お世話になります。税理士の●●です。
数年前に出版された、とある本の作者から聞いた話なのですが、
共著で出した後、もう一人の著者が勝手にその改訂版を出し、
その作者の名前を著者から削除する、といったことがあるようです。
当初の契約は特に結んでいないようなのですが、何も断りなく勝手に
改訂版を出して共著者の名前も消す、という行為は著作権法上などの
問題はないのでしょうか。
私自身、何冊か共著を出していますので、気になりましたので
質問させて下さい。
よろしくお願いいたします。
ご質問、ありがとうございます。
弁護士法人ピクト法律事務所の永吉です。
1 ご質問と回答の結論
>共著で出した後、もう一人の著者が勝手にその改訂版を出し、
>その作者の名前を著者から削除する、といったことがあるようです。
>当初の契約は特に結んでいないようなのですが、何も断りなく勝手に
>改訂版を出して共著者の名前も消す、という行為は著作権法上などの
>問題はないのでしょうか。
一般的には
無断で共著出版物を改訂し、出版する行為は、
他の共著者の著作権、著作者人格権の侵害
になっている可能性が高いものと思われます。
なお、職務著作等
例外的にならないケースもありえますので、
回答の理由をご覧ください。
2 回答の理由
(1)著作物を共同で作成した場合
著作物を共同で執筆した場合、
共著者は、共著出版物に関して、
著作権と著作者人格権という二つの権利を
それぞれ共同で有することになります。
ア 著作権について
各共著者は、共著出版物に関しての著作権を
共同で有している状態です。
この場合、共同著作権の行使は、
共同著作者全員の合意が必要です(著作権法65条2項)。
共著出版物の改訂は、多くの場合、
著作物の翻案にあたると考えられます(同法27条)。
すなわち、共著出版物の改訂は、
翻案権の行使にあたりますので、
共著者は全員の合意を要します。
>何も断りなく勝手に改訂版を出して
これは、翻案権の行使であり、
改訂版を出版する行為は、二次的著作物の複製権、
譲渡権の行使として、著作権侵害となる可能性が
高いです。
イ 著作者人格権
各共著者は、それぞれ、共著出版物に関して、
著作者人格権を有しています。
そして、著作者人格権の行使は、
全員の合意が必要です。(同法64条1項)
共著出版物の改訂は、著作物の変更であり、
著作者人格権の行使にあたるので、
他の共著者の同意を要します。
>何も断りなく勝手に改訂版を出して共著者の名前も消す
という行為は、著作者人格権である
同一性保持権の侵害(同法20条1項)
二次的著作物にかかる氏名表示権の侵害(同法19条1項)
に該当する行為となるでしょう。
(2)同書籍の中で、担当部分が決まっている場合
よく専門書等で利用される形態ですが、
各専門家の執筆者が各項目のみ担当している
ものです(例えば判例百選等が典型でしょうか)。
この場合、著作権等の共有というわけでは
なく、その部分についてのみ各執筆者に著作権が
帰属しているということもありえます。
(作成過程の個別判断が伴いますが)
この場合には、この部分のみを削除し、
その担当箇所が削除されたことをもって、
著者名が消されてたということであれば、
著作権侵害・著作者人格権侵害とはいえない
可能性もあります。
また、同じ項目について、
別の者が担当した場合には、その内容が
著作権侵害と評価できるだけの
類似性を有しているのかという判断に
なるかと思います。
(3)職務著作について
なお、他人の指揮命令の下、
作成された場合には、職務著作に
該当する可能性もあり、その場合には、
著作権及び著作者人格権の侵害には当たらない
ことになりますので、詳細は下記をご覧ください。
基本的には雇用契約を前提にしますが、
業務委託でも適用がある場合もあります。
https://ec-houmu.com/right/copyright-syokumutyosaku
よろしくお願い申し上げます。