いつも大変お世話になっております。
表題の件について、ご教示頂ければ幸いです。
遺言の作成を検討しているのですが、次のような条項は有効かどうか、
また贈与税の問題に発展しないかどうかをご教示頂ければ幸いです。
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長男に財産××××(注:他の相続人よりも多い財産価値、遺留分侵害なし)を取得させる代償として、
全ての相続人が納付すべき相続税額は、長男が相続税の申告期限までに一括して納税する。
修正申告等により追加納税(加算税及び延滞税を含む。)が生じた場合も同様とする。
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どうぞよろしくお願い申し上げます。
ご質問ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
法的に判断が難しい部分が多く、少々お時間をいただきました。
1 ご質問と回答の結論
>遺言の作成を検討しているのですが、次のような条項は有効かどうか、
>また贈与税の問題に発展しないかどうかをご教示頂ければ幸いです。
>
>長男に財産××××(注:他の相続人よりも多い財産価値、遺留分侵害なし)を取得させる代償
>として、全ての相続人が納付すべき相続税額は、長男が相続税の申告期限までに一括して納
>税する。修正申告等により追加納税(加算税及び延滞税を含む。)が生じた場合も同様とす
>る。
最終的に法的にどうかという問題は、
裁判例などもない上、実務上問題となるか
は別として、
法的には、以下の理由で、
有効性がかなり疑わしいと思いますので、
個人的には、おすすめできないと
言わざるを得ないかと思います。
2 回答の理由
まず、上記遺言は、長男に全ての相続人の相続税を国へ納付する
ことを義務とするものですので、「負担付相続させる旨の遺言」
ないし、「負担付遺贈」であると考えられます。
なお、下記の条項自体の有効性の問題点をおくとしても、
この遺言を作成する場合には、
単純に他の相続人の納税額も全額納税するとするのみですと、
納付した際、長男は、他の相続人に対して、
他の相続人の納税義務の対応額について求償権を有することに
理論上はなりますので、
「代償として、その他の相続人に各相続人の相続税額相当額を
支払うものとし、支払い方法として、全ての相続人が納付すべき
相続税額を、長男が相続税の申告期限までに一括して納付する」
等とした方が良いかと思います。
(1)条項の有効性
ア 本税について
先生が「全ての相続人が納付すべき相続税額」と
されているのは、結局のところ、Aが、B・Cの
個別の納税額を負担するという定めだと、
A・B・Cの納税額が確定しないからだと思います。
(各々取得する財産を基準とするとB・Cが相続税額
相当額を受け取るとそれが取得財産になり(一方、Aの負担
額が増える)、B・Cの取得財産が無限ループしていく状態に
なってしまうという意味です。)
しかし、税法の建付上は、相続税の最終的な納税義務はあくまでも、
個別の相続人に応じて発生するものになることからすると
上記の負担をさせた場合、A・B・Cの納税義務の金額が変動し、
結局のところ、A・B・C各々の納税金額が異なる状態に理論上はなります。
実務上は、相続税の総額が変わらなければ、
国税から指摘を受けることはないようにも思いますが、
つまるところ、理論上は、全ての相続人の相続税額は、
A・B・Cの相続税額を算出した上での総額であるので、
このような適正な計算ができなくなるような
遺言が理論的に有効かというと疑義があるところかと思います。
仮に有効だとすると
上記の通り、理論上は、ただ納付をしても求償権が生じるため、
代償金として支払うという意味になるかとも思いますが、
その場合、個別の納税額が確定していないと理論上、
破綻している遺言内容となってしまうかと思います。
イ 加算税等の付帯税について
また、実務上は、相続人で一つの相続税申告を
しているように見えますが、理論上は、相続税
申告は、各相続人の申告になります。
>修正申告等により追加納税(加算税及び延滞税を含む。)が生じた場合も同様とす
>る。
という規定について、
最初に納付する金額は、他の相続人の意思に
基づいて申告した額になるのが一般的かと
思います。
のちに加算税及び延滞税が生じた場合、
長男は、他の相続人の意思に基づいた申告に
基づき納税したにも関わらず、加算税等についても、
支払いをしなければならないのか、
また、加算税も個別の相続人に課されるものであり、
そもそも個々に課税される加算税の額も
上記と同様に確定しません。
少なくともこの部分は、もはや相続人同士の問題であり、
相続の枠は出てしまっているように思いますので、
加算税等については、遺言で指定することは難しい
ように思います。
このような理論上、計算方法などに
疑義がある定め方については、そもそも履行不能な
負担を課すものとして無効とされるおそれも強いかと思います。
ウ その他代替案
例えば、完全一致はしませんが、
「各人が取得した財産について、相続税財産基本通達に
より評価した金額の〇〇%」等で、事案に応じた近似値を模索する
方法もあるかと思います。
(2)贈与税の問題
上記のような遺言が有効であると解するのであれば、
相続の問題として、贈与課税は生じないように
思いますが、
遺言を無効と考えると、単純に長男は、
その他の相続人の納付義務を履行し、
求償権を放棄したとされるかと思いますので、
その放棄を捉えて、みなし贈与(相続税法8条)
となるおそれがあるでしょう。
よろしくお願い申し上げます。