していた個人事業者が法人成した場合、契約を引継ぐことができます。引継ぐときに解約返戻金相当額で個人から法人へ契約を譲渡する取扱いになります。このときに個人側の所得区分がどうなるかは税法の規定及びはっきりした取り扱いは定まっておりません。

(質問)
倒産防止共済の契約者の地位がどのような権利なのかで所得区分が導きだされるのではないかと思います。取引先が倒産してときに借入を受けることができること、積立金の範囲で借入を受けることができること、加入してから12か月以上経過した場合に解約返戻金を受け取ることができる、ことが主な権利と思います。
本来の目的は、取引先の倒産という共済事由に該当した場合に金融査定なしに所定の借入を受け連鎖倒産を防止するところにあり、金銭を請求する権利と考えてよいのでしょうか。
つまり、金銭債権なのでしょうか。

●●先生

ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。

1 ご質問①〜権利の性質と所得分類について

>倒産防止共済制度に加入していた個人事業者が法人成した場合、契約を引継ぐことができま
>す。引継ぐときに解約返戻金相当額で個人から法人へ契約を譲渡する取扱いになります。こ
>のときに個人側の所得区分がどうなるかは税法の規定及びはっきりした取り扱いは定まって
>おりません。

>倒産防止共済の契約者の地位がどのような権利なのかで所得区分が導きだされるのではない
>かと思います。取引先が倒産してときに借入を受けることができること、積立金の範囲で借
>入を受けることができること、加入してから12か月以上経過した場合に解約返戻金を受け取
>ることができる、ことが主な権利と思います。

おっしゃる通り、契約者の地位がどのような権利なのかで所得区分が
導かれるのですが、

はっきりした取り扱いが定まっていないというのは、
むしろ、この契約者の地位というものが、権利関係の総体であり、
下記の通り、純粋な金銭債権と評価できない
ところにあるかと思います。

2 ご質問②〜契約上の地位の性質

>本来の目的は、取引先の倒産という共済事由に該当した場合に金融査定なしに所定の借入を
>受け連鎖倒産を防止するところにあり、金銭を請求する権利と考えてよいのでしょうか。
>つまり、金銭債権なのでしょうか。

契約上の地位の概念は、その契約の総合体(債権的なものも債務的なものも含む)
であり、金銭債権ではありません。

金銭債権とは、債権者が債務者に対して、価値としての金銭の
給付を請求する権利です。

この契約上の地位がどういう権利・義務と考えるかは、
個別の契約によりますが、

権利的な側面を
倒産防止共済制度から整理すると、
以下のようなものになります。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
①取引先の倒産の場合に、中小機構に対して、金銭の貸付け行為を請求する権利
(中小企業倒産防止共済法9条)
②一時貸付金の貸付け行為を請求する権利
(中小企業倒産防止共済法10条の2)
③中小機構との契約を中途解約する権利
(中小企業倒産防止共済法7条)
④一定の条件のもと解約返戻金を請求する権利
(中小企業倒産防止共済法11条)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

①②は、金銭の給付を請求する権利ではなく、
あくまで貸付行為を請求できる権利です。

また、③については、契約者が中途解約をする権利であり、
金銭の給付を請求できる権利ではありません。

一方で、解約をすることを条件として、
加入者には、解約返戻金を請求する権利が生じる(④)ことになります。
(中小企業倒産防止共済法11条)。

つまり、解約をして初めて、純粋に解約返戻金を請求できる
金銭債権に転化することになります。
このため、契約期間中において、加入者は、
中小機構に対して、解約返戻金相当額の金銭を請求する権利を
有するとは言えません。

これらの権利(+保険料の支払義務等)の総体を
契約上の地位というように法的には表現されます。

なお、一般的にこの「契約上の地位」
の経済的価値がどのくらいあるのかという点については、

譲り受けさえすれば、自分の意思で自由に解約でき、
解約返戻金相当額を得られるのであるから、
経済的利益としては、譲受時の「解約返戻金相当額」で
評価するというのが一般的というところです。

少なくとも、

金銭債権の譲渡として、
(譲渡所得の)キャピタルゲインを観念せず、
収入金額とはならないというようなことではないと思います。

よろしくお願い申し上げます。